瑠璃は、すらりとしたその人影をじっと見つめた。喉が詰まりそうになりながら、叫んだ。「隼人?!」その顔を見た瞬間、瑠璃の心に渦巻いていた深い痛みは、まるで幻のように消え去った。そして隼人も彼女を見て、意外そうな驚きの色を目に浮かべた。「隼人、本当に無事だったのね!」瑠璃は彼の元へ駆け寄り、思わずその美しい手を両手で握りしめた。彼の確かな体温を感じた瞬間、彼女の心はすっかり安らいだ。この一瞬、瑠璃は、隼人が無事でいてくれること以上に大切なことはないと感じた。隼人は、動揺した様子で手を握ってくる瑠璃を見つめた。目の前にあるのは美しい笑顔なのに、その瞳は涙でいっぱいだった。「お嬢さん、君は……俺の好きな人によく似ているね」彼は口を開いた。その声は相変わらず魅力的で心に響く低音だった。瑠璃は、隼人が冗談を言っているのだと思った。しかし、彼はゆっくりと彼女の手をほどき、淡々と尋ねた。「君は、俺のことを知ってるのか?」「……」その問いかけに、瑠璃は混乱した。彼はわざとそんなことを言っているのだろうか?だが、そんな冗談を言う理由もないはず。「隼人、何を言ってるの?私のこと、わからないの?私よ、千璃ちゃんよ」「千璃ちゃん?」隼人はその名を反芻するようにつぶやき、徐々にその瞳に冷たい光を宿らせた。「人違いじゃないかな」そう言い残して、彼はあっさりと背を向けた。だが数歩歩いたところで、隼人は再び足を止め、呆然と立ち尽くす瑠璃を振り返った。再び彼が歩み寄ってきたことで、瑠璃はもう冗談は終わったのだと思った。けれど彼はただ彼女の足元に落ちていた七色の貝殻を拾い上げると、そのまま立ち去った。その一連の行動に、瑠璃の心は再び宙ぶらりんになった。この数日の間に隼人に一体何があったのか、彼女にはわからなかった。ただ、彼が本当に自分を覚えていないように見えた。だが、彼は自分が誰かは理解している。ならば、彼もかつての自分のように人格が分裂してしまったのだろうか?いや、そんな偶然あるはずがない。瑠璃はすぐに彼の後を追った。ホテルの正面玄関から出た時、隼人が道路脇の車に乗り込むのが見えた。それは数日前に明日香が乗っていたのと同じ車だった。車が走り出すのを見て、瑠璃も急いでタクシーを捕まえて後を追った。
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