そうだ。弥生も、由奈は本当にすごいと思っていた。何年ものあいだ仕事一筋でやってきたことも、このところのやり取りの中で、由奈は親友である弥生に何ひとつ隠さず話してくれた。これまで仕事でいくら貯めたのかまで打ち明け、今回帰国したら、自分で小さな店を開き、両親に店番を任せたいのだという。実は弥生も、帰国したら由奈を自分の会社に誘おうかと考えていた。親友なのだから、待遇も高くしてあげられる。でも、弥生が口に出す前に、由奈は「自分で店をやりたい」という考えを熱心に語り、具体的な話まで相談してきた。その口ぶりから、彼女の思いがどれほど本気なのかが伝わってきて、弥生はもう誘うことができなくなってしまった。もし由奈が高給を望むなら、そもそも帰国する必要はない。浩史が提示していた条件は、弥生の会社より悪いはずがなく、会社の規模も比べものにならない。何しろ浩史は、一代で事業を築き上げ、名の通った企業を率いる人物なのだから。一方、弥生の会社はまだ設立して日が浅く、とても並べるものではなかった。そんなとき、瑛介の母が何か思いついたように口を開いた。「それとも、あの子はそもそも相手を探す気がないのかしら?」弥生は笑って答えた。「仕事が忙しすぎるんだと思う」記憶を失ってからは、弥生自身も由奈の過去をよく知らず、以前なら答えられない質問だった。でもこのところ話すうちに、由奈の言葉の端々から、いろいろと察することができるようになった。特に、瑛介が弥生のために何かしてくれるたび、由奈は決まって羨ましがり、「また惚気を聞かされた」などと冗談めかして言いながら、自分も甘い恋がしたい、とこぼしていた。それを聞き続けていれば、由奈の気持ちも自然と分かってくる。「恋愛をしたくないわけじゃないなら、うちにちょうどいい人がいるんだけど、紹介してもいいかしら」その言葉に、弥生は珍しく目を丸くした。「お母さん、由奈にお見合いの話を?」瑛介の母は唇を結び、やさしく笑った。「ええ。あの子、性格もいいでしょう?ちょうど最近、なかなか良い人に会ったのよ」弥生はすぐには頷かなかった。自分自身は身分差をそれほど気にしないが、相手がどう思うかは分からない。瑛介の母の交友関係にいる人なら、きっと普通の家庭の出身ではない。も
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