こうして弥生は再びオフィスに戻された。窓辺や出入口には警備されていた。この光景は、側から見るとまるで裏社会のボスの女でもそこにいるかのように見えるだろう。彼女はまったく仕事に身が入らず、スマホをずっと手に持ったまま、どんな通知も逃すまいとしていた。とはいえ、完全に手が止まっていたわけではなく、途中で何度か気を奮い起こし、いくつかの業務はこなした。その合間に健司から飛行機に搭乗したとのメッセージも届いた。飛行機に乗ったら、もうしばらくは連絡が取れない。弥生は彼が無事に着くのを待つしかなかった。午後はずっとスマホは静かだったが、ちょうど彼女が帰り支度を始めたとき、ようやく着信音は鳴った。反射的に画面を見た彼女の目に飛び込んできたのは、見知らぬ海外の番号だ。誰?深く考える間もなく、弥生はすぐに通話を繋いだ。「もしもし?」心の奥では、瑛介からの電話であってほしいと願っていた。何らかの事情で今はこの番号からしかかけられない、そんなふうに無事を知らせてくれるだけでよかった。でも、彼女は名を呼ぶのをためらった。「やっぱり、またその番号に戻したんだね」しかし耳に届いたのは、どこか冷えた優しさを帯びた、別の声だった。その声は、弥生の全身を冷たい感覚が駆け抜け、口を開こうとした瞬間、相手が続けて言った。「前にあげた新しい番号、使いづらかった? 弥生」その声からは冷気のようなものが滲み出ていて、まるでスマホ越しにその冷たさが肌に染みてくるようだった。「それとも、番号の末尾が気に入らなかった? じゃあ、別の番号にしようか?」ようやく我に返った弥生は、唇を噛みながら問い返した。「......何が言いたいの? そんな話して楽しい?」彼女の表情を見た護衛たちはすぐに警戒し、彼女の周囲を囲んだ。「ふふ......」スマホの向こうでは弘次の軽やかな笑いが響いた。「いいよ、退屈だって言うなら、少し面白い話でもしようか?」その言葉に、彼女の胸がきゅっと締めつけられ、まぶたがぴくりと動いた。「何のつもり?」「だって話題がつまらないって言われちゃったし、変えようと思って」弥生は黙って息を潜めたまま、話の続きを待っていた。そばにいた護衛のリーダーが、助けが必要かと目配せを送ってきたが、彼女は小さく首
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