とくに、好きな人からの花ならなおさらだ。彼女は笑顔で駆け寄ると、花の真ん中に差してあるメッセージカードを手に取り、興味津々に見つめた。だが、そのカードを開いた瞬間、目に飛び込んできたのは――またしても、結衣の血まみれの写真。しかも、昨夜見たものよりもさらに凄惨だった。彼女は悲鳴を上げそうになりながら、慌ててカードをゴミ箱に投げ捨てた。その場に立ち尽くし、顔は真っ青になっていた。秘書が彼女の異変に気づき、すぐに駆け寄ってきた。「知里姉、どうしたんですか?」知里は呼吸を整えながら、震える声で言った。「この花、捨てて」「捨てる?どうして?こんなに綺麗な花なのに、もったいないですよ。石井さんと喧嘩でもしたんですか?」「してない……これ、彼じゃない。誰かの悪戯よ。誰がこの花を持ってきたのか、調べて」秘書はすぐに状況を察した。「わかりました。今すぐ処分します。たぶんアンチの嫌がらせかもしれませんし、あまり気にしないでください」知里は椅子に座り、水を一口飲んだ。だが、彼女の中では、この出来事は単なる悪戯では済まされない気がしていた。一方その頃――誠健は知里が撮影スタジオへ入っていくのを見送ると、すぐにスマホを取り出して秘書に電話をかけた。「頼んだ件、どうなった?」「石井さん、結衣さんが生前付き合っていたのは、ほとんどが財閥や上流階級の男性ばかりでした。でも、彼女が偽物だとバレた後は、全員手のひら返して関係を断ちました。ただ一人だけ、今も連絡を取り続けている人物がいます。名前は安藤直樹(あんどうなおき)。彼も結衣さんの元追っかけの一人です」誠健はその名を聞いて、眉間にシワを寄せた。「今そいつはどこにいる?」「家族の話では海外に行ったそうですが、出入国記録を調べたら、実際はまだ国内にいるようです」「徹底的に調べろ。必ず見つけ出せ」「承知しました、石井さん」電話を切ると、誠健はポケットから煙草を取り出し、一本くわえて火をつけた。深く一口吸い込む。この男は知里の自宅住所を知っていただけでなく、彼女が毎日犬の散歩に出かける時間帯まで把握していた。つまり――長い間、彼女の行動を影のように追い続けていたということだ。そのことを想像しただけで、誠健は歯を食いしばった。
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