修は、若子にもう一度「愛」の可能性を感じさせてくれた。時が流れるうちに、彼女の心も少しずつ開かれていった。愛は決してひとつの形にとどまらない。それは、時間や経験と共に変化していくもの。若子の心の奥底には、今も千景への想いが残っている。けれど同時に、今そばにいる人たち、今この瞬間の幸せを大切にすることも覚えていった。想い出は色あせることなく残るけれど、今を生きて、愛することもまた大切なことだ。若子の心の中で、千景は永遠に特別な存在。でも、その「特別さ」の中で、修も自分だけの居場所を見つけてくれた。それは、人生というものの感情の成長と変化。千景はもうこの世にいない。だからこそ、いつまでも過去にとらわれてはいけない。若子は千景への想いを、心の奥深くにそっとしまい、残りの人生は、修と子どもたちをしっかり愛して生きていこうと決めていた。「初希」若子は初希をそっと引き寄せて語りかけた。「初希のパパは、とても初希を愛してた。けど、初希が生まれる前に会えなかった。だから、パパの名前だけは覚えていて。冴島千景っていうのよ」初希は素直にうなずく。「うん、覚えておくよ、ママ」それから手を上げて、墓碑に向かって元気に挨拶した。「パパ、こんにちは。私はママの言うこと、ちゃんと聞くよ」若子は初希を抱きしめ、涙を浮かべながら墓碑に語りかけた。「千景、見て。私たちの娘、こんなに大きくなったよ。私たちは絶対にあなたを忘れない。これからも、何度も会いに来るからね」そのとき、やわらかな風が吹いて、若子の髪をそっと揺らした。その風はとても温かくて、やさしかった。若子は、不思議なくらいはっきりと感じた―まるで千景が傍に来て、そっと頬に触れてくれたみたいだった。「千景......今の、あなたでしょ?」そう言いながら、彼女は辺りを見回したが、そこには誰もいなかった。「千景、私はきっと元気に生きていくから。たまには夢の中で会いに来てくれると嬉しいな」涙をにじませながら、指先にキスをして、それを墓碑にそっとあてる。まるで、千景に口づけを贈るかのように。......修の車は少し離れた場所に停まっていた。卓実は退屈そうに車の中で待ちくたびれていた。修は外で車のボンネットにもたれ、静かに二人を待
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