Semua Bab 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私: Bab 971 - Bab 980

1099 Bab

第971話

修にとって、若子が西也を責める姿を見るのは、これが初めてだった。 彼は腕を組みながら二人を見つめ、目の奥に一瞬だけ安堵の色を浮かべた。 ―もしこれが昔だったら、若子は絶対に真っ先に西也をかばってた。 でも、今は違う。彼女は西也を守らなかった。 それだけで、少しだけ救われた気がした。 だけど同時に、不安の方が大きかった。 若子が西也をかばわなかったのは、ヴィンセントの存在があったからだ。 11年も一緒に過ごしてきた自分との関係すら壊して、西也をかばった若子が―たった数日で、ヴィンセントのために西也すら突き放すようになった。 それが、何より恐ろしかった。 ヴィンセントはまるで強引に入り込んでくる侵略者のように、既存の人間関係を簡単に壊してしまう。 「若子、お前......俺のこと、責めてるのか?」 西也の声は震え、目を見開いて彼女を見た。 「責めてるかって?ええ、そうよ。責めてるわ」 若子は疲れた表情で言った。ほんとは、こんなこと言いたくなかった。 でも、どうしても感情を抑えきれなかった。 物事がここまでぐちゃぐちゃになって、それでも「全部お前のためだ」なんて顔して、どんどん余計なことをして、混乱ばかりで、結局一番迷惑を被るのは若子だった。 「若子、あのときはお前が危ないって思って......電話で問い詰めるわけにはいかないだろ?もしそばに誰かいたらって思ったら......だから俺は、こっそり探しに行っただけで......俺だって、お前が心配だったんだ。理解してくれよ......それに、お前が夜に出かけたとき、俺には行き先がわからなかった。考えられるのは藤沢だけだった。そして実際、お前は彼に会ってた。お前の失踪は直接彼のせいじゃないかもしれないけど、彼と会ってなければ、そんなことにはならなかったんだ!」 「あなたが心配してくれてたのはわかってる。でも、自分のミスを正当化しないでよ!」 若子の声が一段と強くなった。 「西也......あなたといると、ほんと疲れる」 「......っ」 その一言が、西也の胸に深く突き刺さった。 「ミス」とか「疲れる」なんて―若子の口から、そんな言葉が自分に向けて出てくるなんて、思ってもいなかった。 彼は信じられないような表情で、ただ彼女を見つめるしか
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第972話

修の声は驚くほど冷静だった。西也のように感情をむき出しにすることもなく、彼の言葉には一分の隙もなかった。 どこか、堂々として見えた。 その落ち着いた姿を見て、若子はふと、疲れを覚えた。 修と西也の喧嘩なんて、これが初めてじゃない。もう何度もあった。前なんて、レストランで暴れて警察沙汰になったことすらある。 どちらの肩を持とうと、結局ふたりの間の確執は終わらない。今回の乱闘だって、どうせこれが最後にはならない。 「修、西也、あなたたちもう大人でしょ?自分の行動には自分で責任持ちなよ」 若子の声には、明らかに苛立ちが混じっていた。 「また喧嘩して、これで何回目?私はもう知らない。どっちが先に手を出したとか、正直もうどうでもいい。やりたきゃ好きに殴り合えば?先に殴った方が、もう一発食らう。それでチャラにしなよ。私はあなたたちの母親じゃないの。毎回毎回、警察に駆けつけて後始末して......そんなの、もうごめんだから!」 西也は口を開けかけたが、若子の鋭い一言でぐっと黙り込んだ。 なにか言いたそうな顔をしていたけれど、その勢いはすっかり削がれてしまった。 彼の視線は自然と修に向き、そこに溜まった怒りの矛先をぶつけるように、じろりとにらみつけた。 ―でも、今回、若子は西也をかばわなかった。 修はそれを見逃さなかった。彼にとっては、これが逃せないチャンスだった。 「若子」 修が一歩前に出て、静かに言った。 「なんで俺の話は聞かない?どうして俺が西也を殴ったのか、その理由を考えてくれたことある?」 「藤沢、また話を捏造するつもりか?」 西也がすかさず口を挟んだ。 「捏造?お前、ビビってるのか?若子に話されるのが、そんなに怖いか?」 修は口元だけで笑って、続けた。 「お前、若子には言わないつもりだったんだろ?......あの夜、お前がどんな風に俺の家に乗り込んできたか。銃を持った連中を引き連れて、俺のこめかみに銃口突きつけたよな」 「な―」 若子が目を見開いた。 「西也......それ、本当なの?」 西也は眉をひそめて、必死に否定する。 「若子、違う!誤解だ、そんなことするわけない。確かに何人か連れて行ったけど、それは俺のボディーガードだよ。あくまで護衛で、武力を使うつもりなんてなか
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第973話

若子のその言葉は、どちらにも肩入れしない「中立」なものだった。 誰が正しいのか、彼女にはわからなかった。だって、その場にいなかったから。修の言い分も、西也の言い分も、どちらも聞いてみれば筋が通っているように思える。 ただ、どちらも誤解していただけだったら―そう願わずにはいられなかった。 西也は修のことを誤解していて、修も西也の護衛が武器を持っていたことで、逆に西也を疑った。ふたりの関係はもともと悪くて、敵意に満ちていた。だから、極端な判断をしてしまったとしても不思議じゃない。 「こいつは本当にやったんだ。侑子まで捕まえて、あと少しで殺されるところだったんだぞ」 修の声には怒りと悔しさが滲んでいた。 だけど、若子の中でその言葉は、ただの「誤解」に聞こえてしまった。 彼女にとっては、現場にいなかった以上、どちらかを一方的に信じることはできなかった。 それでも―自分の命をかけてくれた修の言葉を、疑ってしまっている自分に、彼はきっと傷ついている。 離婚してしまった今、彼女はもう修の味方ではない。 かつてなら、迷わず彼を信じていたはずなのに。 「濡れ衣だ!」西也が激しく声を上げた。「若子、こいつの言うこと信じるな!こいつは嘘をついてる!それに、もし俺が本当に殺すつもりだったら、こいつなんて今こうして立ってられないだろ?あの時、屋敷に彼は一人だった。俺が殺そうと思えば、簡単にできた。でも、やらなかった!」 「それは、お前が油断してたからだ。俺が隙を見て銃を奪い返して、逆転したから助かっただけだ。あのままじゃ、俺も侑子も、確実に殺されてた。お前が死体を処理してしまえば、誰にもバレなかったはずだ」 「お前、よくもそんなでたらめ言いやがって!」 西也は怒りを抑えきれず、若子に向き直った。「若子、お願いだ、信じてくれ。俺がどんな人間か、お前ならわかってるだろ?こいつこそ、俺を殺そうとした張本人だ!」 「お前、忘れたのか?前に俺が事故に遭った時、こいつも含めて全員が、お前に俺の臓器を提供しろって迫ったんだぞ?こいつなんて、俺に早く死ねって言ってたようなもんじゃないか!」 西也は、思い出という武器で切り込んできた。 彼の言葉は、若子の心に鋭く突き刺さる。 あの時―病院で、全員が彼女に迫っていた。西也の命を見捨てて、誰か
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第974話

若子はしばらく黙って考え込んだ。そして、ゆっくり顔を上げて修を見つめた。 「でも......あのとき、あなたは本気で西也が死ねばいいって思ってた。私に、西也の心臓を桜井さんにあげるようにって、同意を求めたよね」 西也の口元がぐいっと吊り上がる。得意げな笑みを浮かべて、ほっと息をついた。 ―若子は俺のことを信じてくれたんだ。 藤沢修、お前なんかに勝ち目あると思った? 前には桜井雅子、今度は山田侑子。お前がこれまでやってきたこと、どれを取っても正当化できないし、言い逃れもできない。 その一方で、俺は若子にとっての理想の男だ。お前が俺に勝てる要素、どこにある? 若子の言葉は、修の胸を鋭く突き刺した。 「若子......それは......昔のことだ。もう何年も前の話だよ。それと今は別だ。あれはあれ、これはこれなんだ」 「でも、あなたは確かにそうした。確かに―あのとき、あなたは西也に死んでほしいと思ってた。これは事実でしょ?」 修は口をつぐむ。否定できるはずもなかった。あの頃、西也のことを心の底から憎んでいた。そして、雅子が心臓移植を必要としていたタイミングで、西也が倒れた。 これは「チャンス」だと思ってしまった。雅子を助けるには、西也の心臓を......その考えが頭をよぎったことを、否定なんてできない。 ―自分の中の醜い部分。もし誰もがそれを晒されたら、きっと誰も「人間らしく」なんて言えなくなる。 「若子......あれは、あのときの話だ。彼の命が消えかけてたから、俺は......ああ言った。けど、俺は手を下してない。殺してもないし、傷つけてもない。常識的に、そうするのが正しいと思っただけなんだ」 「常識、ね......」 若子はその言葉を聞いて、吐き気がしそうになった。 「修......あなたにとって、西也の治療を諦めることが『常識』なの? だったらもう、これ以上言わなくていいよ。きっと、あなたの心のどこかが後ろめたかったんでしょ?だから西也があなたの元を訪ねてきたとき、勝手に『殺しに来た』って思ったんじゃない?」 「......」 修はふらりと数歩、後ろに下がった。 何もかもが空っぽになったようだった。胸の中から、心臓ごと引き抜かれたかのように。 若子からの言葉。何度も、何度も突き刺さっ
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第975話

若子はその場を追いかけたくてたまらなかった。けれど、足はまるで鉛を詰められたように重くて、動くことができなかった。 ―ダメだ。私はもう、修を追いかけちゃいけない。 彼との関係は、もう終わったんだから。 彼には山田さんがいる。もう自分とは終わっている。だったら、いっそ嫌われて、憎まれたままでもいい。 その方が、きっと彼のためになる。 そんな思いで立ち尽くしていた若子の背後から、ふわりと誰かが彼女を抱きしめた。 「若子......信じてくれてありがとう。俺を信じてくれて、本当に......ありがとう」 西也の声だった。 最終的に、若子は彼の言葉を選んだ。それだけで彼の中に、確かな勝利の実感が湧いてきた。 その口元には、ふっと得意げな笑みが浮かんでいた。 ―藤沢、お前は俺に勝てない。 俺は若子を傷つけたりしなかった。ずっと彼女のそばにいて、支えてきたんだ。暗闇の中で手を差し伸べてきたのは、この俺だ。 それに比べて、お前はずっと彼女を泣かせてきたじゃないか。 だが― 若子はその腕を、ギュッと掴んで無理やりほどいた。 「西也......本当に......本当にボディーガードを連れて、銃まで持って修のところに行ったの?本当に......傷つけるつもりだったの?正直に話して」 さっき、修にあんなふうに言ったのも、完全に信じてなかったわけじゃない。 もう修を信じるか信じないかは、正直どうでもよくなっていた。彼には侑子がいて、子どもまでいる。今さら自分が何を言ったところで、どうにもならない。 西也の呼吸が乱れた。肩がわずかに震え、若子の肩を強く掴む。 「若子、俺のこと信じてないのか?......まさか、あいつの方を信じてるのか?」 さっきまで自分を選んでくれたと思っていたのに、まるで手のひらを返されたような気がして、胸の奥がずきりと痛んだ。 「西也......お願いだから、本当のことを言って。本当に銃を持って行ったの?」 二人のうち、どちらかが嘘をついている。でも、どっちなのか、若子にはもうわからなかった。考えれば考えるほど、混乱するだけだった。 「......銃は、持って行った。けど、それは俺のボディーガードが持ってたやつで、護身用なんだ。アメリカじゃ銃の携帯は普通だし、もし危険な目に遭った
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第976話

夜の闇が別荘を包み込み、部屋の中には重く沈んだ空気が漂っていた。 侑子はベッドの上で身体を丸め、震えていた。涙は糸の切れた真珠のように頬をつたって流れ、すすり泣きの声が部屋の隅々まで響きわたる。空気さえも、彼女の悲しみに染まっていくかのようだった。 その顔は、かつての輝きを完全に失っていた。まるで枯れかけた花のように、白く、弱々しく、力を失っている。赤く腫れた目元は、血に染まった宝石のように痛々しく、深い怒りと絶望を滲ませていた。 乱れた黒髪が頬の両側にかかり、生気をなくした滝のように見えた。 「なんで......修、なんでまだ帰ってこないの......? 私が代わりでもいい......せめて、少しでも優しくしてくれたら......それだけでよかったのに...... 松本さんに会って、それで戻ってこなくなったの......?まさか......彼女と......?」 心の奥で燃え上がる怒りが、侑子の顔を歪ませる。 裏切られた痛み。置いていかれた悲しみ。それらが一気に押し寄せてきて、彼女の心を粉々に打ち砕いていく。 胸に湧き上がる憎しみは、もうどうしようもなかった。 「なんで......なんで彼女なのよ......あの女、もう別の男と結婚して、子どもまで産んでるのに! 修......そんな女のどこがいいの!?あんな体、汚れてるだけじゃない!」 彼女の痛みと怒りは、やがて真っ黒な闇となり、侑子をその中心へと引きずり込んでいく。 部屋の中の空気はまるで墓場のように重く、息をすることさえ苦しくなる。 「なんでよ......どうして私を選ばなかったの......なんで私が、あんたみたいな男を、好きになっちゃったのよ」 愛してる男の心に、浮かんでいるのはただ一人―松本若子。 その名を思い浮かべるたび、胸が引き裂かれるように痛んだ。 今の彼女の目には、修は裏切り者でしかなく、彼女の心を何度も何度も殺す「加害者」だった。 そして、若子は......下劣で、汚らわしくて、恥を知らない女。 そんな思いに囚われて、彼女の心はもう、まともでいられなかった。 過去にも何度か恋はしてきた。彼氏だっていた。 けれど、どれもこんなふうに心をかき乱されるような恋じゃなかった。 ―今までの恋なんて、全部偽物だったんだ
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第977話

―だめだ、絶対に死んじゃいけない。 震える手で薬をかき集めた侑子は、床に落ちた錠剤をそのまま手に取り、汚れなんて気にもせず、口の中に放り込んだ。ごくん、と無理やり飲み下す。 少しずつ、薬が効いてきた。 呼吸が落ち着き、心臓の痛みも引いていく。ベッドに戻った彼女は、天井をぼんやりと見つめながら呟いた。 「私は、絶対に死なない......何があっても生きてやる。修......私は、生きてあんたを手に入れるの。あの女なんかに渡してたまるもんか。 夫もいて、子どももいるのに、まだ修を誘惑するなんて......あの女、ほんとに最低。 修を危険に晒して、さらにまた奪おうとするなんて、どこまで浅ましいのよ。 どうせ母親も同じような女だったんでしょ。ろくでもない母親に育てられて、男と乱れて......下品でだらしない血を引いてるんだわ」 そのとき― 廊下から声が聞こえた。 「藤沢様、お帰りなさいませ」 侑子の目がパッと見開かれた。足音が、こちらへ近づいてくる。 彼女はすぐに反応した。肩紐をぐいと引きちぎるように外し、白く滑らかな肩と谷間を露わにする。 乱れた服のままベッドに横たわり、まるで酷く傷ついた花のように、儚く、美しく、哀しさを帯びた姿を演出する。 修が部屋に入ってきたとき、目に飛び込んできたのは、床一面に転がった薬、そしてベッドに横たわる侑子の姿だった。 「......!」 修の顔が一気に青ざめた。 彼はすぐにベッドへ駆け寄り、侑子を力強く抱きしめる。必死に肩を揺らしながら、名前を呼びかけた。 「侑子!おい、しっかりしてくれ! 侑子っ!」 その目には、深い不安と焦りが浮かんでいた。今すぐ病院に運ばなければ、と口を開きかけたそのとき― 侑子がゆっくりと目を開けた。 「修......やっと、帰ってきてくれたのね。待ってたのよ、どれだけ待ったか......」 彼女のその姿は、まるで何年も帰ってこなかった恋人を待ち続けた人のようだった。 「......ああ、帰ってきたよ、侑子。ごめん、どうしたんだ?具合、悪いのか?」 修の視線が薬へと移った。これはまさか― 「薬、ちゃんと飲んだか?」 「うん......飲んだよ。でも、手が滑って、薬を落としちゃって......全部撒いちゃった
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第978話

「ごめん......全部俺が悪かった。こんなふうに泣かせて、本当に......」 修はそう言って、侑子を見つめた。けれど、侑子は首を横に振る。 「病院なんて、もういいの。行きたくないの......今は......ただ、修にそばにいてほしいだけ。 修......お願い......私を抱きしめて。ずっと待ってたの、修が帰ってくるのを......毎日毎日......でも、来なくて......ずっと怖かった......」 ぽろぽろと涙をこぼしながら、侑子は息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。 修は胸が締め付けられる思いで、そっと彼女を引き寄せた。そしてベッドに横たわり、彼女の頭を胸元に抱き寄せた。 「ごめんな、侑子......」 その声には深い後悔がにじんでいた。 彼の体からは、強いアルコールの匂いがした。かなり酒を飲んでいたらしい。 「ねえ、修......さっき心臓が痛くて、薬を飲もうとしたんだけど......飲みたくなくて、もう......このまま死んじゃってもいいかなって......そう思っちゃったの......」 「そんなこと、二度と言うな......!」 修はすぐに言葉を返した。 「そんなふうに思うなんて......それは俺の心を抉るようなもんだ。絶対に生きてほしい。お前の手術のために、ちゃんと適合する心臓を探してみせるから。そしたら、健康になれる」 「......修」 侑子はまた涙をこぼしながら、彼を見つめた。 「私も、生きたいよ......ちゃんと。だから......薬、飲んだの。死んだら、修が悲しむから。迷惑かけたくないから......私は、修を愛してるから。だから......負担にはなりたくないの。 修......安心して。私は、ずっと修の味方だから。何があっても、私の中で一番大事なのは、いつだって修だよ......」 修は深く息を吐いた。 「......侑子、俺はお前にどうしたらいい? たとえば......もし、俺が一生、お前を愛せなかったら?」 「それでもいいの」 侑子は微笑みながら言った。 「私が愛してる。それだけで十分だよ。いらないって言っても、私は愛を少しずつ分けるから。修が苦しいとき、そばにいてあげるだけでいい。それが私の幸せなの」 「私、修のこと、大好き....
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第979話

「正直......ね」 修はその言葉に、自嘲するような笑みを浮かべた。 「俺は、お前が思ってるほど正直じゃない。昔......妻に嘘をついたことがある。別の女と会うために、『出張だ』なんて言って......それでも、まだ俺は『いい男』か?」 侑子は、かぶりを振った。 「修......それでも、私は信じてる。きっと事情があったんだよ。男には男の都合があるもん」 「侑子、お前......俺を美化しすぎてる。事情なんて関係ない。ただのクズだったんだ、俺は」 「違う。私にとって、修はいつだって『正しい人』なの。たとえ浮気しても、別の女のところに行っても、それはきっと理由がある。私は、どんなときでもあんたを許す。だって私は、あんたの物語のヒロインになりたいから。 ......どんなに卑怯でも、どんなに残酷でも、私は修を肯定する。修が望むなら、私は『都合のいい女』でいられる」 ―男が他の女と関係を持つのは、よくある話。 修ほどの男ならなおさら。金もあって、見た目もよくて、若い。女が群がってくるのは当然。 だからきっと、悪いのはあの女だ。 修が離婚したのは、あの女のせい。彼女がちゃんとしていなかったから。忠実に、女らしくしていなかったから。 いや、それどころか、彼女は最初から不誠実だった。遠藤とくっついて、子どもまで作っておいて、また修を誘惑するなんて― 最低。 そんな女に、修を取られてたまるか。 ふざけないでよ。 そんな節操のない女が、修に相応しいわけないでしょ。 あの女、汚れてる。 男に非なんかない。悪いのは、いつだって女。 男が女を傷つける?それも当然。なのに戻ってきてやるなら、それは女に「恩赦」を与えるようなもんよ。 なのに、拒むなんて......バカじゃないの? 修には、侑子の様子がどこかおかしく見えた。 こんな支離滅裂なことを口にするなんて―正直、理性を失ってるとしか思えなかった。 ......そんなこと、本気で思ってるのか? 彼女は本当に俺のことを「愛してる」からこうなってるのか? それとも、ただ感情に呑まれてるだけなのか。 修は手を伸ばして、侑子の額にそっと触れた。 熱はなかった。体温は平常通り。 たぶん― それだけ、彼女は傷ついて、絶望して、心が限
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第980話

たとえ彼が最低な男でも、裏切り者でも― 侑子は、どんな言い訳でもしてあげられた。どんな嘘でも信じられた。 全部、女が悪いから。男は、仕方なくそうなっただけ。 男は間違わない。もし間違っても、それはきっと事情があるから。 ―そう、それが「三従の教え」ってやつだ。 三従なんて、とっくに消えたと思ってた。でも、違った。潜んでいただけだった。 侑子は、修の圧倒的な存在に酔いしれていた。 彼のそばにいると、自分が守られていると錯覚できた。修は星のように輝いていて、彼女の「ただ一人のヒーロー」だった。 見上げることしかできない存在。 いつしか、侑子の瞳は閉じられて、まどろみに落ちかけていた。 修はそっと彼女を抱きしめながら、深いため息をついた。 目の奥には重たい影が漂っていた。心も体も、すっかり擦り減っていた。 ―どうして、こんなことになってしまったんだろう。 彼は慎重に、静かに彼女の腕をほどこうとした。だがその瞬間― 侑子の目がぱちりと開き、修の腰にしがみついた。 「修、どこ行くの?また出て行く気でしょ?私を置いていくの!?」 「違うよ、侑子。俺は行かない」 「嘘!出て行くんでしょ!?ほら、やっぱり寝ちゃダメだった!目を閉じたら、またいなくなるって思ってた!」 「......風呂に入るだけだよ。この数日ろくに休んでないし、身体もまともに洗えてないから」 「ふ、風呂......そっか、そういうこと......」 侑子は涙交じりに微笑んだ。 「......ごめん、私の勘違いだったね。勝手に疑って......本当にごめんなさい」 彼女はしおらしく彼を離した。 「じゃあ......行ってきて。私はもう邪魔しないから......ごめんね、修」 修は彼女の頭をそっと撫でて、立ち上がった。 浴室へ向かう前に、床に落ちた薬を拾い集め、瓶の中へ戻していく。 「侑子、お前の薬、ほとんどダメになってるな。明日、病院で診てもらおう。新しく処方してもらえるようにしよう」 この薬は日本から持ってきたものだ。アメリカではまた検査が必要だし、処方箋も必要になる。 「修......ごめんなさい。私のせいで、また迷惑かけて......」 侑子の顔はまるで紙のように青白かった。 「迷惑なんて思っ
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