「大丈夫だ」胤道は息を整え、眉をきつく寄せた。「面倒なのは嫌だ。それに、包帯を巻き直してもうよくなった。俺がむやみに動いて、また傷口が開いてしまっただけだろう」「でも……」「構わない」胤道は有無を言わせぬ口調で言った。「渡辺さん、もう下がっていい」明菜は仕方なく、後片付けをして階下へ降りていった。静華はその場に立ち尽くし、どこへ行けばいいのか分からなかった。背を向けようとしたその時、胤道が不意に彼女の手を掴んだ。「何か聞きたいことがあるのか?」胤道の黒い瞳が、彼女の顔をじっと見つめた。その言いにくそうな様子を見て、彼は彼女を自分のほうへ少し引き寄せた。「何かあるなら、ため込むな。体に悪い。何でも聞いていいんだぞ」静華は胤道の指先の冷たさを感じ、心の中に何とも言えない感情が渦巻いた。彼が純のために怪我をしたことで、心の底から罪悪感が湧き上がっていたのかもしれない。彼がひどく出血したと知った瞬間、思わず心配してしまった。だが、明菜の言葉にすら、胤道は苛立ちを見せていた。自分が口出ししても、面倒がられるだけだろう。「何でもないわ」静華は自分の手を引き抜いた。「ただ、少し疑問があっただけ。別に言うことはない。もう休むわ」胤道は眉間を揉んだ。体はひどく疲れている。彼は無理に体を支え、ついていく。「部屋まで送る」「いいわ」静華は断り、少し黙ってから言った。「あなたはその間に、チキンスープでも飲んで、休んで」「チキンスープ?」胤道の黒い瞳がぱっと輝いた。「お前が作ったのか?」「渡辺さんが作ったのよ」胤道の表情が瞬時に沈み、何も言わずに頷いた。「ああ、飲んでくる。お前は早く休め」静華は頷いて部屋に入った。ベッドに横たわった瞬間、胤道の言葉が頭から離れなかった。「チキンスープ?お前が作ったのか?」あの時の言葉には、確かな喜びが混じっていた。そして、否定の答えに、隠しきれない落胆があった。彼は本当に、自分が作ったチキンスープを飲みたかったのだろうか?朦朧としながら目を閉じ、眠りに落ちる寸前、がっしりとした体が背中に寄り添い、慎重に彼女を腕の中に抱きしめた。胤道の体から漂う淡い匂いに、静華の睫毛が震える。「どうしてまたここに来たの?隣の部屋、片付
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