電話を切ったあと、弥生の気持ちはすっかり変わっていた。一時間後には、もう由奈がそばにいてくれることになっている。でも、心の中で待ち望んでいたあの人は、ずっと現れなかった。由奈が連絡できなかったのか、それとも彼は、知っていても面倒に思って来たくなかったのか。いろいろ考えて、弥生の胸は締めつけられるように苦しくなった。でもすぐに気を取り直し、目の前の少女にスマホを返し、礼を言った。「ありがとうね」少女は、スマホを貸したときには正直ちょっと不安だった。騙されるんじゃないかとでも思った。でもちゃんと返ってきたのを見て、ほっとしたように唇を引き結び、スマホを受け取った。それから隣にいるひなのと陽平を見て、小さな声で聞いた。「ここでちょっと遊ばない?」弥生は、彼女が一人でいることに気づき、一瞬うなずこうとしたが、すぐに思い直した。ここには長くいられない。「パパが迎えに来るから、もうすぐ行かなくちゃ。スマホ貸してくれたお礼に、これあげる。ゲームで使ってね」少女は首を振った。「大丈夫。当たり前のことをしただけだから」弥生は彼女の頭を優しく撫でた。それでも結局、友作から受け取ったお金を一枚差し出した。「受け取って。これはお礼の気持ちだから」少女は少し迷ったが、受け取った。「それとね、君、一人で出てきたの?こんな遅い時間は気をつけて。電話を貸すときも、不安なら無理に貸しちゃだめ。世の中には、私たちみたいな人ばかりじゃないからね」騙されたりしないか心配になって、弥生は少し真面目な口調で伝えた。すると少女は唇を引き結び、こう言った。「でも......もし貸さなかったら、あなたたちは家に帰れなかったんでしょ?」その言葉は、弥生の心を強く揺さぶった。「ほんとにありがとう。いい子ね。もう帰りなさい、気をつけてね」でも少女はまだ、名残惜しそうに彼女たちを見ていた。弥生はこれ以上ここにいられないと判断し、立ち上がってふたりの子の手を取った。「じゃあ、行くね」「どこに行くの?近くに住んでるの?また会えるかな?」弥生が答えようとしたとき、ひなのが口を開いた。「お姉ちゃん、おうちに着いたら電話してあげるね」それを聞いて、少女の目がぱっと輝いた。「本当?また連絡くれるの?」「うん!」ひなのは元
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