「待って――今日電話したのは、ただのおしゃべりのためじゃないんだ」「?」電話の向こうで声の調子が一変し、真剣な口調になった。「モルディブの件、もうはっきり調べがついた」凛は思わず背筋を伸ばした。「続けて」「時間ある?一緒に食事でもどう?渡したいものがあるんだ」凛はわずかに眉をひそめて時計を見やり、翌日の午後三時に会う約束をした。……翌日、レストラン。「この書類は、うちの弁護団が入手したものだ。まず目を通してくれ」席に着くなり、時也は前置きもなく、茶色の封筒を取り出して彼女の前に差し出した。「昨年から続いていたこの国際訴訟は、ずっと進行中で、その間にホテルは全ての監視映像を提出させられた。それに加えて、偶然にも目撃者の存在が判明し、手がかりを辿って調査を進めていくうちに、ようやく真相にたどり着いた」時也は、この一連の真相を最初に知った人物だった。彼は自分のチームを心から信頼していた。そして、その結果を聞いたときも、まったく驚かなかった。なぜなら、それは彼の当初の推測とほぼ同じだったから……机を一定のリズムで指先で叩きながら、時也の深い視線が凛に注がれる。興味を含んだ口調で言った。「被害者はお前だ。これらの処理方法は、お前に任せるよ」凛の指がわずかに震えた。目の前に差し出された封筒を見つめ、それを手に取って開封する。ファイルには、晴香がどのようにダイビングインストラクターを買収して酸素ボンベをすり替えたのか、そして毒蛇入りのギフトボックスがどのように仕組まれたのか、その一部始終が詳しく記録されていた。加えて、写真や動画も添えられており、証拠は極めて明確で、逃げ道など一切なかった。何度も傷つけられ、命さえ危険に晒された。普通なら怒りが湧いて当然なのに、凛の胸にあったのは、全てが終わったという静かな安堵だけだった。まるで、この結末を最初から予感していたかのように。しばらくして、彼女は顔を上げて、ひとことひとこと区切るように言った。「この書類の処分を任せると言ったわね?」「そうだ」「じゃあ、警察に通報しましょう」時也の目に興味の色がちらりと浮かび、口元をわずかに持ち上げた。「海斗には知らせないのか?」「どうして知らせる必要があるの?私と彼の関係なんて、もうとっくに終わってる
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