All Chapters of 離婚協議の後、妻は電撃再婚した: Chapter 1081 - Chapter 1090

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第1081話

「素敵!!」真奈と黒澤が見つめ合っていたその時、不意に入口の方から幸江の声が響いた。二人が同時にそちらを向くと、幸江は興奮した面持ちで真奈のドレスを見つめ、「こんなに美しいウェディングドレス、生まれて初めて見たわ!なんだか私まで結婚したくなっちゃう!」と言った。言い終える前に、幸江は自分の後ろに伊藤が立っているのに気づき、頬を赤らめて慌てて言い直した。「あ、違うの、結婚したいんじゃなくて……ただドレスを着てみたいだけ!」伊藤の脳裏には、ウェディングドレス姿の幸江の姿がふっと浮かび、耳まで真っ赤になった。「美琴さん、どうしてここに?」「え?智彦に呼ばれたのよ。おじいさんが私を呼んでるって言うから来たの」幸江はあたりを見回しながら、首をかしげた。「でも……おじいさん、どこにもいないじゃない」真奈は言った。「おじいさんなら……さっきまでいらしたけど、もう帰られたの」「帰った?じゃあ、私を呼んだのは何の用だったの?」「きっと、ブライズメイドのドレスのことでしょうね」真奈がそっとスタッフに目を向けると、スタッフはすぐに意図を察して幸江に向き直り、丁寧に言った。「旦那様は幸江様のブライズメイドドレスのためにお呼びになったのです。それから、伊藤様のアッシャー用の衣装もすでにご用意してありまして、二階にございます」「私、ブライズメイドなんてやったことないけど……何か条件とかあるの?年齢制限とか?」幸江はどこか不安げに尋ねた。真奈は彼女が年齢を気にしているのを察し、やわらかく笑って言った。「ブライズメイドはね、未婚なら誰でも大丈夫だと思うわ」真奈は意味ありげに伊藤をちらりと見て、わざとらしく尋ねた。「伊藤、そうよね?」「……そ、そうだよ」伊藤はうなずいたものの、その顔にはまるで喜びがなかった。――自分だって、本当は幸江をお嫁にもらいたいのに。けれど、どうやってプロポーズすればいいのか、その糸口さえまだつかめていない。「それなら決まりね。早速試着してくるわ」幸江はスカートの裾を軽く持ち上げ、超ハイヒールのままエレベーターに乗って二階へと上がっていった。スタッフが伊藤の前に歩み出て、丁寧に言った。「伊藤様、こちらへどうぞ」伊藤はスタッフの後をついていった。もっとも、彼の意識は幸江の方に向いていた。高い
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第1082話

黒澤も眉をひそめた。真奈は黒澤を見つめて尋ねた。「遼介、あなたがこの数日かけて準備してた結婚式の会場って……海外なの?」「……分からない」黒澤は自分の記憶を疑い始めた。たしかに、国内の高級ホテルで会場を整えていたはずだ。それなのに、どうして海外の話になっている?「おじいさんのいつもの手口だよ。よくあること」ちょうどその時、幸江がブライズメイドドレス姿で階段を降りてきて言った。「たぶん、二人に一生忘れられない結婚式をプレゼントしたかったのよ」伊藤も横から口を挟んだ。「忠告しておくけど、あと三時間でドレスの試着が終わらないと、おじいさんに軍隊式の立ち姿で罰を受ける羽目になるぞ」「……」「……」真奈は、黒澤家がすでに完全な警戒態勢に入っているように感じた。これのどこが結婚式だろう。まるで作戦任務を遂行しているみたいだ。「奥様、こちらに十二人、奥様と体型がほぼ同じモデルがそろっております。どうぞウェディングドレスをお選びください」ここまできたら、もうやるしかない。真奈は覚悟を決め、すぐにドレス選びに取りかかった。三時間以内に、千着を超えるウェディングドレスと披露宴用のドレスの中から、満足できる十二着を選ばなければならない。その様子を見ていた幸江は、思わず苦笑して首を振った。「おじいさんの溺愛っぷりは本当にすごいけど……この時間制限の癖だけは、何十年経っても直らないのね」幸江はふと幼い頃のことを思い出した。黒澤おじいさんは当時から彼女をとても可愛がっていて、ある年の誕生日パーティーでは、部屋いっぱいにかわいいドレスを用意し、「好きなのを選びなさい」と言ってくれた。けれど問題は、パーティーで必要なのはたった一着だけだったことだ。あれこれ迷っているうちに、結局どれも決められなくなってしまった。あの時の自分の姿と、今の真奈の姿は驚くほどそっくりだった。三時間後、真奈はようやく十二着のウェディングドレスを選び終えた。空港へ向かう専用車はすでに黒澤家の門前で待機している。黒澤は、自分の肩にもたれてぐったりしている真奈を見て、やさしく尋ねた。「疲れた?」「もうへとへとよ」真奈は思わず笑いながら言った。「おじいさんも本当に手がかかるわね。この年になって、孫の世代でまだロマンチックをやるなんて」「もしこの結婚
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第1083話

真奈は幸江に座席へ押し戻され、見張られているのを見て苦笑した。「美琴さん、私もう飛行機に乗ってるのよ?まだ逃げると思ってるの?」「逃げるなんて心配してないわよ。心配なのは、私が任務を果たせなかったってことで、おじいさんに帰ってから軍隊式の罰を受けることなの!」「美琴さん、姉妹みたいな仲なんだから、この飛行機がどこへ向かってるかくらい教えてくれてもいいでしょ?」「遠くないわ。あなた、行ったことある場所よ」「私が行ったことある?……海外?」幸江はすぐに首を横に振った。真奈はさらに聞いた。「じゃあ……雲城?」幸江はまた首を振った。「違う!とにかく私は口を割らないわ!」「……ってことは、洛城ね」「……」真奈がこれまでに訪れた場所はそう多くなく、幸江が知っている彼女の行き先となれば、さらに限られていた。この三つ以外の場所には、行ったことなどない。それに、予告編に映っていたあの場所――どう見ても、黒澤おじいさんがわざわざ結婚式を挙げるような場所は、寂れた島ではなかった。真奈がぴたりと答えを言い当てると、幸江は思わず口を押さえ、曖昧にごまかした。「私は何も言ってないからね。全部あなたが勝手に当てたんだから。あとでサプライズが台無しになっても、文句は言わないでよ!」真奈は困ったように首を振った。「別に洛城が嫌いなわけじゃないけど……どうしてよりによって洛城なの?」「他に理由なんてある?洛城には一番豪華な城があるのよ。外から見れば治安の悪い街で評判も良くないけど、実際は贅を極めた都市。私たちみたいなお金持ちにとっては、あそここそ理想的な隠居地なの」幸江は続けた。「おじいさんね、あなたにお城で結婚式を挙げさせようって、相当なお金を使ったのよ。洛城の業者は強気で、なんと料金を倍以上に吊り上げたって」「ふふん、当ててみようか。値を吹っかけたのは立花でしょ?」幸江は勢いよくうなずいた。真奈は後悔した。あの時、立花からもっとふんだくっておくべきだった、と。まったく、これじゃ立花にいいように金をむしり取られたではないか。一方、洛城では――「た、助けてください!立花社長、どうか命だけはお許しを!」工場の中で必死に命乞いする男を前に、立花はあからさまにうんざりした表情を浮かべた。軽く手を振ると、部下がすぐ
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第1084話

黒澤おじいさんが直々に仕切ってる結婚式だ。そんなところで花嫁をさらうなんて、誰ができる?「ただの冗談だ、本気にするな」そう言いながら、立花は工場の外へ歩き出した。だが、途中でふと足を止め、「ちょっと」と低く言った。「ボス、何かご指示を?」と馬場が尋ねる。「祝いの品を用意しろ。今日の午前中に持っていく」「ですが……黒澤家からは招待状が届いていないようですが……」その言葉を聞いた立花は、じろりと馬場を睨みつけ、次の瞬間、彼の尻を軽く蹴り上げた。「招待されなきゃ行けないのか?ここは俺の縄張りだ。俺が気に入らなきゃ、あいつらの結婚式なんて開かせねぇよ」「……ボスのおっしゃるとおりです」「さっさと祝いの品を準備しろ」「……はい」「待て!」「ボス、どうかされましたか?」「時間はまだある。俺が直接選びに行く」そう言うなり、立花は車へと乗り込んだ。それを見た馬場も、あとに続いて助手席へと乗り込む。洛城・市内。真奈が飛行機を降りた直後、幸江に連れられて、そのままホテルのスイートルームへ向かった。部屋ではすでにメイクアップアーティストとスタイリストたちが準備を整えており、真奈の到着を今か今かと待ち構えていた。幸江は真奈を化粧台の前にぐっと座らせて、満面の笑みで言った。「ようやくあなたが私の義妹になってくれるなんて……今日はもう最高に嬉しいわ!」「美琴さん、遼介も今、着替えたりしてるのかな?」「たぶんね。智彦が向こうでしっかり見てるし、今日のふたりは間違いなく一番かっこよくて、一番きれいなカップルよ」そう言われて、真奈は思わず笑みをこぼした。その時、ホテルのスタッフがふいにドアから入ってきて、真奈の前まで来ると、手にしたギフトボックスを差し出した。「瀬川さん、こちらは立花社長からお預かりしたものです」「立花?どうして真奈がここにいるってわかったの?」幸江は立花に対して、もともとあまり良い印象を持っていなかった。ここ数年、立花はずっと黒澤に敵意を向けてきただけでなく、彼が率いる立花グループの事業も、決して胸を張れるようなものではなかった。以前には真奈に毒を盛ったことさえあるのだ。「ここは洛城、立花の縄張りよ。あの人が本気になれば、この街に猫が何匹いて犬が何匹いるかだって全部把握できるわ」真奈
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第1085話

ふたりでダイヤモンドネックレスを眺めていたその時、幸江がふと思いついたように言った。「このネックレス、あなたのウェディングドレスにすごく合ってるわ。立花、もしかしてそれを狙ってわざと贈ってきたんじゃない?」「偶然でしょ」真奈はネックレスを首元にかざしてみた。すると、まるで誂えたようにぴったりだった。「……あれ?金庫に入れておいたネックレス、見当たりません」隣にいたスタイリストの顔が、みるみる青ざめていった。あのネックレスはかなりの高級品で、黒澤おじいさんが直々に用意してくれたものだった。もし紛失したとなれば、大変だ。幸江は眉をひそめて問いかけた。「見つからないってどういうこと?そもそも持ってきてないんじゃないの?」「そんなことありません。私が自分で金庫に入れましたし、中のジュエリーはすべて空港から今朝、専用の護送で届けられたんです。絶対に間違いありません」スタイリストがきっぱりと断言するのを見て――真奈はふと、手にしていたダイヤモンドネックレスを見下ろした。――立花、本当に子供っぽい……そう思いながら、真奈はくすっと笑って言った。「もう探さなくていいわ。これを使いましょう」「これを……ですか?」スタイリストは戸惑いを隠せずにいた。黒澤おじいさんの指示通りに準備しなかったら、不機嫌になられるかもしれない……そんな不安が頭をよぎる。真奈は穏やかに言った。「おじいさんもご高齢だし、女性のジュエリーなんていちいち覚えていないと思うの。私がこれを使うって決めたんだから、何かあっても私が責任を取るわ」「かしこまりました、奥様」スタイリストが真奈の支度に取りかかると、そばで見ていた幸江が首をかしげながらつぶやいた。「で、あのネックレス……結局どこに行っちゃったのかしら?」「空輸で洛城に届いたんだから、洛城空港が誰に支配されたのか、言うまでもないでしょう?」真奈のその一言に、幸江ははっと気づいた。――なるほど、立花の仕業ってわけね……!一方その頃。立花の車はホテルの外に静かに停まっていた。駆け足で近づいてきた給仕に、立花は車体に寄りかかりながら煙草をふかし、ぼそりと問いかけた。「物は届けたか?」「はい、無事に渡しました!」「……で、彼女の反応は?」「幸江さんはちょっと驚いていたみたいです
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第1086話

「分かった」幸江が前に出て、黒いギフトボックスを受け取った。ふたを開けると、中には精巧に作られたブローチが収められていた。それはコチョウランを模したデザインで、茎の部分は鋭く細長く、美しい曲線を描いている。花芯にはいくつかの細かなダイヤが散りばめられていて、まるでガラスのように透き通っており、一目見ただけで高品質のダイヤモンドだとわかる。幸江は首をひねりながら言った。「綺麗なのは綺麗だけど、ちょっと地味じゃない?立花がなんでこれを贈るのかしら。それに、針の先がやけに尖ってる……下手したら刺さっちゃいそうよ」「ちょっと見せて」真奈が手を差し出すと、幸江はブローチをそっとその上に載せた。真奈は手に取ってじっくりと眺める。いくつも並んだ細かなダイヤは、どの角度から見ても美しく輝いており、そのカットの精度はかなり高い。こういう仕上がりにできるのは、相当腕のいい職人でなければ難しいはずだ。そして何より、コチョウランのデザインがまた素晴らしい。優雅で、高貴で、それでいてどこか捉えどころのない神秘性が漂っていた。真奈は言った。「立花にこんなセンスはないわ。たぶん、彼の贈り物じゃない」「そうなの?じゃあ、誰が贈ったの?」と幸江が不思議そうに顔を近づけた。彼女は興味津々でブローチをのぞき込んだが、いくら見ても「綺麗」以外に特別な点はよくわからない。「しまっておいて。私、これけっこう気に入ったわ」真奈がブローチを差し出すと、幸江も頷いて答えた。「分かったわ!」その頃、車の中で冬城は、手の中の指輪をふと見下ろしていた。ダイヤはもう外されていて、残っているのはただのリングだけ。だが、彼の口元にはごくわずかな笑みが浮かんでいた。おそらく……これが一番いい。一方その頃、給仕は冬城を見送ったばかりだった。手にした札束を嬉しそうに数えていたが、戻ろうとしたその時、スポーツカーから降りてきた男と鉢合わせた。白石はサングラスをかけ、銀のスパンコールが散りばめられた真っ白なトレンディスーツを身にまとっていた。その後ろからマネージャーが必死に追いかけてきて叫んだ。「白石、夜はレッドカーペットがあるんだから!」「ただの結婚式に出るだけだろ?そんなに急ぐことない」「結婚式って……!こんなところ、パパラッチに撮られたら大ごとだよ!そうなったらま
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第1087話

幸江は、もう見ていられないといった様子で前に出て、贈り物の箱をひょいと取り上げながら尋ねた。「これ、また誰からよ?」給仕はしばし考え込んだあと、慎重に言葉を選んで答えた。「えっと……ヘルメットを被った、赤髪の方です」ヘルメットに赤髪――その特徴を聞いた瞬間、真奈の脳裏に浮かんだのは佐藤泰一の姿だった。「その人は?」と真奈が尋ねると、給仕は慌てて答えた。「もう立ち去られました。ただこれを渡してくれとだけ言って、他には何も……」幸江も、ここまで聞けば誰が来たか察しがついた。きっと佐藤泰一だ。だが、彼が今どこで何をしているか、皆わかっているつもりだった。彼は佐藤茂から何かしらの任務を命じられて出ている――それだけは確かだ。けれど、その任務が何なのかまでは、詮索しない方がいい。ときに、知りすぎることは必ずしも幸せとは限らないのだから。「どうやら、僕は一歩遅かったようだ。あなたはもうこんなに祝いの贈り物を受け取っている」白石は困ったように肩をすくめ、背後から白いリボンが結ばれた長方形のギフトボックスを取り出した。箱を開けると、中には上品な水晶のブレスレットが収められていた。「ちょっと、もしかしてみんなで相談でもしてたの?どれもアクセサリーじゃない!」「全部……?」「そうよ、見て。ブローチがひとつ、ネックレスがひとつ、それにあなたからの水晶のブレスレット。例外なく全部アクセサリー!」幸江は呆れたように舌打ちして言った。「やっぱり男ね。アクセサリーのほかに、贈るものといえばリップかバッグしか思いつかないなんて……もうちょっと工夫できないのかしら?」その頃――「遼介、俺が贈るこのイヤリング、美琴は気に入ってくれるかな?美琴って、あのブランドがすごく好きなんだよね。だから新作のリップ、全部買っちゃったんだけど……でも、こんな贈り物じゃ気に入ってもらえないかもしれない」伊藤はスイートルームのソファに寝転がり、手にした蝶のイヤリングをゆらゆらと揺らしながら、憧れに満ちた目で語った。「これは俺がデザインしたオリジナルのイヤリングなんだ。美琴って、小さい頃は庭で蝶を追いかけるのが大好きだったんだよ。これを見たら、きっと感激して涙を流すはず……!」だが、試着室の中は静まり返っていて、まったく反応がない。しびれを切らした伊藤はむっと
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第1088話

「……」一方その頃。真奈はすでにウェディングドレスに着替えていた。その姿を見たスタイリストとメイクアップアーティストは、思わず感嘆の声を漏らす。「奥様、このドレスは本当にお似合いです。」「どんなレッドカーペットの女優でも、奥様の美しさにはかないませんよ」褒められ続けて、真奈は少し照れくさそうに笑った。白石も穏やかな声で言った。「そのドレス、本当によく似合ってる」「ありがとう」外では、空がすっかり明るくなっていた。白石はちらりとその空を見て、微笑みながら口を開いた。「そろそろ時間だな。今日は僕が半分実家の人間として、あなたを送り出させてくれ」瀬川家には、もう真奈を送り出す家族は誰もいない。真奈は目の前の白石をじっと見つめた。この数年、嵐のような日々を共にくぐり抜けてきた。白石はいつも会社を支える柱であり、何より、自分にとって最高のパートナーだった。真奈は言った。「この2年間、あなたは半分の実家の人間なんかじゃない。あなたはもう家族同然よ」その言葉に、白石は柔らかく笑った。「いや、ただの謙遜だったんだけどね。もしあなたが僕に送り出されるのを断ってたら……たぶん、ちょっと拗ねてたと思う」その時、幸江が窓際に駆け寄り、下を見下ろして歓声を上げた。「来た来た!遼介と智彦が来たわよ!早く、ドアを塞いで!」真奈はぽかんとした表情でつぶやいた。「……ドアを塞ぐ?」幸江は即座にメイクアップアーティストとスタイリストたちに指示を出し、「早く!ドアの前、ふさぐのよ!」と声を張りながらも、素早く真奈の手を取ってベッドに座らせた。真奈はまだ何が起こっているのか理解できずにいると、幸江が小声で囁いた。「これから何があっても、絶対に声を出しちゃダメよ!」「……なんで?」眉を寄せて尋ねる真奈に、幸江は自信満々に言い放つ。「そんなに簡単に花嫁をもらったら、大切にしてくれないって!だから花婿が迎えに来たら、まずはドアを塞いで足止めするの。いろんな試練を突破させるってやつ!全部ちゃんと予習済みだから、心配しないで!」「でも……」真奈が言いかけたその時、トントン――とドアを叩く音が聞こえてきた。「塞いで!入れちゃダメ!」幸江はスタッフに指示を飛ばしながら、自らもドアの前に立ちはだかった。ちょうどそのとき、廊下の向こうか
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第1089話

「はいはい!」幸江は伊藤の声を聞くなり、慌ててドアを閉めに走った。部屋の中にいた福本陽子が首をかしげて言った。「花婿が花嫁を迎えに来るんじゃなかったの?どうしてドアを閉めるの?」「子供にはわからないわ!」幸江はそう言いながら、手当たり次第に物を集めてドアの前に積み上げた。「これはね、なんとかいう花嫁の幸せのためなのよ!」「花嫁の幸せのため?」「だからわからないって言ってるでしょ!とにかく、あの男たちを簡単に入れちゃいけないの!」「でもその男たちの中に、花婿であるあなたの弟がいるよ」「……それもそうね。でも今日はダメ!」「……」福本陽子はますますわけがわからなくなり、「でも、入れないようにしたらどうやって花嫁を連れて行くの?遅れたら困るでしょ?」と尋ねた。その言葉に、幸江は一瞬固まった。「そうね……じゃあ、いつになったら遼介があなたを迎えに来てもいいのかしら?」真奈は首を横に振った。結婚式を挙げるのは、これが初めてだった。嫁ぐ前に、誰もそんなことを教えてくれなかった。幸江はすぐにスマートフォンを取り出し、慌てて検索を始めた。「もう、ネットが遅い!」その言葉が終わらないうちに、ドアの外から「ピッ」という電子音が鳴り、ホテルの扉が開いた。先に顔をのぞかせたのは伊藤だった。彼は周囲を警戒するように見回し、罠がないのを確かめると、落ち着いた様子で中に入ってきた。「遼介が花嫁を迎えに来たぞ!関係ない人は下がって下がって!」「下がって!下がって!」福本英明も虎の威を借る狐のように後に続いて入ってきた。メイクアップアーティストやスタイリストたちはその様子を見ると、気を利かせてさっと部屋を出ていった。幸江はすぐに真奈の前に立ちふさがり、「ダメよ!まだ連れて行っちゃだめ!」と叫んだ。その時、黒澤がドアのところから現れた。黒いフォーマルスーツに身を包み、ネクタイはきちんと結ばれ、髪も丁寧に整えられている。手には淡いピンク色のバラのブーケを抱えており、その姿はいつになく凛々しかった。その瞬間、福本陽子でさえ思わず見とれてしまった。本当にかっこいい……「どうして連れて行けないの?このままだとスケジュールが遅れるぞ!」伊藤は少し焦っていたが、幸江はスマホをいじりながら言った。「とにかく、新郎は何
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第1090話

黒澤は冷静な顔のまま尋ねた。「例えば?」「早押しクイズコーナーよ!」「新婦に初めて会った時、どんな印象だった?」「可愛かった」「??」伊藤は目を丸くした。「初対面でいきなり可愛いと思ったのか?」おかしくないか?伊藤の記憶では、黒澤が真奈と初めて会ったのはオークション会場の外だった。あの時の真奈の気迫と立ち姿は、まるで女王様のような迫力だった!どこが可愛いんだよ……福本英明も首をかしげる。真奈は確かに美人だが、可愛いとはまるで別方向だろう。幸江は顎に手を当て、どうにも腑に落ちない様子だったが、「好きになった人は誰でも可愛く見えるものよね」と思い直し、次の質問に移った。「初恋の相手と妻が同時に水に落ちたら、どっちを助ける?」「真奈が俺の初恋だ」「ちょっと!もっと刺激的で、頭を使う質問はないの?」伊藤はもう見ていられなかった。こんな馬鹿げた質問ばかりだ。幼児でも答えられるぞ!幸江は困ったように言った。「だって私、そういうの考えられないのよ。じゃあ……次のコーナーにする?」「……」幸江は用意していた奇妙な食材をテーブルの上に並べた。「一分以内に、激辛唐辛子を食べて、ゴーヤを一本たいらげて、酢を一杯飲む!それから砂糖をひとつかみ口に詰め込みなさい!」「今度は何の試練だよ?」「人生の味を全部味わってこそ、花嫁を迎えられるのよ!」「このあと結婚式だぞ!激辛食べたら、顔で人前に出られるか?」伊藤と幸江が言い争っている間に、黒澤はすでに無表情のまま唐辛子を口に放り込み、続けてゴーヤと酢を飲み込み、砂糖まで一気に頬張っていた。全工程、三十秒もかからなかった。「……って、え?神業じゃないか!」福本英明は思わず拝みたくなった。「うちの遼介、ほんと立派になったわ!さすが我が黒澤家の人間ね!」伊藤が冷静に突っ込む。「お前の姓は幸江だろ」「そんなのどうでもいい!同じようなもんよ!」伊藤は腕時計を見て、焦ったように言った。「あと五分だ!まだあるのか?なかったらもう花嫁を連れて行くぞ!」「あるわよ!最後の試練が残ってるの!」幸江も慌てながら言った。約束した三つの試練は、きっちり三つこなさなければならないのだ。幸江は福本陽子と一緒に来た二人の大柄なボディガードに目をやり、言っ
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