すみれは口を尖らせた。「まったく、調子に乗るとロクなもんじゃないわね。良い子ぶって、気持ち悪いわ。さっき止めなきゃよかったのに」彼女はまだ本気を出していなかった。本当にやり合っていたら、あの意地悪な婆さんなんて敵じゃない。凛は晴香が去っていったときの険しい顔を思い出し、思わず吹き出した。「もういいって。怒るだけ損だよ」そう言って慌ててすみれを宥めた。「他人に振り回されて体壊すなんて、バカバカしいじゃん」すみれは大きく頷いた。「そうだね!でも、次は我慢しないからね。絶対ぶん殴ってやる」凛はのんびりした性格だけれど、すみれは違う。やると決めたら、迷わずやるタイプだ。「はいはい」凛は笑って言った。「今日はびっくりさせちゃったし、私がおごるよ。何食べたい?」すみれは凛の肩に腕を回してぐっと引き寄せた。「その一言を待ってたのよ!さ、姉さんがうまいもんたらふく食べさせてやる」「え、ちょっと待って?それ、本来私のセリフじゃない?」「誰が言ったって同じでしょ。気持ちが伝われば、それでいいのよ」……車中。美琴は診断書を手に、医者が晴香の妊娠は順調だと告げたときのことを思い出し、顔をほころばせていた。その表情を見て、晴香は少しだけ胸をなで下ろした。今日が、美琴と初めての顔合わせだった。かつて海斗と付き合っていた頃、彼は家族のことを一切語らなかった。彼が裕福な家の出で、妹がひとりいる——それだけしか知らなかった。彼のほうから一方的に別れを切り出されてから、晴香はあらゆる手段を使って彼に連絡を取ろうとした。けれども、どれもことごとく音沙汰なし。海斗の態度があまりにも頑なだったため、晴香の心は完全に乱れていた。あちこちに聞き回り、ようやく美琴の携帯番号を手に入れ、電話をかけた。そして、妊娠したことを率直に伝えた。今のところ、美琴は自分とお腹の子どもに対して、そう悪くない印象を持っているようだった。来る前から、将来の義母に少しでも良い印象を持ってもらえるようにと、晴香は何度も深呼吸をして気を落ち着け、丁寧に包装された贈り物の箱を取り出した。にこりと笑うその顔は、どこか素直で可愛らしい印象を与える。「おばさん、はじめまして。これ、私からのささやかな贈り物です。高価なものではありませんが、心を込めて用意しました
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