由奈は大股で歩き、もうすぐ自分の部屋に着く所まで来たとき、突然腕を掴まれた。「待って」背後から、きちんとした低い声が聞こえた。浩史だった。腕を引かれたままでは前に進めず、由奈は足を止めたが、振り返ろうとはしなかった。「あのう、もし私の記憶が間違っていなければ、私はもう退職しています。もし再び雇いたいのなら、正規の手続きを踏むべきです。家まで来て、しかも二階まで追いかけてくるなんて......いったい何がしたいんですか」背後でしばらく沈黙が落ち、やがて声がした。「何がしたいかなんて、数日前にもう分かっているはずだろ」そう言って、少し間を置いた。「それとも、君の前でもう一度言ったほうがいいか?」その言葉で、由奈は何を言われるか察し、慌てて遮った。「言わなくていい!」その切迫した反応に、浩史はわずかに眉をひそめ、数歩近づいてきた。「どうして、そこまで拒むのか?」冗談じゃない。どうして拒むかって?由奈は無理に口元を引きつらせ、力なく答えた。「理由なんて、浩史さんには分かってるはずでしょう」「分からない」「私たちは、住む世界が違うんです」「ほう?」浩史は眉を上げた。「君はどの星に住んでいるんだ?」その一言に、由奈は反射的に振り向きかけたが、朝からまだ顔も洗っていないことを思い出し、慌ててまた顔を背けた。「意味、分かってるでしょう」「どういう意味だ?」浩史は目を細めた。「同じ星に住んでいるのに、どこが別世界なんだ」「とぼけてるんですか、それとも本気で分からないんですか。あなたが生きている世界で会う人と、私の世界で会う人は違います。仕事のリズムも違うし、価値観だって違います」そこまで一気に言い切ったが、浩史からの返事はなかった。きっと、ちゃんと聞いてくれたのだろう。もう、これ以上言う必要はない。そう思って立ち去ろうとした、そのとき。「......どうして、話すときに僕の顔を見ない?」浩史は彼女の肩に手をかけ、こちらを向かせようとした。何をされるか察した瞬間、由奈は一気に緊張し、反射的に両手で顔を覆った。「離してください」顔を隠す彼女を見て、浩史は不思議そうな表情を浮かべた。「どうして顔を隠すか?僕を拒むにしても、顔すら
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