遥は両手で顎を支え、顔を傾けて言った。「それが人にものを頼む態度?忘れてないよね、あなたは妹の問題集を借りるために私にお願いしに来たんでしょ?私と遊んでくれないなら貸さないから。今すぐ運転手を呼んで帰るわよ」「どうぞご自由に」遼一は冷ややかに立ち上がり、踵を返そうとした。焦った遥はすぐさま隣に座り直し、彼の腕にしがみついた。「遼一さん、半日だけでいいから付き合ってよ。一人じゃ寂しいの」腕を揺すりながら甘えるように声を重ねた。「ね、お願い」一方その頃、淳也は明日香を連れて、賑わうフードコートの中を歩いていた。フロア一面が屋台で埋め尽くされ、空気は脂と香辛料のにおいが混ざり合っていた。テーブルには使い捨て容器が積み上がり、足元には食べ残しの骨が散らばり、野良犬がその間を走り回っている。焼き肉の匂いが漂うなかに、かすかに腐ったような臭いも混じっていた。明日香は足元の骨を踏み、思わず顔をしかめながら足を引いた。「ここ、なに?なんでこんなとこ連れてきたの?」「気取ってんな」そう言いながら、淳也は彼女の手首をつかむ。「人混みだ、はぐれんなよ」雑多な人々をかき分けるようにして、淳也は彼女を裏路地へと導いた。通りを抜けると人影はまばらになり、ようやく落ち着いて呼吸ができる空間にたどり着いた。路地の突き当たりには、黒い木の扉が開け放たれた小さな食堂があった。中には客が二組しかおらず、落ち着いた空気が流れている。「着いたぞ」「ご飯を食べに来たの?」「そうだよ。お嬢様のあんたが、さっきみたいな場所で我慢できるとは思ってなかったしな」そう言って、自分の服についた埃を軽くはたいた。明日香は気まずそうに首を振った。「慣れてないだけ。そういうとこ、来たことなかったし......お父さんがああいうの、ダメって言うから」「まあ、いいから入れよ」二人は席に着き、淳也はテーブルの汚れを拭き、ゴミをまとめて捨てに行った。「何食いたいか、自分で決めろよ」「親子丼」「また親子丼かよ。毎日食べて飽きないのか?」「えっ?」明日香は不思議そうに顔を上げる。「どうして私が家で毎日親子丼食べてるって知ってるの?」一瞬、淳也の動きが止まったが、すぐに咳払いして言葉を濁した。「前にお前が言ってただろ。まあ、い
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