美羽の携帯が、ちょうどいいタイミングで鳴り出した。彼女は画面を見て、申し訳なさそうに微笑んだ。「相川社長からです、きっと急ぎの用事でしょう。私は外で出ますので、皆さんは先に召し上がっていてください」皆がしらけたようにブーイングをしたが、美羽は構わず、すばやくテラスのガラス扉を開けて外に出た。蒼生は彼女の背中を見送りながら、ワイングラスを手に取り、一口飲んだ。眼差しは何かを含んでいるようで、掴みどころがなかった。外に出た途端、美羽は携帯のアラームを止め、表情を冷ややかに変えた。彼女は決めていた。今夜が終わったら、改めて蒼生にきちんと言う。――こんなことは二度とするなと。遊びもふざけもいいだが、威圧や強要めいたことは、彼女にとっては耐え難い嫌悪だ。テラスは広く、草花があふれ、雰囲気づくりのためにフロアランプが置かれていたが、明かりはあまり強くなかった。美羽はすぐに部屋へ戻らず、外で30分ほど過ごすつもりでいた。花の間を気ままに歩きながら、朋美に電話でもしてみようかと思った。朋美は年齢のせいもあり、大きな手術を終えてからの回復は思わしくない。反応が鈍くなり、少し呆けたように見えることもある。話しかけても、返事が返ってくるまでに随分と時間がかかるのだ。医師に相談しても明確な答えはなく、ただ「できるだけ一緒に過ごしてあげてください」と言われただけだった。美羽は翠光市で働き、星煌市までは新幹線で2時間。近いとも遠いとも言えず、平日は帰れない。だから週末は帰省し、普段は電話で連絡を取っている。そう考えながら電話をかけたが、まだ繋がらないうちに、背後から誰かが急に駆け寄り、彼女を角へ押しやった!完全に不意を突かれ、美羽は悲鳴をあげそうになり、携帯を落としてしまった。通話は自動的に切れた。背中が冷たい壁に押しつけられ、一瞬にして鳥肌が立った。思わず叫んだ。「霧島社長、何してるの!」テラスはもともと暗く、角には照明すらない。混乱した彼女は顔を確認できず、体格から男だと分かる程度で、反射的に蒼生だと決めつけた。だが、返ってきたのは鼻で笑う声。――聞き覚えのある声だ。蒼生ではない。「ほう?君たち、もう触れ合う関係になったのか?」「……!」美羽は目を見開いた。蒼生でないからといって安心するどころか、かえって血
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