隼人がちょうど階段を上がり、寝室に入ったときだった。どこかから微かに、瑠璃の助けを求める声が聞こえた気がした。その瞬間、隼人の心臓は大きく跳ね上がった。思考する暇もなく、彼は勢いよく階段を駆け下りた。玄関にたどり着いたとき、ちょうど瑠璃が車に乗り込む姿が視界に入った。「何があったんだ?」隼人は足早に近づき、車に向かって問いかけた。「な、なんでもないわ」車内から女の声が返ってきた。「さっきネズミが出たと思って、ちょっと驚いただけ。じゃあ隼人、私は先に帰るわね」言葉が終わると、車はすぐにその場を離れ、隼人の目の前を走り去っていった。隼人はどこか違和感を覚えたが、それが何かはっきりとはわからなかった。ふと足元に目を落とすと、玄関の床にひとつのボタンが落ちているのが見えた。彼はそれを拾い上げて、じっと見つめた。金色の琉璃製のそのボタンは、今日瑠璃が着ていたコートのものだった。どうして、こんなところに?その頃、蛍は瑠璃の車を運転しながら、ルームミラーに陰湿な視線を投げた。意識を失った瑠璃は、今まさに後部座席に横たわっていた。蛍はひとまず安堵した様子で深く息を吐いた。幸いにもこの薬は効果が強く、多少の抵抗はあったものの、最终的には彼女を抑え込むことができた。もう二度と、ミスは許されない——そして、悪役が多くを語って死ぬというのはよくある話だ。ならば、自分は何も言わず、手早く終わらせるべきだと、蛍は心に決めた。隼人は催眠下にあり、瞬は景市にいない今こそ、瑠璃を完全に消し去る絶好のチャンスだった。凍える風が吹きすさぶ冬の郊外。蛍は車を停め、瑠璃がかすかに意識を取り戻しかけているのを見て、急いで車から降り、彼女を強引に引っ張り出した。「出て来なさい!」彼女は乱暴に瑠璃を引きずった。瑠璃の頭は重く、視界はぼんやりとしていた。今自分がどこにいるのか確認しようとした瞬間、突然蛍に力強く突き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。掌に冷たく鋭いものが刺さり、激痛が走ったことで、瑠璃の意識は少しだけ鮮明になった。「瑠璃、ここがどこだか思い出せるかしら?」蛍は上から見下ろしながら、不気味に笑った。「ここは、かつて碓氷宝華が死んだ場所よ。あのとき何が起きたか、覚えてる?」瑠璃は目を細め、辺り
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