Semua Bab 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私: Bab 1001 - Bab 1010

1482 Bab

第1001話

修は、ずっと侑子のそばにいて、彼女の検査を見守っていた。 ただ、心ここにあらずという感じで、どうしても―若子の哀しげな顔が頭から離れなかった。 「修、顔、大丈夫?医者に見てもらった方がいいんじゃない?」 侑子は心配そうに言う。 「もう腫れてきてるし」 修は軽く首を振りながら答える。 「大丈夫だよ。あと二日もすれば治るし、心配しないで。今はお前が一番大事だから」 侑子は、修の言葉を耳にし、心が温かくなった。 「そうだ、修。昨日、私に約束したよね?今日も検査を受けるって。じゃあ、先に行ってきて。二人で一緒にやろうよ」 修は少し迷った後、優しく言った。 「大丈夫だよ。お前が終わるまで待つよ。お前を見守ってるから」 「修、いいから先に行って。結果を待つのは一緒にするんだから、時間を無駄にしないで」 侑子は修の体調が心配で仕方なかった。 彼がしっかりと健康でいなければ―それが彼女の未来を支えるためにも必要なことだ。 この男が元気でないと、どうするんだろう― 修は、侑子が少しでも安心できるよう、そっと彼女の髪に手を置いた。 「わかったよ。今すぐ行くから、お前はここで待ってて。医者がちゃんと見てくれるから安心して」 侑子がいるのはVIP病室。最高のケアを受けられる場所だ。 それがあるから、修も少しだけ心が軽くなった。 「いってらっしゃい。何かあったら、すぐに電話するからね」 修は彼女の額に軽くキスをしてから、部屋を出て行った。 侑子はベッドに横になり、ふと窓の外に目を向け、深く息を吐き出す。 ―私はこんなに頑張ってるんだから、きっと天は私を見捨てないはず。 口元に、ほのかな自信を浮かべた笑みを浮かべながら。 しばらくして、携帯電話の着信音が鳴り響いた。 侑子はスマホを手に取った。 画面に表示されたのは、見覚えのない番号。 少しだけ首をかしげながら、通話ボタンを押す。 「はい」 「山田さん、俺だ」 その声を聞いて、侑子の表情が一瞬変わる。 楚西也―彼の声だった。 「遠藤さん......どうして、私の番号を?」 「お前の番号を調べるなんて、簡単なことだ」 そう言われて、侑子はすぐに察した。 ―紙、見たのね。 自分が渡したあの紙切れが、ちゃんと
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第1002話

「そうですよ、最初はそう思っていました」 侑子は冷ややかな口調で続ける。 「あなたがあんなことをしたと知って、本当に憎くて、できることならアメリカの刑務所で一生出てこられなければいいとすら思っていました。 でも、よくよく考えてみたんです。もしあなたが本当に捕まってしまったら、松本さんはまた『独り身』になるんですよね? そうなれば、修には山ほど理由ができます。きっと彼女と「やり直す」って言い出すはずです。そうなったら―私が捨てられる可能性も出てきます。 だから考えたんです。あなたが捕まらず、松本さんのそばにい続けてくれた方が、私にとっても都合がいいって。 ......『あなたのため』じゃなく、『私自身のため』に、そう決めたんです」 その言葉に、西也は長く沈黙した。 ―確かに、理屈としては通っている。 けれど、西也の性格は疑い深い。それだけで納得するわけがなかった。 「......俺は、なんでお前の言うことを信じなきゃならない?もしこれが罠で、俺をはめるための芝居だったらどうする?」 「信じなくても構いません」 侑子は淡々と返す。 「ただ、修は病院から出たらすぐに警察に証拠を提出します。そして私も証言します。 修は一流の弁護士を雇いました。あなたを本気で『牢の中に叩き込む』つもりなんです。 信じるも信じないも、あなた次第です。信じないなら、そのまま何もしないでいてください。そのうち、警察が迎えに来ますから」 再び、通話口から沈黙が返ってきた。 侑子の耳には、明らかに荒くなった西也の呼吸音が聞こえていた。 しばらくして― 「......もしお前が俺を騙してたら、絶対に許さないからな」 「遠藤さん、ひとつだけ申し上げておきます。 あなたが私を『許さない』ということは、つまり―修と松本さんを近づけることになります。 私たちはお互いを嫌っているかもしれませんが、お互いにとって『有益な存在』でもあります。 松本さんのそばにあなたがいれば、修は近づけない。そして、修のそばに私がいれば、松本さんに近づけない。 私たちが協力し合えば、それぞれの『愛する人』を守ることができるんです。 それでも、どうしても私を敵に回したいというのなら―仕方ありません。でも、遠藤さんほどの方なら、そんな愚かな
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第1003話

「修、検査の結果がどうであっても―もう、胃を無理させちゃだめよ」 侑子は修の大きな手を握りしめ、その手をそっと自分の頬にあてた。 「もうあなたには、私がいるのよ。私のためにも、自分の身体を大事にして。もう、そんなふうに好き勝手に傷つけるのはやめて」 修は小さく頷いた。 「......ああ、分かった。約束する」 「修......ねぇ、少しだけでいいから、ベッドで抱きしめててくれる?なんだか、急に心細くなっちゃって」 弱々しく頼むその姿に、修は逆らえなかった。 「分かった。じゃあ、横になろうか」 修は手元のリモコンを操作して、病床の背を少しずつ倒していく。 侑子がそっと横になると、修もその隣に静かに身体を横たえ、優しく彼女を抱き寄せた。 侑子は修の顔を両手で包み込み、そのまま目を閉じ、唇を重ねた。 修も彼女の後頭部に手を添え、熱を帯びたキスを返す。 ―その唇から、互いの温もりが流れ込んでくる。 修のキスは、次第に深く、激しくなっていった。 ...... その頃― ヴィンセントはついに、命の危機を脱し、意識を取り戻した。 今はすでに一般病棟へと移されていた。 窓から差し込む陽光が、静かな病室をやわらかく照らし、穏やかな空気が満ちている。 ベッドに横たわるヴィンセントは、ゆっくりと身体から疲れが抜けていくのを感じていた。 そして、視線の先には―若子の姿。 彼女はずっとそばに座っていた。 その顔には、まだかすかに不安の色が残っていたが、彼が目を覚ました瞬間、ふっと力が抜けたように安心の笑みが浮かぶ。 その瞳には、安堵と喜びが柔らかく灯っていた。 「冴島さん......やっと目を覚ましたのね」 若子の笑顔は、まるで太陽の光そのもの。見る者すべての心を温めるような―そんな優しさに満ちていた。 千景は、一瞬、動揺したように目を見開く。 「今......俺のこと、なんて......?」 若子は、微笑んだまま答えた。 「冴島さん。そう呼んでって、あなたが言ったでしょ?だから私は、ずっとその名前を覚えてたの。一生、忘れたりなんかしないわ」 その言葉を聞いて― 千景の唇の端に、やさしい笑みが浮かんだ。 彼は―少しずつ、この「名前」を好きになっていった。 ずっと
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第1004話

「......ありがとう。俺を見捨てないでいてくれて。ずっと、信じて守ってくれて......そして、神様に祈ってくれて、ありがとう」彼はひどくやつれた顔をしていた。まるで、果てしない苦しみを乗り越えてきたかのように。それでもなお、彼の持つ凛とした美しさは失われていなかった。憔悴のせいで目元に陰りはあったけど、瞳の奥には確かな意志が宿っていた。深く暗いその瞳は、まるで底知れない謎を秘めた世界のようだった。若子は、ほんの一瞬きょとんとした。「......どうして、私が神様に祈ったって知ってるの?」「勘だよ」彼はふっと口元をほころばせた。その笑顔は、儚くも優しかった。若子も、そっと微笑み返した。―まあ、確かに。そんなの、分かる人にはすぐ分かるかもしれない。「でも......どんなことがあっても、君がこうして目を覚ましてくれて本当によかった。本当に、ごめんなさい。修も西也も、あなたを傷つけたこと、彼らだって知らなかったの。ただ、私のことを心配しすぎて......二人に代わって謝るわ。それから、安心して。治療費も、これからの補償や看護も、全部私が責任を持つから。あなたは何も心配しないで」「二人とも、相当君のこと心配してたみたいだな」「ええ......二人とも、本当に私のことを心配してくれてた。でも、今は色々こんがらがってしまって......本当にごめんなさい」若子が深く頭を下げると、千景は首を振った。「謝る必要なんてないよ。誰かに守られてる君を見て、俺は安心した......マツには、俺しかいなかったからな。俺が倒れたら、もう誰も彼女を守れなかった」その名前を口にした途端、千景の瞳にはまた悲しみが色濃くにじんだ。その悲しみは、どんなに時が経とうとも、きっと消えることはないだろう。若子はそっと言葉をかけた。「マツは、今はもう悲しみも苦しみもない場所にいるわ。きっと、天国に行けたと思う。それに、あなたが無事だったのはきっとマツが守ってくれたから。彼女はあなたに、悲しんでほしくない。幸せに、生きてほしいって、絶対に思ってる」「......もし、俺が一生、幸せになれなかったら?」千景は悲しげに言った。「ずっと、痛みと絶望の中にいたら......どうしたらいいんだ?」「そんなことない」
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第1005話

「違うんだ、若子......会社でトラブルがあって、かなり急ぎなんだ。俺、すぐに国に戻らなきゃならない」 「そうなの?どんなトラブル?」 「一部の株主たちが騒ぎ出してるらしくてさ......詳しいことは戻ってみないと分からないけど。 お父さんからもすぐに帰ってこいって連絡があった。たぶん、俺がこの間事件に巻き込まれたせいで、継承問題に不安を感じた連中が、権力を奪おうとして動き出したんだと思う」 若子は眉をひそめ、顔つきを引き締めた。 「......西也、それじゃあ絶対に戻らなきゃいけないのね。いつ出発するの?」 「今すぐだ」 「えっ、今すぐ?そんなに急いで?」 西也は静かにうなずいた。 「ああ。もう飛行機の準備はできてる。すぐにでも飛ばないと」 彼はそこで一呼吸置いて、まっすぐ若子を見つめた。 「若子、お前も一緒に帰るか?」 若子は少し考えてから、かすかに首を振った。 「西也、私は一緒には帰れない。まだ冴島さんの世話をしなきゃいけないし......学業も途中なの」 西也は小さくため息をついた。 「......だよな。お前なら、そう言うと思った。でも、俺は行かなきゃ」 若子はしっかりと西也を見上げて言った。 「大丈夫よ、西也。安心して戻って。私、ここでちゃんとやっていくから」 「......暁は?暁も一緒に連れて帰ろうか?」 「暁は......ここに残して。私が面倒見る」 「お前が?」 西也はちょっと困ったような顔をした。 「......それは無理だろ。お前は冴島の看病もあるし、大学にも行かなきゃならない。子どもまで一緒に世話するのは、さすがに大変すぎる。家なら、ちゃんと面倒見てくれる人もたくさんいるしさ。 若子......気持ちは分かるよ。でも、『寂しいから』とか『離れたくない』って理由で無理をして、結局子どもを放っておくことになったら......それこそ本末転倒だ」 「でも......」 若子は言葉に詰まった。 本当は、子どもと離れるのが辛かった。 けれど、今は―考えなきゃいけない。 子どもにとって、一番いい選択を。 「西也......それじゃあ、またアメリカに戻るつもりはないの?治療だってまだ終わってないでしょう?」 若子が不安そうに問いかける
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第1006話

西也は、千景を見つめながら、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。 その視線には、深い後悔の色が滲んでいる。 千景は淡々と言った。 「気にするな。若子を守る気持ちがあるなら、それで十分だ」 西也は目を細め、瞳の奥に鋭い光を浮かべた。 ―なんだよ、若子を守る気持ちがあればそれでいい、って。 そんなの、当然だろ。 それに、なんでヴィンセントにそんなこと言われなきゃなんねえんだ?若子は俺の妻だ。ヴィンセントには関係ない。 偉そうに説教してんじゃねえよ―そう思ったが、西也は顔には何も出さず、ただにっこりと笑った。 「じゃあ、ゆっくり休めよ。俺は先に行く」 一瞬だけぎらりと光った西也の眼差しを、千景はしっかり捉えた。 だが、それを顔に出すことはなかった。 ...... 若子は西也と一緒に自宅へ戻った。 子どもは、まだ家にいた。 若子は、別れを惜しむようにぎゅっと抱きしめた。 空港へ向かう車の中でも、若子はずっと子どもを抱きしめたままだった。 胸が苦しくてたまらない。 「ごめんね......ママ、ちゃんとそばにいてあげられなくて。それに、また離れなきゃいけない。でも、大丈夫。アメリカでの用事が終わったら、すぐに帰るから」 「ごめんね、許してね。ママ、今すごく忙しくて......ごめんね」 若子は子どもの小さな顔に、何度も何度もキスをした。 「ごめんね......」 時間はあっという間に過ぎ、空港に着いたとき、若子はとうとう涙をこぼした。 「西也......やっぱり暁を置いていかないで。連れて帰ろうよ」 「若子、感情に流されるな」 西也はそっと彼女の頭を撫でた。 「子どもをここに置いていくのは、お前に時間がないからだ。無理して連れて帰ったって、子どもにとって良くない。それに、俺を信用できないのか?」 「西也......信じてる、信じてるよ。私......ただ、子どもと離れるのがつらくて......この何ヶ月、まともに面倒も見られなかった。ほんとに、情けない......」 「お前のせいじゃないよ。ちゃんとこの子を産んでくれただけでも、十分すごいんだ」 西也は優しくそう言った。 「もし本当に子どもと離れたくないなら......一緒に帰国しよう。ヴィンセントのことは、こ
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第1007話

若子は小さくため息をついた。 「西也、心配しないで。修とふたりきりで会うなんて、絶対にないわ。あの人のそばにはもう山田さんがいるんだもの。私たちがこれ以上関わる理由なんて、どこにもないわ。安心して帰国して」 西也はじっと若子を見つめ、静かに言った。 「若子、約束してくれ。もう二度とあいつを信じたりしないって......俺、本当に怖いんだ。お前が傷つけられるんじゃないかって」 若子は力強くうなずいた。 「分かってる。もう、すべて見えてるから。大丈夫よ。あなたはあなたのことに集中して」 西也は最後に、彼女をしっかりと抱きしめた。 別れの抱擁だった。 まもなく、飛行機の時間が迫っていた。 西也は子どもを腕に抱え、そのまま搭乗口へと向かった。 若子は、彼らの姿が見えなくなるまでじっと見送った。 堪えきれず、ぽろぽろと涙が溢れた。 ―本当は、一緒に帰りたかった。 でも、ここには怪我をしている千景がいる。自分にはまだ、終わっていない学業もある。 だから、心を鬼にして、あと数ヶ月だけ、アメリカに留まるしかなかった。 若子はぼんやりとした足取りで病院へ戻った。 千景は彼女が戻ってきたのを見つけると、ふわりと優しい笑みを向けた。 「おかえり」 「うん......さっき、西也と暁を見送ってきたの」 若子は力なく答えた。 「すごくつらそうだね。どうして一緒に帰らなかったんだ?......俺がいるから?」 千景の言葉に、若子は首を横に振った。 「それだけじゃないの。まだ学業が終わってないし、ここで諦めたら、また最初からやり直しになっちゃう。せっかく掴んだチャンスだもの......このまま頑張りたい。でも......子どもには、本当に申し訳ないことをしてる。産んだだけで、ろくに面倒も見てあげられなかった......」 若子はうつむいた。 千景はそっと言葉をかけた。 「若子、自分を責めるな。君の選択は間違ってない。子どもを産んだからって、自分を捨てる必要はない。向こうには西也がいる。子どもは大丈夫だ。心配するな」 そう優しく励まされて、若子の心は少しだけ楽になった。 「ありがとう、冴島さん......そしてもう一度、西也に代わって謝るね」 千景はぽつりと言った。 「もう過ぎたこと
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第1008話

忘れてしまったのも、無理はなかった。 体調が思わしくない今、何かを言いかけて、ふと忘れてしまうこともある。 たぶん、それほど重要なことじゃなかったのだろう。 もし本当に大切な話なら、簡単には忘れないはずだ。 若子が傍にいて、甲斐甲斐しく世話を焼く姿を見ながら、千景の胸には言葉にできない想いが渦巻いていた。 ―若子、もし俺が、君を好きになったらどうする? そう、あのとき、言おうとしていたのはその一言だった。 心の中に抑えきれない衝動が湧き上がった。 けれど、その瞬間に西也が現れて、その想いは押し込められてしまった。 そして今になって、千景は気づいた。 ―仮に、伝えたところで、どうにもならなかっただろう。 若子には夫がいて、子どもがいる。 幸せな家庭がある。 自分は―ただの逃亡者にすぎない。 自分の家族すら守れなかったような男に、人を愛する資格なんて、あるはずがない。 若子が笑っていられるなら、それでいい。 これ以上、彼女に重荷を背負わせたくなかった。 修と西也だけでも、十分に彼女を苦しめている。 自分まで、そこに割り込む必要なんてない。 ...... その頃― 侑子の検査結果が、ようやくアメリカの病院から出た。 結果は、やはり心臓移植が必要だというものだった。 心臓は世界中でも非常に希少なものだ。 適合するドナーを見つけるのは、決して簡単なことではない。 それまでは、薬と定期的な検査で持ちこたえるしかない。 処方箋も出されたが、修のもとには別の厄介な知らせが届いた。 主治医からの電話。 診断結果を聞くうちに、修の顔色はみるみる険しくなり、疲れきったように眉をひそめた。 医師の言葉が耳に重く響く。 ―検査の中で、腫瘍が見つかりました。ただ、それが良性か悪性かは、まだ分かりません。 不安と焦燥が、修の胸にずしりとのしかかってきた。 その知らせは、まるで重たい爆弾のように修の胸に落ちた。 恐怖と不安で、全身が冷たくなっていく。 「俺の胃の腫瘍って......酒とか、悪い生活習慣のせいですか?」 修はかすれた声で訊ねた。 国内にいたとき、すでに医者から酒を控えるよう忠告されていた。 なのに、自分はそれを無視して、身体をボロボロにし
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第1009話

修はしばらく黙り込んでから、口を開いた。 「このこと......まだ俺の彼女には知らせないでください」 「分かりました、藤沢さん」 医師はうなずいた。 「俺にはまだ、片付けなきゃいけないことがあるので。それが終わってから、組織検査を受けます」 そう、まずは西也の件を片付けなければならない。 修は主治医のオフィスを出て、侑子のもとへ戻ろうと廊下を歩いていた―そのとき。 前方に、若子の姿を見つけた。 ふたりの間には、十数メートルほどの距離があった。 目が合う。 しかし、若子は何もなかったかのように、静かに歩き出した。 修のすぐそばを、すれ違うように通り過ぎようとする。 ―もう、彼女と話すべきことなんて、何も残っていなかった。 「遠藤と、ちゃんと別れを済ませておけよ」 修の声が背中に届いた。 若子は足を止め、ゆっくりと振り返る。 「......それ、どういう意味?」 若子が険しい顔で問い返すと、修は淡々と答えた。 「あいつ、捕まるんだ。だから、もうあまり時間がない」 若子の顔色が一瞬で強張った。 「......なんで、そんなことに?」 「アイツ、俺と侑子を殺そうとして、俺の家に銃を持って押し入った。住居侵入、殺人未遂―どちらも重大な罪だ。俺は警察に通報する。もう弁護士も手配した......逃げられないよ」 「でも......そのことなら、もう終わったはずでしょ?どうして今になって訴えるの?」 若子は顔を曇らせた。 修は、苦々しく口角を引きつらせた。 「終わっちゃいない。もし今回見逃したら、あいつはまた同じことをやる」 「でも、西也は......ただ、ちょっと感情的になっただけ。殺すつもりなんてなかったのに......どうしてそこまで......」 「若子」 修は、きっぱりと言葉を遮った。 「どうして、あいつの言葉だけ信じて、俺のことは信じない?」 若子は冷たく笑った。 「修、じゃあ私が聞くけど......どうして、あなたは桜井さんの言葉だけ信じたの?どうして、山田さんの言葉ばかり信じて、私の言葉は信じなかったの? その理由が分からないって言うなら、教えてあげる。 それは、私たちの間には、最初から信頼なんてなかったからよ。 十年以上一緒にい
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第1010話

「知らない!」 若子は苦しそうに叫んだ。 「西也をあんな目に遭わせたのがあなただったかなんて、私には分からない。でも......でも、西也が意識もないまま病院のベッドに横たわってたとき、あなたは私に、彼の命を諦めろって迫った。それだけは、間違いなく事実よ!」 その言葉を聞いた瞬間、修の胃に鋭い痛みが走った。 握りしめていた検査結果の紙がくしゃりと歪む。 だが、胃の痛みよりも―心の痛みの方が、何倍も辛かった。 「若子......なら、俺を恨めばいいさ」 修は低く、疲れた声で言った。 「今回は絶対に、あいつをアメリカで刑務所送りにする。あいつがやったことには、それ相応の代償を払ってもらう」 もはや、何も説明する気力はなかった。 ただ、疲れた。 若子がどれだけ必死に西也を庇おうとも、それがふたりの関係の答えなのだろう。 修が歩き出そうとしたとき、若子が必死に彼を呼び止めた。 「待って......修、お願い。お願いだから、西也を許してあげて」 「俺を殺そうとしたやつを、許せって言うのか?」 「違う!そんなつもりじゃなかったの。あのときだって、彼はただ私を探して焦ってただけ。殺そうなんて、思ってなかった」 「離せ!」 修は力ずくで若子の手を振りほどいた。 「若子......俺はお前に、心底失望した」 「私だって、あなたに失望した!」 若子の目には、涙が滲んでいた。 「修......私と西也は、もう結婚してるの。もし彼が刑務所に行ったら......私、どうすればいいの......?」 焦りと絶望に押されるまま、若子は口走った。 修は、それを聞くと冷たく笑った。 「そんなに未亡人になるのが怖いのか?」 「心配するなよ、若子。お前はまだ若くてきれいだ。きっとまたすぐ、新しい男が見つかるさ」 ―パシン! 若子の手が、修の頬を打った。 前とは反対側の頬だった。 「......最低」 まるで、若子が新しい男を探すために必死になっているみたいな言い方だった。 そんなふうに言われる筋合いなんて、どこにもないのに― たとえ、西也との結婚が形だけのものだったとしても― ここまで来てしまったのは、いろんなことが重なった結果だった。 でも、修と別れたあと、若子は誰か
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