瑠璃は瞬が自分に背を向けているのを見た。彼の背筋はすっと伸び、長身のシルエットは凛としていたが、全身から張り詰めた冷気が漂っていた。一方の隼人は、椅子に静かに腰掛けており、その横顔には穏やかさと静寂が宿っていた。しばらくして、隼人が淡々と口を開いた。「それは俺と千璃ちゃん、二人だけの思い出だ。お前には関係ない」「関係ない?」瞬は軽蔑を込めて笑った。「千璃はもう俺の妻だ」妻という言葉は、隼人の心に針のように深く突き刺さった。彼は唇を引き結び、光を失った瞳で静かに前を見つめていたが、何も言い返さなかった。隼人が黙っているのを見て、瞬は唇の端を持ち上げ、底知れぬ笑みを浮かべた。「隼人、お前は昔、彼女を大切にしなかった。だから今さら千璃を取り戻そうなんて思うな。お前には千璃を手に入れる資格なんてない。千璃への幻想は捨てろ。もう彼女はお前のものじゃない。表では従順なふりをして、裏では千璃に近づこうとするのはやめろ」瞬の一言一言が心を打ちつけるようだったが、隼人はゆっくりと眉を上げ、整った顔に冷笑を浮かべた。「表と裏が違う?何を言っている?」「とぼけるなよ。お前はもう二度と千璃に近づかないと、俺に誓ったはずだ。それなのにどうだ?お前は何度も千璃に近づき、わざと自分が失明したことを知らせて、彼女に責任を感じさせた。だから彼女はF国に戻るのをためらっている。……これこそ、お前の狙いなんじゃないのか?」瑠璃はその言葉を耳にし、大きな衝撃を受けた。瞬がすでに隼人の失明を知っていたことに驚いた。そして、いつも穏やかで上品だった瞬に、こんなにも冷酷な一面があることに気づき、さらに動揺した。瑠璃はこれ以上聞くべきか迷いながら、その場を離れようとした——だがその瞬間、隼人の声が耳に届いた。「その日、島で、俺が千璃ちゃんをお前に託した瞬間から、俺は心に決めていた。この先、一生、自分から彼女に会いに行ったりはしないと」その柔らかく静かな声は、風のように瑠璃の耳元をすり抜け、まるで石のように彼女の心に落ちていった。瑠璃は足を止め、目を大きく見開いた。——あの日、島で私を瞬に託したのは、隼人だったの?——そんなはずない。彼は背を向けて、去っていったはずじゃ……「瞬、お前が千璃ちゃんを幸せにしてくれるなら、俺は望むとおり
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