このお金は、必ず返す。たとえ時間がかかっても、一銭たりとも遼一に借りは作りたくなかった。買い物袋を手に提げた遼一とともに歩きながら、二人は先ほどの宝石店の件について、黙して語らなかった。エスカレーター付近を通りかかったとき、明日香の目に一枚のシルクマフラーが映る。丁寧に手編みされた繊細な一品。値札には「¥40,000」の数字が静かに揺れていた。「気に入ったなら、買えばいい」遼一が何気なく言う。「いいよ......ウメさんに見せたら、きっともったいないってしまっちゃうから」ウメは決して利己的な人ではない。必要のないものにお金を使うことを、彼女は決して好まなかった。結局、明日香は実用性を優先して、赤と黒の手袋をそれぞれ一双ずつ選んだ。値段は合わせて六千円。贈り物としては高すぎず、ちょうど良い。買い物は三十分ほどで終わり、明日香は大きな紙袋を両手に抱えて帰ろうとした。自分用のものは一つも買っていない。もともと、足りないと感じるものなどなかったのだ。「......遼一さん?明日香?」不意に耳慣れた声が響き、明日香が顔を上げると、遥が正面から優雅に歩いてきた。黒服のボディガードを四人従え、お嬢様然とした出で立ちでハイヒールを鳴らし、今シーズンのシャネルのケープ付きロングドレスをまとっている。真紅の口紅がその存在感をさらに際立たせ、風をも切るような勢いで近づいてきた。「偶然ね!二人でお買い物?」遼一は軽く頷き、「こんにちは、遥」と挨拶を返した。遥は自然な流れで彼の腕に絡みつき、甘えた声で囁いた。「遼一さん、前に一緒に来ようって言ったとき、ずっと断ってたのに......今日はもう逃がさないわよ?夕食まで時間あるし、もう少し見て回らない?ね、明日香も一緒にどう?」遥の華やかな笑みとは裏腹に、明日香は無表情のまま、むしろ心のどこかで彼女が遼一を引き止めてくれればいい、とさえ思っていた。「私は用事があるので、二人でごゆっくり。お兄さん、黒い手袋、渡して」そう言って手を差し出すと、遥は断る隙を与えず、にこやかに笑った。「やだ。あなたが会いたいんでしょ?お兄ちゃん、仕事まだ終わってないわよ。家に帰ってもいないと思う。だったら、夕食のときに呼びなさいよ。その手袋、きっとお兄ちゃんにあげるつもりでしょ?似合うと思う
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