「従弟なの」静華はそう答えた。「なるほど、そういうこと。納得だわ」店員は静華の腕に自分の腕を絡ませた。「ねえ、その従弟さんって彼女いますか?よかったら紹介してくれませんか?」「ええ、もう付き合っているわ」面倒なことになるのを避けたかった静華は、笑顔でそう答えた。がっかりした店員は、つまらなそうに言う。「ピアノはここよ。演奏の時間になったら誰か呼びに来ますから……では」静華はその店員のそっけない態度も気にならなかった。ピアノにすっかり心を奪われ、愛おしそうに鍵盤へ指を滑らせる。昨日のピアノとは比べ物にならないほど素晴らしい。一曲弾いてみると、その美しい音色は店中の客を魅了し、称賛の声がずっと絶えなかった。静華の顔には自然と笑みがこぼれ、その表情は生き生きとしていた。三郎はしばらくその姿に見惚れていたが、やがて我に返ると、静華を別荘へと送り届けた。階段を上がる前、静華は尋ねた。「三郎、野崎の書斎、明かりはついているかしら?」「はい、ついております」静華はそっと拳を握りしめた。胤道がなぜ心変わりしたのかは分からない。それでも、彼への感謝の気持ちは本物だった。この気持ちは、きちんと伝えなければ。書斎のドアをノックしようと手を伸ばすと、ドアはいとも簡単に開いた。鍵がかかっていないどころか、まるで静華を待っていたかのように、わざと開けてあるかのようだった。ドアを押し開けて中へ入ると、静華の表情は少し和らいでいた。「野崎、いるの?」胤道はドアのすぐそばに座っていた。三郎の車が庭に停まった時から、ずっと待っていたのだ。静華の声が聞こえても、返事をしない。だが、静華はそこにいる彼の息遣いを感じ取り、安堵したように目を伏せ、かすかな笑みを浮かべた。「ありがとう。仕事に行くことを許してくれて。どうして許してくれたのかは分からないけれど、とても嬉しい。本当に、嬉しいの……」その喜びは、言葉にしなくとも伝わってくるほど純粋だった。その純粋な喜びに、胤道の心は動かされた。一日中彼を苛んでいた焦燥感が、ふっと和らぐのを感じる。薄い唇が、かすかに開いた。「……こっちに」静華は言われるがままに歩み寄るが、不案内な書斎の中、探るようにそろそろと手を伸ばした。胤道はその手を取り、彼女を抱きしめたい
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