黒いスーツに身を包んだ翔太が姿を現した。その隣には結意と清美、後ろには屈強なボディガードたちがずらりと並び、黒い圧迫感で場を支配した。全員が本能的に立ち上がった。翔太を知らぬ者などいない。大輔は数秒間呆然とした後、反射的に笑顔を作った。「夜月社長……夜月社長!どうしてこちらへ?」翔太の視線が一瞬だけ美羽をかすめた。美羽は呼吸を止め、彼の出現に驚きを隠せなかった。翠光市の冬は冷える。翔太は黒い革手袋をはめており、それを外しながら淡々と告げた。「こちらで舞踊の披露があると耳にしたもので、少し見聞を広めに来た。稲田副社長、俺のような招待されてない者でも構わないよね?」「もちろんですとも!夜月社長も踊りをご覧になると?」大輔の脳裏が素早く回転した――翔太が美羽を業界から追い出したのは周知の事実。これは過去の恨みをまだ忘れておらず、わざわざ笑いものにしに来たのでは?翔太は意味深に微笑んだ。「食卓で踊る姿はまだ見たことがないから、興味があってね」大輔が美羽に顔を向けた。「夜月社長がお望みなら、真田秘書は断る理由がないよね!」結意が翔太のスーツの裾を引き、美羽を庇うように声をかけた。「翔太……」翔太は片手を軽く上げて、黙らせた。美羽の喉は治っているはずなのに、またも痛みが走った。彼女が見上げると、翔太は手袋を外して手に持ち、清美が椅子を運んできたのを受けて腰を下ろした。脚を組み、手袋を膝に置いて、余裕の態度で「本気で舞踊鑑賞をする」構えだ。明香里が冷笑した。「真田秘書、早くお上がりなさい!」翔太はくすりと笑った。「俺が真田秘書に踊れと言ったか?」明香里は呆気にとられた。大輔も同じだった。彼はてっきり、美羽を笑いものにしに来たのだと思っていたのに――「で、では夜月社長はどなたの踊りをご覧に?」十人近い人間が立つ中、席に着いているのは翔太ただ一人。彼は微かに顎を上げて全員を見回したが、その視線に圧はあるが、卑屈さはなかった。むしろ、見られた側が自然と背筋を伸ばしてしまった。「ここには副社長も、秘書も、アシスタントも、営業マンもいる。皆、それなりの立場がある人間だ。――だから踊るのは彼らではない」「立場がない人間」はただ一人。明香里だ。彼は明香里に踊らせる気なのだ。美羽はそっと唇
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