智哉はこの瞬間、ようやく気づいた。自分の目が、本当におかしくなっていることに。彼はすぐさまブレーキを踏み、車を路肩に停めた。目を強くこすり、頭を何度か振ってみると、さっきまで真っ暗だった道路が少しずつ輪郭を取り戻してきた。街灯の光も、ようやく瞳に届くようになってきた。佳奈はそんな彼の様子を見て、不安げな表情でじっと彼を見つめていた。「智哉、怪我の後遺症で……目が見えなくなっちゃうの?」佳奈のその問いは、まるで心を見透かすように的確だった。智哉の胸にズキンと、鈍い痛みが走る。帰ってきたとき、本当はすぐに真実を話したかった。けれど、ようやく笑顔を取り戻した佳奈を、再び失望させるのが怖かった。だから、黙っていた。せめて彼女と一緒に世界中を旅して、美しい景色をたくさん見せてから――その後で伝えようと思っていたのに。こんなにも早く、再発してしまうなんて。智哉は佳奈の頬にそっと大きな手を添え、低くかすれた声で言った。「佳奈、ごめん。ずっと隠してたことがあるんだ。あの時のケガで、角膜が傷ついたんだ。保守的な治療を選んだから、完治してない。その場しのぎでしかなかった。根本的に治すには、角膜移植が必要なんだけど……前にも一度やっただろ?型が合わなくて大変だったし、二度目はリスクも高いって言われてさ。医者には、数ヶ月後に一時的な視力障害が出るって言われてたんだけど……まさかこんなに突然来るとは思わなかった。本当は隠すつもりなかったんだ。でも……あの日、君が結婚証明書を取り出した時、夢が叶ったって笑ってる顔を見て……壊したくなかった。だから、せめて世界の綺麗な景色を全部見せてから、そのあとで伝えようって……もし本当に治らなかったとしても……君が離れても、残ってくれても、俺はそれを受け入れるつもりだった」その言葉を聞いた佳奈は、智哉が想像していたような取り乱した様子を見せなかった。むしろ、静かに、彼の目を見ていた。その美しい瞳には、涙がうっすらと浮かんでいた。彼女はそっと唇を緩めて、優しい笑みを浮かべた。「智哉、実はね……あなたが帰ってきた時から、身体に何かあるんじゃないかって思ってたの。あんなに長い間昏睡してたんだもの、どれほど重いケガだったか、想像できた。だからずっと心配してた。何か
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