飛行機に乗る直前まで、由奈は瑛介の電話を一度も繋げることができなかった。「もうあり得ない。弥生、なんであんな男を好きになったのよ? こんな時に電話も出ないなんて......これならまだ弘次と一緒の方がマシよ。弘次は少なくとも、電話には出るわよ」危険な状況下での移動ということもあり、由奈の気持ちは複雑だった。何度電話をかけても出ない瑛介に、怒りは募る一方だった。心の中では思いきり彼を罵り、弥生のために憤りを燃やしていた。長年彼女と仕事を共にしてきた浩史でさえ、こんなに取り乱した由奈を見るのは初めてだった。「少しは落ち着けよ。何か事情があって電話に出られないのかもしれない」「何の事情よ? こんなに何回も電話してるのに一度も出ないなんて、どんな理由があるの? いくら忙しくたって、一回くらい出られるでしょ? こんな男、信用できないわ。理由が何であれ、私が弥生に会ったら、絶対に説得する」浩史は唇を動かし、何か言おうとしたが、結局は何も言わなかった。この状況で自分が何を言っても、彼女の心には届かないだろう。危険に晒されているのは彼女の大切な親友なのだから、いくら共感しても、それは本当の痛みではない。それに、内心では浩史も由奈の言い分に同意していた。こんな時、自分が頼りたいと思う相手が、何の役にも立たなかったら、誰だって失望する。ましてや、それが人生の分かれ道のような瞬間だったら。飛行機の出発前、乗務員が携帯電話の電源を切るよう乗客に促して回っていた。由奈は最後の望みにかけて、もう一度だけ電話をかけたが、やはり出なかった。そこでようやく彼女は、弥生に頼まれていた伝言を果たすために、瑛介にメッセージを送信した。送信完了を確認してから、やっとスマホの電源を切った。浩史が彼女に尋ねた。「......やっぱり出なかったか?」「うん」由奈は無表情で答えた。「とりあえずメッセージは送ったし、このフライトは長いから。着く頃には、さすがに起きてるでしょ」瑛介に対して怒りは残っていたが、それでも弥生に頼まれたからには、責任を果たすつもりだった。弥生がいるホテルで。電話を切った後、弥生はすぐにSIMカードを取り外してトイレに流し、元のSIMに入れ替えた。一度はラインに再ログインしようとしたが、ログイン通知
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