スマホを切ったばかりなのに、すぐにまた着信が鳴った。着信画面を見た瞬間、誠健は迷わず通話ボタンを押した。受話器の向こうから、誠健の父親の切羽詰まった声が響いてきた。「誠健、結衣がまた心臓の発作を起こしたんだ。今回はかなり重いみたいで、もう救急車は呼んである。お前、すぐに蘇生の準備をしてくれ」その言葉を聞いても、誠健の表情には以前のような焦りはなかった。低く冷ややかな声で答えた。「大丈夫、結衣は死にませんよ」なぜなら、これは結衣の仕組んだ茶番だと確信していたからだ。咲良を誘拐し、その上で自分の持病を発作させる……そうすれば、咲良が死ねば、その心臓は自然と結衣のものになる。通話を切ると、誠健の唇には皮肉めいた笑みが浮かんでいた。「どこまで茶番を演じきれるか、見せてもらおうじゃないか」知里は淡々とした表情で彼を見つめながら言った。「きっと、浩史からの連絡で計画がうまくいったと思い込んで、次の段階に移ったんでしょうね」「だから私、浩史を捕まえてもすぐに警察に突き出さなかったの。計画通りに相手に連絡させたから、結衣は咲良がもう助からないと信じ込んでる」「石井家では結衣は本当に甘やかされてたからね。もうちょっと身を慎んでいれば、誰にも気づかれずに一生贅沢できたのに。だけど、あの子は好きになっちゃいけない人を好きになった」誠健は眉をひそめた。「……俺のこと?」知里は鼻で笑った。「前はただのブラコンかと思ってたけど、今思えば全然違う。結衣は、自分があなたと血のつながりがないと知ってるからこそ、歯止めが効かずに恋してしまったのよ。それが、私に何度も手を出してきた理由でもある」その言葉を聞いた誠健の目が一瞬、鋭く動いた。脳裏に、これまでの出来事が次々と浮かんでくる。確かに、自分はバーやクラブによく出入りしていた。しかし女性と親しくなったことは一度もなかった。けれど、この数年の間に、自分についての噂がどんどん広まっていた。女癖が悪いだの、遊び人だのと。当時は気にも留めなかったが、今思うと全部――結衣の仕業だったのかもしれない。あの頃から、すでに彼女は動いていたのだ。本当に、周到に仕込んできたんだな。二十分後、結衣は病院に運び込まれた。誠健は彼女の容態を確認し、瞳に冷たい光を宿し
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