澪音も自分の勘違いなのかどうか分からなかった。恐る恐る声をかけた。「霧島さん、弘次さんが料理人に少し作らせたんです......召し上がってみませんか?」そう言ったあと、澪音は弥生が興味を示さないのではと心配になり、さらに言葉を添えた。「この料理人、腕前は相当だそうです。これまで食欲のない患者さんたちに食事を用意したこともあるとか。それに組み合わせもすごく独特で......霧島さん、少し召し上がってみませんか?」弥生にとって、相手の腕がいいかどうかなんてどうでもよかった。彼女は友作と話したあと、食べようと思ったのだ。食欲がわいたわけではない。生き延びるために、そしていつかここを出て子どもに会うために、どうしても食べなければならないと思ったのだ。少なくても、とにかく口にしなければ。自分を保ち続けるために。澪音が数言告げただけで、弥生はすでに手を伸ばしていた。本来ならこの時間帯、弥生はほとんど食事を口にしない。来る前、澪音も弥生が食べたがらないのではと心配していた。だが意外にも受け取ってくれたので、彼女は驚きと喜びで食べ物を差し出した。「霧島さん、見てください。この果物、とてもきれいでしょう?さっきこっそり香りを嗅いだら、とても香ばしかったです」澪音はここ数日の食事に、自分もすっかり食欲をそそられていたが、それは言わなかった。弥生に食べてもらうために、キッチンの人たちは本当に知恵を絞って工夫していたのだ。彼女が食べ物を運ぶたびに、腹の虫が騒ぎ出すのだが、弥生が口にできない姿を見ると一気に萎えてしまい、胸が痛んだ。弥生には、食事がどれほど美しく仕上がっているかなど見る余裕はない。ただ器を手に取り、一口すくって口に運んだ。澪音は期待に満ちた眼差しで彼女を見守った。しかし弥生の顔にほとんど表情はない。それを見て、また味が灰のように感じられているのだと悟り、澪音は心の中でため息をついた。どうせ数口で止めてしまうのだろう。だから彼女は横に立って、食べ終わるのを待つことにした。ところが、弥生は予想外に食べ進め、しかも止めようとしなかったのだ。澪音は思わず目を丸くした。驚きはしたものの、霧島さんが食べてくれるのは嬉しい。余計な言葉は挟まなかった。その時。弥生が突然えづき、器を置くと洗面所へ駆け込んだ。「霧島さん!」
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