知里は最初からわかっていた。彼がそんなに親切なはずがないと。 彼女はすぐに顔を背け、窓の外の夜景を見つめた。 「今の景色だけでも十分きれいよ。もうサプライズなんていらない」 誠健は彼女の耳元で低く、かすれた声を落とした。 「本当に?じゃあ、このあと声出すなよ」 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、知里の視界いっぱいに大輪の光が咲き乱れる。 五彩の花火が夜空に次々と弾け、やがて流星雨のように川面へと降り注いだ。 まるで幻境のような光景に、知里は思わず声をあげてしまう。 「誠健、あなたが打ち上げたの?こんな綺麗な花火、初めて見た……落ちていく瞬間まで美しいなんて」 誠健は笑いながら彼女の頭を撫でた。 「おバカ、あれがドローンだってわからないのか?」 知里は驚いて目を見開く。 「ドローンで花火ができるの?今まで龍の演舞しか見たことなかったけど……花火は初めて。こんなに美しい仕掛けを考えるなんて、誰がそんな天才なの」 「もちろん、君のカッコよくて情熱的で頭もいい男だろ」 誠健は自分の肩書きを惜しみなく付け加え、褒め言葉を全部かき集めて自分に貼りつけているようだった。 知里は吹き出す。 彼女は認めざるを得ない。目の前の男にすっかり心を奪われていた。 格好いい男なら世の中にたくさんいる。 けれど、格好よくて金持ちで頭も良くて、しかも今こうして自分一人に想いを注いでくれる人は滅多にいない。 それが、彼女を幸せにしていた。 かつて彼女は、智哉が佳奈に向けるような愛情なんて、自分の人生には縁がないと思っていた。 だが、今は思う――誠健も悪くない、と。 嵐をくぐり抜けた二人だからこそ、虹に出会えるのだ。 知里は誠健の膝の上に座り、漆黒の瞳で花火を映し込み、その美しさにさらに艶を増す。 彼女は小さく身を寄せ、彼の唇に軽く口づけしてから、笑顔で言った。 「花火、すごく綺麗……嬉しいわ。ありがとう」 その不意のキスに、誠健の胸の奥底に甘い蜜が注ぎ込まれたような感覚が広がる。 内側から溢れる甘美に、彼は笑いながら彼女を見つめた。 「これでもう満足?このあと、もっとすごいのがあるんだ」 知里は何を意味しているのか分からず、首を傾げた。 その瞬間、空に咲いていた花火がふっ
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