その言葉に、周囲は驚きの声を上げた。「冬城、いったい何を考えてるんだ?真奈とはもう契約を結んだんじゃなかったのか?」伊藤は思わず飛び上がりそうになった。なんで急に手のひらを返すんだ?真奈はじっと冬城を見つめ、眉を深くひそめた。幸江も険しい表情で声を上げた。「冬城、はっきり説明して。あなた、前に……」「幸江社長。幸江グループにも、表立って口に出せない事情はあるだろう?たとえば、前社長が退任した件など、幸江社長も詳しく説明してもらえるか?」それを聞いて、幸江の表情は一瞬で険しくなった。冬城淡々と言った。「どうやら幸江社長は話すつもりはないようだね。では、我が冬城グループの件にも幸江社長が口を挟む権利はない」冬城の言葉にはかすかな脅しが込められていた。真奈はすぐに幸江の表情が硬くなったことに気づき、伊藤の顔色までもが陰るのを見逃さなかった。冬城の狙いは明らかだった。これは、彼ら自身に冬城グループの株を手放させようとする圧だった。傍らで様子を伺っていた福本陽子は、状況が理解できず、こっそりと兄に尋ねた。「ねえ、なんか変じゃない?空気がピリピリしてるんだけど……」「俺に聞くなよ、こっちだって分かんねぇって。ったく、海城ってとこは、本当に厄介だな」福本英明は舌打ちした。数日見ないうちに、冬城はすっかり腕を上げたようだった。あれほど冬城グループの全株式を真奈に譲ると言っていたのに、何の前触れもなく、なぜ急に反故にしたのか?その場の空気がざわつく中、福本英明は周囲の目を盗むようにして、ゆっくりと会場の隅へと身を引いた。一方、幸江は顔色が優れず、一歩後ろに下がった拍子に、危うくよろめきかけた。すかさず伊藤が手を伸ばして彼女を支え、黒澤と真奈に向かって言った。「美琴の体調がよくない。先に連れて帰るよ」「わかった、私たちも帰ろう」これ以上、ここに留まる意味はなかった。だが、真奈と黒澤が幸江たちと共に退場しようとしたその時――「瀬川社長」美桜の声が後ろからかかった。彼女は静かに歩み寄りながら言った。「少し、二人だけでお話ししませんか?」黒澤は真奈を一目見るだけで、彼女の胸中を察した。そして低く落ち着いた声で言った。「俺はすぐそばにいる。何かあれば、すぐに呼んでくれ」「分かったわ」真奈が頷くと
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