All Chapters of 元カレのことを絶対に許さない雨宮さん: Chapter 501 - Chapter 510

512 Chapters

第501話

広輝がすぐに口を開いた。「ご飯おごるよ!」「いいよ、おごってくれる人がいるから。次にして」すみれはそう言って、彼を避けて通ろうとした。広輝が追いかけてくる。「じゃあ送っていく?」すみれは足を止めた。「……本気?」「当たり前だろ!」「いいわよ。速く運転して」通勤時間に少しでも仮眠をとるため、すみれは今週ずっと自分で車を運転していなかった。広輝は助手席のドアを開け、それはそれは献身的だった。残念ながら……「後部座席に行くわ。横になりやすいから」「……はいはい」車の中、広輝はハンドルを握りながら、心の中で深く嘆いた。この世に、自分より健気な彼氏がいるだろうか。一時間もかけて彼女の仕事終わりを迎えに行き、そのまま別の男とのデートに送り届けるなんて。でも……もし送らなければ、すみれはとっくに姿を消していただろう。それに、残業を終えたばかりで我先に会いに行くほど夢中にさせているのが、いったいどんな男なのか――それも見てみたかった。後部座席に横になったすみれが言う。「何よ、急にため息なんかついて」「ため息なんてついてないよ?」と広輝が言った。「ついてたわ、さっき」「一週間も残業してたんだっけ?」「そうよ」すみれは手近にあった枕をつかみ、首の下に敷いた。――うん、これでずっと楽になった。「そんなに忙しいのに、テニスする時間はあるんだな」広輝はまた嫌味っぽく口にした。「悟が言ったの?」すみれは眉を上げて問い返す。「ふん!」「よく言えるわね。あんたとつるんでる悟や海斗って、みんな頭にちょっと問題あるんじゃない?」「……は??」「サーブのフォームを直してもらおうとコーチを頼んだら、悟がいきなり殴りかかって鼻を折りそうになったのよ。おかげで40万も賠償金払わされて……あれ、あんたと同じで頭がおかしいじゃないの?」「……コーチ?」「じゃなきゃ何だっていうの?」「へへ……別に……へへ……」「?」すみれは無言で目を見開いた。ため息をついたかと思えば、次の瞬間にはニヤつき出す。やっぱり頭おかしい!「住所まだ教えてくれてないけど、どっちに向かって走ればいいんだ?」と広輝が言った。「凛の家よ。道はわかるでしょ?」「凛?凛に会いに行くのか?!」「そうだけど?
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第502話

「お、俺は疲れて、道端で少し休もうと思ったら、そのまま寝ちゃって……」すみれはすぐに反対側へ回り込み、助手席のドアを開けて乗り込んだ。「ちょうどいいわ、家まで送って」「お前、本当に遠慮しないな」広輝はそう口にしながらも、口元は抑えきれずににやけていた。「まあいい。今日はこの俺が親切心でとことん付き合ってやる。送るなら最後まで送ってやるさ。しっかりつかまってろよ」広輝はアクセルを踏み込むと、車は弓から放たれた矢のように飛び出した。「ちょっと!スピード落としなさいよ!まだ生きていたいし、あんたと一緒に仏様に会いに行く気なんてないわ!」「悪くないだろ?死んだら同じ墓に入るってことだ、へへ……」すみれは大きく白目をむいた。今の二人の関係じゃ、死んだところで別々に埋葬されるのが関の山だ。二十分後——「敷地の入口で止めて。中は自分で歩くから」すみれがそう言うと、「ダメだ。まだ送り届けてない」広輝はハンドルを切り、そのまま地下駐車場へと入っていった。車が止まると、すみれは「ありがと」と言い、ドアを開けて降りた。「おい、それで帰るのか?」足を止めたすみれが振り返る。「タクシー代、払う必要ある?」「へへ、そこまでしなくていいだろ。俺たちの仲じゃないか、な?」「一体何のつもり?」すみれが促すと、「俺、夕飯食ってなくてさ。今腹減ってる」と、広輝が答えた。「だから?」「お前ん家で何か作ってくれよ」すみれは両手を広げた。「悪いけど、料理はできないわ」「作らなくていい。前に戸棚にカップ麺あったろ?自分で作るから」広輝はもう代案まで用意していた。「わかったわ」すみれは振り返り、ついてくるよう合図する。広輝はすぐに車を降り、ドアをロックすると、小躍りしながらエレベーターに乗り込んだ。「外で適当にレストラン探すか、デリバリー頼めば、カップ麺よりよっぽどましでしょ?」「俺はカップ麺が好きなんだ、何か問題でも?」すみれは彼に親指を立てた。「さすがね」「……」広輝は、嫌味を言われたような気分になった。ドアのパスワードを入力する時、すみれが押す指先を、広輝は横から盗み見た。168……後は何だっけ?ちくしょう!見間違えた!ドアが開くと、すみれはまっすぐ部屋に入り、広輝のこ
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第503話

「麺なんか、食べない」広輝は「信じるわけないだろ」という表情を浮かべた。すみれが部屋に戻ろうとすると、広輝が不意に声をかける。「一杯どう?」振り返ったすみれの視線が、うっすら曇ったデキャンターに向かう。ちょうど彼女の好みのワインで、しかもよく冷えている……「いいわ。一杯ちょうだい!」これは、誘惑に負けても仕方ない。広輝はすぐさまグラスを取りに行った。「さあ、飲んでみて。俺がデカントしたんだ、絶対気に入るよ!」すみれはそれを受け取り、口元をわずかに歪めた。「それは私のワインが良いからよ」「そうそう、お前のワインが良くて、俺の技術が上手い。二人で最強コンビってわけだな?」「あなたなんかとコンビを組みたくないわ」すみれはそう言い、ぐいっと一口飲んだ。「……」広輝は心の中で、本当に口の悪い女だと思う。一口飲んだだけで、すみれは広輝にそれなりの腕があることを認めざるを得なかった。「どうだ?がっかりさせなかっただろ?」広輝は顎をわずかに上げ、腕を組んで見せる。「……まあまあね」――褒めたらきっと調子に乗る。「まあまあだけ!?」すみれはもう一口飲み、「んふ~」と喉を鳴らした。「……」「ねえ、カップ麺まだ食べるのか?もうふやけちゃったけど」「うわっ……ふやけた?」広輝はすぐにしゃがみ込み、犬のように麺をズルズルと啜り始めた。麺もスープもすべて平らげたその時、空になったワイングラスが目の前に差し出される。透明なガラス、滑らかな曲線を描くグラス。細い指がそれを優雅に支え、その光景が不意打ちのように視界へ飛び込んできた。華奢な手首、白くなめらかな手の甲、爪先までもが淡く艶やかなピンク色に輝いている。広輝は思わず見とれた。「……聞こえてる?!」「え?」広輝は顔を上げ、ぽかんとしたまま「今、何て言った?」と聞き返す。「もう一杯」すみれが短く告げる。「あ、ああ!いいよ!」慌ててグラスを受け取ろうとした広輝だったが、焦れば焦るほど手元が狂い、グラスを取るつもりが、うっかり彼女の手をそのまま包み込んでしまった。その瞬間、広輝はまるで感電したかのように、頭のてっぺんからつま先まで痺れが走り、全身の毛穴が一斉に縮こまった。バシッ!乾いた音が部屋に響く。広輝は呆然とし、
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第504話

「もう飲まない」すみれはグラスを置き、立ち上がった。飲みすぎれば面倒なことになりかねない。特に家には男が一人いるのだから――このくらいの分別はわきまえている。広輝の手が止まった。「まだ飲み終わってないのに、どうしてやめるんだ?」「本当に私の家をバーだと思ってるの?いつまでも飲み続けて」「せっかく寝かせたんだぞ。飲み干さないともったいないだろ?」「もったいなくないわ。残しておいて、明日一人で飲むから」「……」「もう遅い時間よ」すみれは壁の掛け時計を指差した。「早く帰って」「いや……お前ってどうしてそうなんだ?」「私がどうだっていうの?」「必要な時は呼びつけ、要らなくなったら追い返す。そんなのありか?」「じゃなきゃ何よ?あんたを泊めていけっていうの?」「彼氏が彼女の家に泊まるなんて普通のことじゃないか?偽物とはいえ、それらしく見せかけないと」「バカバカしい!誰が私たちが一緒にいるかなんて気にするもんか」その言葉が終わらないうちに、広輝のスマホが鳴った。ビデオ通話の着信音だ。彼は取り出してちらりと画面を見て、口元をゆるめた。「ほら、気にする人が来たじゃないか」すみれが反応する間もなく、彼は通話ボタンを押す。「もしもし、母さん。こんな遅くに何か用?」向こうから小百合の声がする。「どこにいるの?あなたの家には見えない場所ね?」広輝はにやっと笑った。「すみれの家だよ」「本当なの?」小百合は少し驚いた声音で言い、「嘘じゃないでしょうね……」と疑わしげに続ける。「そんなことするわけないだろ。ほら、本人に挨拶させるよ。すみれ、うちの母さんだ」すみれはすぐに笑みを作り、彼の隣に腰を下ろした。「こんばんは」「こんばんは!あのバカ息子が本当にそっちにいたなんてね。もう休む準備はしてるの?」「はい〜」「髪の毛はちゃんと乾かすのよ。長くタオルで包んだままは良くないから」「はい、すぐ乾かします」「広輝に手伝わせなさい」「はい〜」「そのブレスレット、本当によく似合ってるわ。やっぱり買って正解だった!」すみれの手首には、小百合から贈られたガラス種の帝王緑のブレスレットがきらりと光っている。「おばさまのセンスがいいからです」その一言に、小百合は満面の笑みを浮かべ、上機嫌に
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第505話

広輝は「……」と無言になった。「もういいぞ」そう言ってドライヤーのスイッチを切る。すみれは指先で髪を軽く整えた。しっとりとしていながら乾きすぎず、手触りも滑らか――正直、悪くない仕上がりだった。「どうだ?」すみれは初めて彼を認めるように言った。「美容室でも開いたら?すぐに会員カード作ってあげるわ」「……」ありがとう……彼女はあくびをひとつ漏らし、ベッドに腰を下ろすと、そのまま後ろに倒れ込み、くるりと二回転して布団をきっちりと巻きつけた。「寝るわ。電気消して、ドアを閉めて、それで帰っていいから。バイバイ~」俺はお前の召使いか?!広輝は心の中で盛大に叫びながらも、動きはやけに素直だ。電気を消し、そっとドアを閉めてやった。少し酒を口にし、ほろ酔いのまま眠りに落ちる心地よさといったらない。すみれはあっという間に寝息を立てた。広輝は部屋を出ると、デキャンタに残った赤ワインに目をやり、しばし考えた末、ワイングラスを取りもう一杯注ぐ。そして一杯、また一杯……気がつけば、デキャンタはすっかり空になっていた。頭はふらつき、視界は霞み、体は宙に浮いたように軽い。――このまま天に昇ってしまいそうな感覚。だが意識だけは妙に冴えている。広輝にはわかっていた。これは、このワイン特有の後から押し寄せる酔いだった。良い酒だからこそ、その酩酊の余韻もまた格別だ。彼はソファに身を投げ出し、少し酔いが引くまで休んでから帰ることにした。……と思いきや。その「少し」が、そのまま眠りへと変わってしまった。夜半、喉の渇きに目を覚ましたすみれは、水を飲もうとベッドを出る。寝室のドアを開けると、リビングの灯りがまだついていた。眠気に霞んだ視界のまま、ぼんやりと自分の消し忘れだと思い込み、そのままスイッチを押して明かりを落とす。水を飲み終えて寝室に戻ろうとし、ソファの横を通りかかったその瞬間――不意に手首を掴まれた。すみれは背筋に冷たいものが走り、一瞬で酔いも眠気も吹き飛ぶ。反射的に、その黒い塊めがけて拳を繰り出した。だが、腕が振り上がったところで、温かな大きな掌にあっさりと受け止められた。これで彼女の両手は完全に封じられた。「ひろ——」……あっ。怒鳴りつける間もなく、次の瞬間には彼の腕に強く引
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第506話

朝もやの向こうから射し込む陽光が、雲を突き抜けて部屋を満たしていた。リビングのソファから寝室のベッドへと続く床には、脱ぎ捨てられた衣服が無造作に散らばっている。そのほとんどは男物で、女物は薄手のバスローブが一枚だけ。広輝はまぶたをわずかに震わせ、ゆっくりと目を開けた。昨夜の狂おしいほど熱に浮かされた時の光景が脳裏に蘇り、口元に自然と笑みが浮かぶ。視線を横にやると、枕元には静かに眠る女の姿。その寝顔を見つめる自分の表情が、こんなにも柔らかく、温もりを帯びていることに、本人は気づいていない。すみれは双眸を閉じ、穏やかな寝息を立てていた。彼の視線は整った顔立ちをなぞるように首筋へと流れ、そこに散る白い肌の上の紅い痕――昨夜の熱に浮かされた証を辿る。広輝はとうに若さゆえの衝動を過ぎ、女の肌に惑わされる年でもなかった。だが昨夜だけは、まるで初めて肉を喰らう獣のように、ひたすらに貪り、休むことを知らなかった。最終的に、すみれの平手が頬に飛んできて、ようやく戦は終息した。痛みは確かにあったが、その分の快楽もまた鮮やかに刻まれている。そう思い返すと、広輝の口元はさらに緩んだ。彼は眠る女の眉間にそっと唇を落とし、布団をめくって起き上がると、音を立てぬよう静かに部屋を後にした。ドアを閉める時も、寝息を妨げぬよう細心の注意を払う。キッチンでは、両手に麺の入った椀を二つ抱え、テーブルへと向かう。だが、ふと気配を感じて振り返ると、そこにはシルクのキャミソールワンピース姿のすみれが、ドア枠にもたれかかって立っていた。いつからそこにいて、どれだけ見ていたのかはわからない。視線がぶつかり、広輝の瞳に一瞬の気まずさがよぎるが、それはすぐに艶と揶揄を帯びた光に変わった。「おや、早起きだな?……どうやら昨夜の俺は、まだ本気を出し切れてなかったらしい」だが、すみれは笑わなかった。その視線は彼の手元へと落ちていく――二つのインスタントラーメン。その上には、それぞれ目玉焼きが一つずつ。見た目は正直、褒められたものではない。縁のあたりには、うっすらと焦げの跡が残っていた。広輝は軽く咳払いをして、わざとらしく肩をすくめた。「一通り探したけどさ、お前の家には他に食べられるもんがなかったんだよ……まあ、これで我慢してくれ」そう言いなが
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第507話

広輝の笑みが、ぴたりと止まった。「……どういう意味だ?」「荷物をまとめて」「さっさと出て行け」までは理解できる。だが——「二度と来ないで」とは、どういうことだ?「文字通りの意味よ」すみれは淡々と告げる。「前にも言ったはず。私は仕事関係のある男とは、深入りしない」「昨夜のことでもう深入りは確定した。なら、唯一の解決策は——仕事を切ること」広輝はゆっくりと背筋を伸ばし、漆黒の瞳で彼女を射抜くように見据えた。「俺は昨夜、酔ってなかった。お前の反応から見ても……お前も酔ってなかったな?」「ええ」あの時、二人とも正気だった。酒のせいでも、気の迷いでもない。「はっ……」広輝は鼻で笑い、口の端をゆがめた。「昨夜寝たばかりだってのに、こっちはまだ服も着てねえんだぞ。それで用済みってか?」すみれの口元がわずかに引きつった。「服を着ないのは自分のせいでしょ?用は確かに済んだけど」「こっちは済んでないぞ!」広輝の声が一気に大きくなる。「すみれ、お前、自分が今どんな女に見えてるか分かってんのか?」「?」「まるで、乙女をベッドに連れ込んで責任も取らない最低野郎だ!」二秒ほど沈黙した後、すみれはふと首をかしげた。「……あなた、乙女だったの?」「はあ?!」「被害者ぶらないで。昨夜はお互い納得の上でしょ。大人なんだから、純情ぶった少年みたいな顔してどうするの?ここ数年であんたが寝た女……百人いなくても、五十人はいるんじゃない?そのたびに責任取るなんて言ってた?同じことよ。私もあなたに責任なんて取らない。自分ができないことを、人に押し付けないで」広輝は、これまで自分の言葉が巡り巡って返ってくる――いわゆるブーメランなど信じてはいなかった。だが今、その鋭い刃が見事に眉間へ突き刺さった感覚を覚える。「ちっ……誰が責任取れなんて言った?!女に困ってるわけじゃねぇ。お前に責任取られなくても、俺は全然平気だ」「それならよかった」すみれは、ほっと胸をなでおろした。その安堵しきった表情を目にして、広輝は静かに拳を握りしめる。しかし声色は穏やかで、表情にも一切の綻びを見せなかった。「……お前の言う通りだ。大人同士だし、何かあっても引きずる必要はない。ただの気晴らしってやつだ。だが協力を中止ってのはどういうつもりだ?契約を一方
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第508話

広輝が去ったあと、すみれはテーブルに残った碗や箸を、露骨に嫌そうな目で眺めた。——しまった、片付けさせてから追い出せばよかった……「もしもし、ハウスキーパーを2時間でお願い。ええ、家中の掃除……徹底的に。特にソファを重点的にね……」一方その頃、広輝はドアを叩きつけるように閉めて出て行き、そのまま車で自宅へ向かった。スピードメーターは150キロ近く、命知らずとしか言いようのない運転だ。帰宅すると、ためらうことなく服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。昨日の名残の匂いを、熱い湯で洗い流そうと必死だった。だが——どれだけ念入りに洗っても、風呂を出た瞬間、微かに鼻先をかすめるのは、すみれだけが持つ甘やかな香り。「クソ——」彼は苛立ちのあまり、ソファを一蹴した。だが——次の瞬間、脳裏に浮かんだのは、昨夜の光景。ソファで始まり、やがて寝室へ……絡み合う手足、息が詰まるほどの熱。狂おしいまでの一夜の断片が、容赦なく甦った。広輝はどれだけ頭をひねっても答えが出なかった——昨夜はあれほど熱く、挑発するように迫ってきた女が、なぜ翌朝には氷のような表情で「もう来ないで」などと言えるのか。しかも——俺の作ったラーメンを食べたじゃないか!広輝、この二十数年の人生で初めて女性に料理を作った。たとえそれがインスタントラーメン二杯だとしても、本人にとっては前代未聞の出来事だ。なのに彼女は——食べ終わった途端に手のひらを返しやがった!「くそっ!」広輝はソファに二度目の蹴りを入れた——が。「いってぇっ!痛い、痛い!……お前まで俺に逆らうのか!?蹴ってやる、蹴ってやる!蹴ってやる!」ソファは無実だったのに。——ああそうか、縁を切るんだな?なら切ってやるさ。できれば木っ端微塵になるまでな!そう思うと、広輝はスマホを取り出し、すみれのすべての連絡先をブロックした。全て終えると、彼はスマホをソファに放り投げ、寝室で横になろうとしたが……ピンポーン!インターホンが鳴った。広輝の心臓が急に高鳴り、呼吸もすこし滞った。ふん、追いかけてきて謝ったからといって、簡単に許すものか、こっちにも意地がある。せめて頭を下げ、きちんと酒を注ぎ、さらに甘えるように「悪かった」と口にしてくれなければ、謝罪を受け入れるなんて考えも
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第509話

「違うって……母さん、よく考えてよ。俺は母さんの息子だぞ、すみれなんて何様なんだよ。ちょっと文句言っただけで足を折るなんて、ありえないだろ!?」「だって彼女は私が認めたお嫁さんなんだから。誰にもいじめさせないわよ、あんたも含めてね」広輝の目と鼻がじんわり熱くなった……お嫁さん、だと……彼は背を向け、腕を組んで鼻声でつぶやいた。「あの子は目が高いから、母さんのこんな物には興味ないよ……」この息子にも興味ないんだ!「それはそうね」小百合はうなずき、「すみれは確かに目が高いわ。でもね、彼女にはもっといい物を求める資格があるの。誰もあんたみたいに、毎日ゴロゴロして、生きてるのか死んでるのかもわからない人間ばかりじゃないんだから」広輝は勢いよく振り返り、怒鳴った。「俺は母さんの息子だぞ!実の!」「知ってるわよ、そんな大声で私の心を突き刺さなくてもいいでしょ」「……?」「とにかくこれは置いていくから、タイミングを見てすみれに渡しなさい。できるだけ早くよ、わかった?」「……」既読、無返事。小百合はそのまま手を伸ばし、広輝の耳をつまんだ。「聞こえたの?」「痛い痛い!痛いってば!聞こえた!聞こえたよ!」「あ、それと来週末にお茶会を開くから、すみれを連れてきなさい。ちょうど私の友達にも紹介できるし」「い、いや……いいんじゃないかな?」広輝は視線を泳がせた。もう別れて連絡先もブロックしたのに、どうやって連れてくるんだ……小百合は表情を曇らせた。「何がいいよ?言われた通りにしなさい、余計な口をきかないで」「じゃあね、これから買い物に行く約束があるから先に行くわ。あとでちゃんとすみれに電話するのよ」「……ああ!」広輝は声にならない声を漏らし、小百合はようやく満足そうに立ち去った。こっちは広輝が頭を抱えるほど悩んでいる一方で、すみれはいつも通り出勤し、仕事も休暇も普段と変わらず過ごしていた。時にはバーに寄ったり、スポーツを楽しんだり、日々の暮らしは以前と何も変わらない。ただ一つだけ、例外があった……「すみれ、あなたと広輝も付き合ってもうしばらく経つわよね。私は会ったことがあるけど、いつになったら正式に家族に会わせてくれるの?」と真白が言った。すみれはすぐにスマホを耳から離し、「もしもし?お母さん、今
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第510話

「どうしたの?」と凛が声をかけた。二人はぱっと顔を上げ、その様子はまるで悔しい思いをしていた子供がようやく親に会えたかのようだった。早苗はすぐに駆け寄り、何も言わないうちから目を赤くしていた。学而も後に続き、目に見えて表情がこわばり、拳を握りしめている。凛はたちまち嫌な予感がしたが、慌てずに尋ねた。「何があったの?どうして入口で座っていて入らないの?」「凛さん……」早苗は涙をこらえ、目に涙を浮かべながらも、意地でもこぼさなかった。「私たち、入れなくなったの!」「入れないって、どういうこと?」凛は驚いた。「昨日、学校の監察チームと消防隊が突然実験室に来て、検査すると言って……」消防検査は通常の検査だから、二人は深く考えずにドアを開けて協力した。ところが、その人たちは入ってくるとまず二回りし、あちこちを見たり触ったりしたあと、最後にこう告げた——消防検査不合格、一週間以内に撤去して改善せよ!そう言うと、二人に説明や反応の時間も与えず、すぐに書類を書いてドアに貼り付けた。「……その時、私と学而は呆然とした」早苗は言った。「先週、向かいの研究室も消防検査を受けたけど、職員は入って形式的に見てすぐに帰っていったのに、どうして私たちの番になったら不合格になるの?しかも撤去して改善しろだなんて!」やっと片付け終わった研究室、新しく買ったCPRTだって、まだ数日も使っていないのに……どうしてそんなことになるのか。凛はここまで聞いてもまだ冷静だった。「じゃあ、どうして入口で座ってるの?一週間以内に撤去なんでしょ、どうして中に入らないの?」学而は言った。「今回は消防隊が改善命令を出したので、浪川主任が研究科で自己検査の手続きを取ると言って、僕たちから鍵を持っていった」だが、凛の手にはまだ一本鍵が残っていた。凛はまずドアを開け、「中で話そう」と促した。二人はようやく拠り所を見つけたようだった。「焦らないで、水を飲んで」席に着くと、凛は二人にそれぞれミネラルウォーターを手渡した。早苗に水を飲む余裕などなく、今にも気が焦って仕方ない様子だった。「凛さん、私たちどうすればいいの?『改善命令』って、事実上の追い出しだって聞いたことがある。皆が暗黙の了解で知ってるルールなんだって。せっかくやっと手に入れた研究室、ま
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