Semua Bab 合格したら、もう一度私を愛して: Bab 1 - Bab 9

9 Bab

第1話

再び目を開けたとき、俺は大学入試を3か月後に控えた高校3年の秋へ戻っていた。今日は、学園一の美少女・未央に告白し、プロポーズするために2000万円を用意した日だった。引き出しにしまわれた通帳を見ながら、それを見た瞬間、過去の自分を思い切り殴りたくなった。世の中には、女に尽くした末に思いを遂げる男もいる。俺は何一つ報われなかったうえ、死ぬ間際まで未央が自分を愛していたかどうかにこだわっていた。救いようのない愚か者だ。あまりにも惨めな最期だったから、神様も見かねたのだろうか。俺はもう一度、人生をやり直す機会を得た。前の人生で、未央の家は多額の借金を抱えていた。両親は大学進学を諦めさせ、借金の肩代わりを条件に、地元の資産家の息子との縁談を受けさせようとしていた。それを知った俺は、自分を止める両親に「未央と結婚できないなら死ぬ」とまで言い放った。そして両親が進学資金として用意してくれた2,000万円のほとんどを、未央の家に渡した。借金を清算する代わりに、彼女を高校へ通わせ、大学進学も認めるよう迫った。未央の両親は彼女を初恋の相手と別れさせ、高校卒業後は俺と婚約するよう約束させた。事情を知った両親は激怒した。それをきっかけに俺は両親と激しく衝突し、とうとう絶縁した。その結果、卒業後は進学できず、働いて得た金を未央の学費につぎ込むことになった。未央は勉強だけでなく、音楽も美術も得意だった。やがて博士号を取り、才色兼備の研究者として世間に名を知られるようになる。一方の俺は、授業中に眠ってばかりで、クラスの平均点を引き下げる問題児だった。未央から見れば、勉強もせず、けんかばかりしている不良にすぎなかった。俺は彼女を救った英雄のつもりでいた。だが未央にとっては、弱みにつけ込んで結婚を迫った卑劣な男だったのだ。未央は一度も俺に笑いかけなかった。婚約してからも、手を握ることさえ許さなかった。だから死ぬ直前、彼女が初恋の相手を抱き締めているのを見て、あの問いを口にした。7年もの間、俺はすべてを捧げた。それでも彼女の心は、ほんの少しも動かなかった。どれほど尽くしても、未央は俺を見ようとさえしなかった。情にほだされることが、俺の最大の弱点だった。せっかく人生をやり直せるのだ。もう一度でも未央を哀れんで頭を下
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第2話

18歳の未央は、記憶の中と変わらず美しかった。けれど、そのきれいな顔にだまされた代償なら、嫌というほど払った。前の人生で俺は未央に人生を壊された。7年間支え続けた妻は、博士号を手にしたその日、俺ではなく初恋の男を抱き締めていた。今では、顔を見るだけでも吐き気がする。俺が背を向けると、人だかりからどっと笑いが起きた。岳が慌てて腕をつかんでくる。「おい、学校一の美少女が告白しに来たんだぞ。本当に帰るのか?」告白?俺に?聞き間違いだと思った。だが、背後から未央の声が響いた。「朔!私、本気であなたに告白しに来たの!」未央は俺の前まで来ると、花束を胸に抱き、まっすぐこちらを見つめた。その顔は真剣そのものだった。だが、何かがおかしい。前の人生で初恋の男に告白したとき、未央が持っていたのは、あいつの好きな白いバラだったはずだ。なぜ今回は、俺の好きな赤いバラなのか。しかも、告白する相手まで俺に変わっている。考えれば考えるほど、わけがわからなかった。見物していた生徒たちが、「付き合え」「付き合え」とはやし立てる。未央は顔を上げ、きらめく瞳で俺を見た。「私に、チャンスをくれない?」体がこわばった。それは前の人生で、未央が初恋の男に告白したときの最初の一言だった。二人の恋を引き裂いた悪者として、俺は学校中から責められた。けれど、未央をあの家から救ったのは俺だ。未央の両親が裏で何をしていたのか、当時の俺は何も知らなかった。それでも何年もの間、悪人扱いされたのは俺だけだ。思い出しただけで胃がむかついた。今度こそ、彼女の顔など見たくない。そのとき初めて、前の人生の未央がどんな気持ちだったのか、少しだけわかった。嫌いな相手につきまとわれるのは、これほど不快なことなのだ。廊下が静まり返り、皆が俺の返事を待っていた。未央は学年トップで、誰もが認める学校一の美少女だ。俺がいつまでも答えないでいると、未央は両手に持った花束をそっと差し出した。どこか恥ずかしそうに頬を染めている。「毎日、あなたに会えることだけを楽しみにしていた。あなたが、暗かった私の人生を照らしてくれたから」耳を疑った。人を寄せつけなかった未央が、前の人生で自分につきまとっていた男に愛を告げている。本当に、俺の知
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第3話

その日の未央は制服をきちんと着こなし、髪を高い位置で一つに結んでいた。すっきりとしたポニーテールが、いつも以上に可憐に見えた。教室は水を打ったように静まり返っている。俺だけが、まるで人が変わった未央を冷ややかに見つめていた。ある疑いが、ずっと頭を離れなかった。周囲の視線など気にも留めず、未央はまっすぐ俺の席へやって来た。「今日から隣の席だね。よろしく、朔」担任は未央の発言をたしなめたものの、どこか上機嫌だった。学年平均が最下位のC組に首席が加われば、クラスの成績が上がると期待しているのだろう。未央の熱烈な行動は、たちまち教室中の噂になった。彼女の幼なじみである朝倉凌(あさくら りょう)も成績はトップクラスで、女子生徒から絶大な人気を集めている。二人は普段から親しく、誰もが似合いのカップルだと思っていた。教師たちも、よほど目に余らない限り口を出さなかった。それなのに未央は自分からクラスを移り、担任に頼み込んで俺の隣の席に座った。先日の告白と合わせれば、どういう意味かは誰にでもわかる。だが俺の答えは変わらなかった。「俺みたいな落ちこぼれには、お前はもったいない」未央は少しもくじけず、明るく笑った。「大丈夫。また告白するから」前の人生とは何もかもが逆だった。あまりに違いすぎて、頭の中がまとまらない。一人になりたくて、俺は音楽室へ向かい、吸い寄せられるようにピアノの前へ座った。胸の中では、言葉にできない感情が渦巻いていた。両手を鍵盤に置き、静かに音を重ねていく。そうしている間だけは、心のざわめきを抑えられる気がした。学校のピアノは古く、音も決してよくない。それでも自分の指からこぼれる旋律は、思いのほか美しく音楽室を満たしていった。忘れていた感覚が、指先から戻ってきた。死んだようだった心が、かすかに動き始める。曲を終えて顔を上げると、室内に大きな拍手が響いた。未央が隅に立ち、目を輝かせながら手をたたいていた。「朔、ピアノがこんなに上手だったんだね」褒められても、俺は何も答えなかった。昔の俺は、将来を嘱望されたピアノ少年だった。高校卒業後は海外の音楽大学へ進むはずだったのに、未央を愛したことで、その未来はすべて消えた。ピアノを弾いていた指には、働き詰めの日々で分厚
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第4話

昼休みが終わり、弁当箱を手に廊下を歩いていると、何人もの生徒がこちらを見ながらひそひそ話していた。俺は足早に通り過ぎた。そんな視線は気にならない。人生をやり直せるのなら、まずは前の人生で犯した過ちを償いたい。他人の目など気にしている場合ではなかった。先日の告白を皆の前で断ったせいで、校庭へ出ても好奇の目を向けられた。「あれが星野?別に大した男にも見えないのに、よく雨宮さんを振れたよな。何様なんだよ」「雨宮さんは学年首席だぞ。星野みたいなやつを好きになるわけがない。きっと、うまいこと言ってだましたんだ」「わざと焦らしているだけじゃない?内心では喜んでるくせに。感じ悪い」もっと心をえぐる言葉をいくらでも聞いてきた俺には、そんな噂を相手にする気などなかった。立ち去ろうとしたとき、背後から未央の怒った声が飛んできた。「もうやめて!朔はそんな人じゃない。これ以上ひどいことを言うなら、先生に報告するから!」未央は生徒会長だ。その言葉には、生徒たちを黙らせるだけの重みがあった。集まっていた生徒は、気まずそうに少しずつ散っていった。広い校庭に、俺と未央だけが残される。未央がこちらを見つめていたが、俺は表情を変えずに歩き出した。助けてもらったつもりもなければ、感謝する気もない。前の人生で、俺が働いて稼いだ金を学費として渡すたび、未央は見下すような顔をした。金で愛情をつなぎ止めようとする汚い人間だと、面と向かって罵られたことさえある。だが大学へ通うにも、大学院で研究を続けるにも金はかかる。未央は金に執着しない清廉な人間のつもりでいて、生活を支えた俺だけを卑しい人間として責めた。未央の中で、俺はその程度の男だったのだ。いちばん深い傷をつけるのは、たいてい、いちばん愛した人だ。頭では納得できることでも、やっぱり悲しくなることはある。一度深く傷つけられたら、もう許すことはない。時間がすべてを消してくれるわけじゃない。その傷跡は、死ぬまでずっと、俺の心に残り続ける。だから今さら未央に優しくされても、嫌悪感が増すだけだった。彼女を無視して通り過ぎようとすると、腕を強くつかまれた。泣きそうな声が耳に届く。「朔、本当に……もう一度だけでも、チャンスをくれないの?」未央の声は震えていた。目はひどく赤く腫
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第5話

未央の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。指一本、動かせなかった。信じていないと思ったのか、未央は俺の叔母のことまで話し始めた。叔母は、前の人生で唯一、俺と未央の結婚を応援してくれた身内だった。両親と絶縁してからも、俺は叔母とだけは連絡を取り続けていた。だが未央が叔母の存在を知ったのは、大学受験が終わってからだ。固まったままの俺に焦れたのか、未央が不満そうに袖を引いた。それは前の人生で、未央が俺に甘えるときによくしていた仕草だった。俺は笑みを浮かべる未央を見返し、乾いた唇をなめた。どうりで、俺が戻ってきてからの未央は別人のようだった。未央の選択は何もかも前の人生と正反対で、ことごとく俺の予想を外れていた。初めは、俺が過去へ戻ったことで生じた変化だと思っていた。だが未央も、同じように人生をやり直していたのだ。黙り込んだ俺を見て、未央の目に不安が浮かぶ。言葉も次第に早口になった。「私は本当に、あなたの妻だったの。朔、あなたは私のために家族まで捨てた。ご両親が海外留学のために用意した2000万円を持ち出して、私を大学へ行かせてくれた」未央は都合の悪い部分を避けながら、必死に俺の信頼を得ようとしていた。わからなかった。未央も人生をやり直しているのなら、真っ先に初恋の相手のもとへ行くはずではないのか。二人の仲を引き裂いた大悪人である俺を、なぜ追いかけてくる。どうにか動揺を抑え、俺は静かに告げた。「お前の話を信じる。俺も、前の人生の記憶を持っているからだ。お前も覚えているなら、わかるだろう。前の人生で、俺がお前を愛したために何を失ったのか。だから今度は、同じ過ちを繰り返さない」未央の顔から血の気が引いた。信じられないものを見るように、俺を見つめている。俺は苦く笑い、首を横に振ってその場を離れた。未央が背後から何度も名を呼んだが、一度も振り返らなかった。二人そろって同じ過去へ戻ってきたなど、常識では考えられない。俺の頭の中も混乱したままだった。教室へ戻ると、紬に弁当を渡した。紬は眉を寄せた。「今日は遅かったね」弁当が遅くなって怒っているのだと思い、俺は慌てて謝った。「悪い。途中で少し面倒なことがあって」「余計なことに振り回されて、勉強をおろそかにしないで」紬は
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第6話

家の前に立ち、何度も深呼吸をした。こみ上げる涙を、どうにか抑えたかった。それでも玄関を開け、台所に立つ父と、携帯を握り締めて俺の帰りを待っていた母の姿を見た瞬間、声が震えた。「父さん、母さん。ごめん。ただいま」ソファに座っていた母は、俺の声を聞くなり駆け寄ってきた。声を上げて泣きながら、強く抱き締められる。台所にいた父は表情を変えなかった。だが手を止め、こちらを振り返った。俺は母を支えてソファに座らせると、その場に正座して深く頭を下げた。母は驚いて立ち上がり、俺を立たせようとした。だが父が首を横に振るのを見て、ゆっくり腰を下ろした。「母さん、ここまで育ててもらったのに、本当にごめん。二人が何度も言ってくれたことも、全部無視した。俺はどうかしてた。女一人のために、両親を脅すようなことまでした。最低だった」母の目には、もう涙があふれていた。父も背を向け、こっそり目元を拭っている。前の人生では十数年越しになってしまった謝罪を、ようやく二人に伝えられた。そう思うと、後悔で胸がいっぱいになった。「恋愛に反対しているわけじゃないのよ。あなたも、もうすぐ高校を卒業する。いつか自分の家庭を持つでしょう。私たちが怒ったのは、一人の女の子のために命まで持ち出して、私たちを捨てようとしたからよ」母が次第に声を荒らげると、父は台所から出てきて、その背をさすった。「今度こそ、本当にわかったのか」家に入ってから一言も発しなかった父が、ようやく口を開いた。俺は力強くうなずいた。「俺が悪かった。女のために二人と縁を切ろうとするなんて、絶対に間違ってた。雨宮未央とは、もう話をつけた。今の俺とあいつには何の関係もない。これからは勉強に集中して、大学受験に備える。二人が育ててくれた分、今度こそ親孝行する」言い終えると、泣き続けていた母が俺の手を取り、隣に座らせた。父は何も言わず、台所へ戻っていく。「おい、手伝え。料理を運ぶぞ」立ち上がろうとした俺を、母がそっと引き止めた。「あの人、平気な顔をしているでしょう。でもあなたが帰るまでは、ずっとここで待っていたのよ。あなたの好きな海老フライを作るって、ようやく台所へ行ったの。あなたから連絡が来たとき、すぐ気づけるようにって、私にはここで待っていろと言ったの。何でもないような顔を
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第7話

夕食を終えると、その夜は翌日の授業に備えて早めに休んだ。翌日の昼休み、教室の前では岳が待ち構え、にやにやしながら俺を見ていた。何のことかわからずにいると、岳が近寄ってくる。「朔、お前、相変わらずもてるな」岳の視線を追って、自分の席を見た。勉強道具で散らかっていたはずの机は、きれいに片づけられている。空いた場所には、弁当箱が隙間なく並べられていた。一目で未央の仕業だとわかった。どれも、彼女が好きな色の弁当箱だったからだ。俺は無表情のまま視線を戻し、岳を見る。岳はうれしそうに、俺と未央を交互に見ていた。だが俺が喜ぶどころか、むしろ腹を立てていることに、ようやく気づいたらしい。いつものふざけた表情を消し、真顔になった。「まさか、前に振られたくらいで、本当に恋愛そのものを諦めたのか?」岳が知る俺は、狙ったものを手に入れるまで決して諦めない男だった。それが未央に一度拒まれただけで身を引くなど、普段の俺からは考えられないのだろう。俺は岳を見て、意味ありげに笑った。「人生を一度やり直してるからな。今は勉強だけして、恋愛は遠慮したい」岳は何を言われたのかわからない顔をして、俺のあとを追って教室へ入った。俺は岳の顔の前へ弁当箱を突き出した。「食べたいなら、全部やる。俺はもう昼食を済ませた」そこで岳は、ようやく俺が未央を本気で諦めたのだと悟ったらしい。何か言いかけたそのとき、未央が駆け寄ってきた。俺と岳の間に割って入り、手渡しかけた弁当箱を強引に俺の手へ戻す。「朔の好きな海老フライを、朝から作ったの。少しだけでも食べてみて。口に合うといいんだけど」未央は期待に満ちた目で俺を見上げていた。「いらない。もう食べた。雨宮さん、時間があるなら問題集でも解いたらどうだ。俺みたいな落ちこぼれに構う必要はないだろ」前の人生で、俺は未央の言うことに逆らったことがなかった。不満を口にしたことすら、ほとんどない。これだけ言えば、未央は弁当箱を持って立ち去ると思った。だが顔を上げると、そこにはさっきよりも強い決意が浮かんでいた。「私は諦めない。朔に一度断られたくらいで駄目なら、二度でも三度でも伝える一年かけてでも、もう一度、私を好きになってもらうから」そう宣言した日から、未央は毎日のように弁当を持
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第8話

未央も俺に気づいた。凌の腕を振りほどいてこちらへ来ようとしたが、足元がふらつき、再び彼の胸に倒れ込む。「やっぱり、気持ち悪いよ」その一言で、俺を見つけたときの未央の喜びは消えた。未央は凌の腕からずるずると崩れ落ち、その場に座り込んで泣き始めた。俺には、その姿さえ皮肉にしか見えなかった。背後で何度も引き止められたが、振り返らず、自転車に乗って家へ向かった。信号待ちをしていると、互いの体を支え合いながら横断歩道を渡る老夫婦が目に入った。街灯に照らされた二人の白髪が、やけに穏やかに見えた。寄り添って歩く背中を見ているうちに、前の人生の俺と未央が重なった。目の前がにじむ。十数年もの時間を共にした夫婦だった。制服姿の頃に出会い、結婚までたどり着いた。ただ、結末だけが、俺の思い描いたものとは違っていた。もう未央のすることに心を揺らされることはないと思っていた。それなのに、不意に凌に抱えられた未央を見てしまった。このところ未央がしてきたことを思えば、十数年を共にした情が、彼女の中にも残っているのではないかと思いかけていた。もしかすると、未央も俺を愛したことがあったのではないか、と。頬を伝った涙は、向かい風に乾かされていった。結局、未央が選ぶのは凌なのだ。時間をかけて、そう自分に言い聞かせた。前に同じ痛みを味わったのは、死ぬ直前、未央が凌を抱き締めているところを見たときだった。帰宅してからも、その光景が頭を離れず、寝返りばかり打って眠れなかった。結局、翌日から放課後講習には出ず、自宅で勉強させてもらえないか、担任に相談することにした。翌朝、まだ眠りが浅い時間に、階下から言い争う声が聞こえた。乱れた髪のまま下へ降りると、未央が朝早くから家を訪ねてきていた。両親は以前の騒ぎで未央に強い不信感を抱いており、家へ入れることをきっぱり拒んでいる。未央も引き下がらず、3人は玄関先でにらみ合っていた。騒ぎに気づいた近所の人まで、遠巻きに様子をうかがっている。俺が現れると、沈んでいた未央の顔がぱっと明るくなった。「朔!」両親が人目にさらされるのは嫌だった。二人を家の中へ戻して扉を閉めると、険しい顔で未央を見た。「場所を変えて話そう」家から少し離れた川沿いに、俺と未央は並んで座った
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第9話

「最初は、あなたのことが大嫌いだった。それは認める。あなたが私をあの家から救い出してくれたことも、ちゃんとわかってた。でも、好きでもないのに結婚を迫られて、強引で自分勝手な人だと思ってた。だから最初の頃は、あなたにひどい態度ばかり取ってた。でも、そのあと私の気持ちが変わっていったこと、本当に気づかなかったの?少しでもあなたの胃に負担をかけたくなくて、料理だって覚えた。失敗したものを食べさせたくなかったから、いつも凌に味見を頼んでたの。あなたがご両親と仲直りできるように、私なりに何度も間を取り持とうとしたし、修士課程も終わりに近づいた頃には、少しでもあなたの負担を減らしたくて、研究の合間にできる仕事まで探してた。私たち、生活の時間帯がまるで合わなくて、一緒にいられる時間なんてほとんどなかったでしょう?あんなに疲れ切ったあなたを見てたら、少しでも休ませてあげたいって思うに決まってる。そんなあなたに、それ以上のことまで求められるわけないじゃない」そこまで言うと、未央は頬を赤らめ、そっと俺の胸元に身を寄せた。未央の話を聞いているうちに、同じはずの記憶が、少しずつ違う意味を帯びていった。あの頃の俺は休む間もなく働き、食事の時間も不規則で、ひどい胃炎を患っていた。未央が料理を始めたのも、ちょうどその頃だった。俺はずっと、凌に食べさせる料理の練習台にされているのだと思い込んでいた。両親と縁を切ったあと、未央が一緒に謝りに行こうと言ってくれたことも、確かにあった。だが俺は、両親に会えば未央までつらい記憶を思い出してしまうのではないかと心配し、そのたびに断っていた。「あなたを失ってから一人で過ごした3000日が、どれだけ寒くてつらかったかわかる?お金なんて、なくなったってまた稼げる。でも、あなたを失ったら……私は何を支えに生きていけばいいの?」そう言うと、未央はまた堰を切ったように泣き出した。悔しさをぶつけるように俺の胸元へ顔を埋め、服で涙を拭った。「だったら、どうしてあのとき何も答えてくれなかった?俺は最後まで、お前の答えを聞けなかった」未央は一瞬きょとんとしたあと、呆然と俺を見た。「……私が見つけたときには、あなた、もう息をしてなかったよ。体を大事にしてって、あれだけ言ったのに、全然聞いてくれなかったよね。あなたが体
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