婚約崩壊寸前！初恋は遠ざかれ のすべてのチャプター: チャプター 191 - チャプター 200

突然のキスは、まるで嵐のように私を襲った。慎一の舌先は信じられないほど巧みで強引に、私の口の中を隅々まで探ってくる。頭が真っ白になり、抵抗する暇もなく、全身の感覚が一気に溶けていく。ただ、鼻先をかすめる淡いタバコの香りだけが、私の脳を痺れさせる。彼は言葉もなく、ただキスだけで欲望をぶつけてくる。その熱に、私の血は頭に昇り、体中の神経が焼き尽くされそうになった。痛いくらいに、苦しくなるほどに。我に返った私は、手を伸ばして彼の胸を押し返そうとしたけれど、それすら彼に指ごと握られて、逃げ道を塞がれる。次の瞬間、手の甲が車窓に押し付けられ、熱い跡が残った。慎一は、まるで理性を失ってしまったみたいだった。私の体は、寸分の隙もなく彼に閉じ込められる。逃げ場なんて与えてくれない。冷たかったはずの唇と舌も、激しい絡みに熱を帯びていく。言葉を発しようとした瞬間、彼はさらに深く舌を差し込んできて、私の抵抗も嗚咽も、すべて飲み込まれていった……どれくらい経っただろう。やっと一瞬、息をつける隙間ができた。その瞬間、私は彼の舌先に思いきり噛みついた。血の味が口の中に広がる。彼は痛みに顔を歪めて離れた。慎一が、血の滲んだ舌先で唇を舐めながら、真っ赤な目で私を見つめる。その目には責めるような色が浮かんでいた。「まだ、俺のことが迷惑だって思ってるのか？」嗜虐的なその姿に、私は言葉が出なかった。唇が震える。私は高く腕を振り上げて、彼の図々しい顔を思い切り打った。パァン！大きな音が車内に響き、彼の顔が横を向く。彼は避けようともせず、私の一撃をまともに受け止め、頬には赤い跡が浮かんできた。「私たち、離婚するのよ！」私は震える声で叫んだ。「知ってるさ」彼は顔を戻し、親指で頬をさすりながら、冷笑を浮かべる。「だったら、徹底的に迷惑してくれよ。離婚してからも俺に絡まれるとか、マジで勘弁だし」「これは、もう犯罪よ！」「ふん、お前、俺に何ができるっていうんだ？」そう言うなり、私に思考の隙間すら与えず、片手でうなじを掴み、また私を引き寄せてきた……私は、彼の言葉に手足を縛られたみたいに、どうしようもなかった。沈むような苦しさが胸を締めつける。彼は、雲香と同じことを言ったのだ。きっと、慎一が彼女を保釈した時も、あの誇り高い態度で、この

スマホは圏外だった。私はまるで迷子になった子猫のように、思いつく限りの脱出方法を試した。例えば、部屋の隅々でスマホを掲げて電波を探したり、古い下着からワイヤーを抜き取って鍵をこじ開けようとしたり、重たい家具を倒して大きな音を立てたり……けれど、外からは何の反応もない。私はまるで全身の血が抜かれたように床にうずくまり、もう無駄な体力は使わないことにした。私のことなんて、誰も気にしていない。慎一は、いつも「お前は本当に離婚したいんだな」と私に言っていた。でも、彼自身が一番それを望んでいたんじゃないの？でなきゃ、あの人が私をこの家に連れ戻したくせに、行方を気にも留めないなんてこと、ある？どれほど時間が経ったのだろう。ようやく、扉の外から物音がした。こそこそと、わざとらしく音を立てて、まるで「私が来た」ことをアピールするように。雲香だった。「バン！」ブレーカーが落とされ、部屋の灯りが一瞬で消える。あたりは漆黒に包まれ、スリッパのペタペタという音が扉の隙間から忍び込んでくる。闇に包まれると、その音が不気味に響く。「佳奈」雲香の声が、静かに、ねっとりとした音で私の名を呼んだ。闇のせいか、背筋にじわじわと寒気が走る。私は冷静さを取り戻し、口を開く。「こんな子供じみた手、あまりにも下手すぎない？」「ふふっ、でも閉じ込めることには成功してるじゃない」その声は、喉の奥から滲み出るような不気味な笑い声だった。「あなたはお兄ちゃんと離婚しちゃダメ。少なくとも、真思が国内にいる間は絶対に」毒を含んだその声は、冷たく、そしてどこか苦しげだった。「どうしよう……真思のこと、どうしたらいいのよ？」狂った人間に理屈は通じない。私は下手な芝居や嘘でごまかすつもりもない。証拠を残されても困るから。ただ、霍田当主が慎一に子どもを望んでいるのは、もう彼の執念だ。そして慎一の親孝行キャラを思えば、この願いは絶対に叶えようとするだろう。「子どもを作ってほしくないなら、慎一とちゃんと話し合えばいいじゃない。私を外に出してくれたら、代わりに話をつけてあげる。知ってるでしょ？あの人、あなたのこと大事にしてるから」「黙れ！」雲香は拳でドアを激しく叩き、怒鳴った。「お兄ちゃんはあなたの話なんて聞かない！彼はもう二度とあなたに会いたくないって言ったのよ

私は涙が止まらず、咳き込んでいた。慎一が私の頭に大きな手をそっと置いて、「お前のことを思うと、胸が痛む」と呟いた。そう言いながら、吸いかけのタバコを床に落とし、私の顔にむちゃくちゃにキスを落としてきた。その腕はかすかに震えていて、彼の言葉が耳元で囁かれる。「なあ、もう離婚なんてやめにしないか？」まるで大事な宝物を手に入れた子供みたいに、彼は私にしがみついていた。私の頬を濡らすのが涙なのか、それとも彼のキスでついたぬくもりなのか、もう分からない。熱くなったり、寒くなったり、体も心もぐちゃぐちゃだった。私は震える唇を押さえ、彼を抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて言った。「私を閉じ込めたのは、雲香だ」慎一の動きが止まり、私をじっと見つめる。「何だって？」彼にはちゃんと聞こえていたはず。でも、信じていないだけ。私は思い切り彼を突き飛ばす。胸が締めつけられて、どうしようもなく苦しい。「私、絶対に離婚する」きっぱりと答えた。「佳奈！昨夜、ちゃんと雲香が寝るのを見届けたんだぞ！」諦めきれないのか、慎一はじっと私を見つめ続ける。「どうして、俺たち二人のことなのに、いつも他人を巻き込むんだ？どうして、うまくやろうとすると、必ず雲香のことを持ち出すんだ？」突然、彼の声が大きくなる。「俺はお前に優しくしてないのか？何度も言っただろ、彼女はただの妹なんだ！」どうしてって？それは、彼女がずっと私たちの間に立ちはだかる、越えられない壁だから。ただ、彼がそれに気づいていないだけ。私はこっそり拳を握りしめる。私だって、ちゃんと理由を説明したい。何度も伝えたのに、彼は信じてくれないだけ。考え込んだ末、私はこの終わりの見えない論争を終わらせたくて、あえて無邪気なふりをして聞いてみた。「私たちって、本当に愛があるの？」「そうか、愛がないってことか。だったら、俺は……」彼が言いかけたところで、私は被せるように言った。「下品な言葉やめて！ねえ、真思と子どもを作らないって言えるの？私のために雲香と距離を置いてくれる？一度でいいから、好きだって言ってくれる？」私の声は震えていた。「それすら口にできないくせに、愛って？ふざけないでよ……」私は一つ一つ問い詰めた。それはまるで、冷たい水をバケツで何度も浴びせるようで、彼は頭からつま先

冷たい声が響き渡り、私は心臓が震えるのを感じた。そうだ、慎一にとって、私が転んだくらいのことは大したことじゃない。ただの過剰反応だとしか思っていないのだ。穎子はもう今にも泣き出しそうで、「このクソ野郎、早く！佳奈が……」と叫んだ。私は穎子の手をぎゅっと握って、彼女がこれ以上何も言わないように止めた。私は顔を上げて慎一を見つめるが、喉からは何も声が出てこない。ほんの数秒の間に、いろんなことが頭をよぎる。私の子どもの誕生を誰も歓迎してくれなかった。もしかして、この子は独りきりでこの世を去るのだろうか？もし慎一が「ただ転んだだけ」で自分の子どもを失ったと知っても、彼はまだ生まれていない我が子のために一滴でも涙を流してくれるのだろうか？痛みで声も出ず、子どもを失うかもしれないという思いが胸いっぱいに広がり、憎しみが押し寄せてくる。私の子どもだって、パパに見送ってほしいと思っているかもしれない。いや、子を失う痛みを、どうして私一人で抱えなければならないの？慎一の目は氷のように冷たく、私が彼をじっと見つめているのを嫌うかのように、ゆっくりと歩み寄ってきて、手を差し伸べた。その視線には一切の感情がなく、ついにうんざりしたように口を開いた。「どこを怪我した？」私はそっと指先を彼の手に乗せる。瞬間、熱が身体を包み、心の奥まで焼かれるような感覚に襲われた。私はかすれた声で言う。「足を……たぶん骨折したかも。すごく痛い。送ってくれる？」慎一は低く笑った。そのイケメンの顔に、あざけるような興味が広がる。彼は急に手を離し、私の腕が床に落ちて、鈍い痛みが走った。「雲香が学校で舞台劇のリハーサルしてるんだ、見に来てほしいって頼まれてさ」そう言い残して、彼は背を向ける。冷淡な背中を見つめながら、私の目は体の痛み以上に強く刺すような痛みを覚えた。目を閉じれば、彼がゆっくりと私の視界から消えていくのが見えるようだった。慎一は去ってしまい、私は救急車で病院に運ばれた。そばにいてくれたのは穎子だけだった。彼女は私を責めることもなく、ただ必死で涙を隠しながら、あれこれ世話を焼いてくれた。医者からは絶対安静を言い渡され、「いつ流産してもおかしくありません」と告げられた。「私が見てるからね！ぜったいどこにも行っちゃダメ！」と穎子

慎一の怒号が響いた瞬間、私の体を流れる血が一気に凍りついたような錯覚に陥った。頭の中が真っ白になる。もうこれは、たとえ三途の川に飛び込んだって濡れ衣は晴れないんじゃないか、そんな気がした。彼は大股で私の方へ歩み寄り、その冷たい黒い瞳は私を刺すように見据えてくる。もう私への軽蔑を隠そうともしない。まるで鋭い刃で心を抉られるような視線だった。一歩、また一歩と距離を詰められるたび、呼吸が苦しくなっていく……この目はなんだろう？すべての元凶が私だとでも思っているのか、それとも彼が大切にしている雲香を私が陥れたとでも？彼の黒い瞳には、さまざまな感情が渦巻いているけれど、そのどれひとつとして私に向けられたものはなかった。突然、背中の襟を彼に掴まれ、私は無理やり立ち上がらされた。足がもつれて、気づけば病室の窓際まで後退し、腰を強くぶつけてしまった。下腹部にじくじくと痛みが広がる……冷や汗が額を伝う。もし背中じゃなくてお腹を打っていたら、どうなっていたか考えるだけでぞっとした。私は反射的にお腹を庇うように手を添えるが、慎一はこちらを一瞥もせず、まっすぐベッドの側へ行き、真思の腕をそっと握った。「看護師を呼んで、もう一度点滴をお願いするよ」そう優しく言いながら、彼女の布団を整え、立ち去ろうとする。だが、真思が弱々しく彼の手を掴む。「慎一……少し、そばにいてくれない？怖いの……」彼女の瞳は虚ろで、必死に瞬きをしながら、悲しみと絶望に満ちていた。慎一は静かにため息をつき、ベッドの脇に腰掛けると、顎をしゃくって私に指示する。「お前、看護師を呼んでこい」その目には、感情のかけらすらなかった。まるで、ただの使用人でも見るかのような、冷淡で突き放すような視線。私は病室をぐるりと見回し、使い走りにされたのが自分だと改めて悟る。お腹に添えた手に力が入る。ふと真思と目が合った。彼女は怯えて体をすくめ、すぐに目を逸らし、かすれた声で言った。「だ、大丈夫……奥さんにご迷惑は……」慎一が急に顔を向け、眉をひそめて鋭い目で私を睨む。「早く行け！」今日は本当に厄日だ。どうして彼とこんなタイミングで会ってしまったのか。でも、考えてみれば当然か。彼にとって、これから生まれるはずだった子どもと、その母親を同時に失うかもしれないのだ。ここに