All Chapters of 永遠の毒薬: Chapter 171 - Chapter 180

優姫が乃亜を呼び出したとき、ちょうど美咲を抱きかかえて急いで去る凌央の背中が見えた。 乃亜は唇をわずかに引き上げた。 私が正妻でありながらも二人は堂々と手をつないでいる。 本当に、私のことをまったく気にしていないんだな。 乃亜はすぐに携帯を取り出し、素早く2人の写真を撮った。 その後振り向くと、優姫が得意げに笑っていた。 乃亜は自分が愚かだと思った。 利用されているのに、楽しそうに笑うなんて。 「乃亜弁護士さん、社長と美咲さんが仲良くしているのを見て、辛くないのかしら？」 優姫は目を細めて、わざとらしく笑った。 乃亜は冷たく答えた。「あんた、馬鹿すぎて逆に褒めたくなるわ」 そう言うと、乃亜は優姫を無視してオフィスに戻った。 優姫は顔が赤くなり、怒りを抑えきれずに叫んだ。「乃亜、なんでそんなこと言うの！」 彼女にとって、乃亜はただの浮気相手に過ぎない。 浮気相手が自分にそんなことを言えるわけがないと思っていた。 乃亜は一度も振り向かず、そのままオフィスへ向かう。 その時、咲良がお茶を持って給湯室から出てきた。 優姫の前を通りかかった時、咲良は小声で呟いた。「どっちが本物の正妻かも分からないなんて、あんたは愚かじゃなくてバカだよ。乃亜姉さんはあんたに優しすぎるだけ」 優姫はその言葉に怒りが爆発し、咲良を叩こうと手を上げた。 咲良はおどけて身をかわし、うっかりお茶を優姫にかけてしまった。 服越しでも、優姫は熱さを感じ、思わず叫んだ。「熱っ！」 咲良は無邪気な顔で言った。「怒りたいなら私に言いなさいよ。お茶をこぼしたのはあんたでしょ！私に火傷させるつもりなの？！」 咲良が罪を押し付けたことで、優姫はますます怒り、言い返そうとした。「咲良、あんたこの......」 その言葉が続かないうちに、乃亜の冷たい声が響いた。「もっと強く叩いて！今、動画撮ってるから」 優姫は急いで手を引っ込めた。 同僚に手を上げる罪は、重すぎる。 咲良は笑いながら、優姫に言った。「陽子も前は美咲さん側にいたけど、あの後、どうなったか見たでしょ？」 その言葉が終わると、咲良は乃亜の腕を抱きしめ、にっこり笑いながらオフィスに入っていった。 乃

乃亜が田舎に送られてからの二年間、菜々子はいつも優しく「乃亜ちゃん」と呼んでくれていた。家で飼っている鶏やアヒルが産んだ卵は、すべて彼女のために取っておかれていた。その時の菜々子は、田舎に住んでいるにもかかわらず、夏も冬もスカートを着ていて、優雅で美しく、気品があった。地元の農民のようには見えなかった。「乃亜ちゃん、こっちに来て、ちょっと顔を見せて」菜々子は長い間寝ていて、目を覚ましたばかりで体も弱り、精神的にもとても疲れていた。明らかに短い言葉だったが、乃亜はその言葉を受け止め、力を振り絞って答えた。乃亜は急いで彼女の元に駆け寄り、そっと胸をさすりながら、息を整えてあげた。目の前の菜々子は骨と皮だけになっていて、その顔がかろうじて美しさを保っているのがわかった。若い頃は、本当に美しい女性だった。「乃亜ちゃんは本当に美しいわ」菜々子は乃亜の顔を優しく撫で、痛みと申し訳なさでいっぱいの表情を浮かべた。これまで、命をつなぐために乃亜が金を使って支えてきた。菜々子は自分が乃亜にとって重荷だと感じ、何度も死んでしまいたいと思ったことがあった。「もう全部終わらせてしまいたい」と、そう思っていた。乃亜は慎重におばあさんを抱きかかえながら言った。「おばあちゃん、早く元気を取り戻してくださいね。私、あなたを連れて旅行に行きたいんです。前に一緒にオーロラを見に行こうって約束しましたよね？あの人は約束を破ったけど、私が連れて行きますから！」「オーロラは愛する人と一緒に見るもの。あの人は約束を破ったから、私はもう二度と行かないわ」菜々子は言葉をゆっくりと、ひとつひとつ間をあけて話した。「乃亜ちゃん、お願いだから、私を死なせて。こんな体で生きるのは、あなたに迷惑をかけるだけよ」彼女の体は本当に弱く、もう土に還るべき時が来たのだ。その時、胸に激しい痛みが走り、乃亜は涙をこらえきれず、菜々子の患者着を濡らした。「おばあちゃん、あなたは必ず元気を取り戻せます！死ぬことなんてありません！」乃亜は悲しみで震えながら断言した。菜々子は突然、乃亜に向かって尋ねた。「乃亜ちゃん、あなた、もしかして妊娠しているの？」乃亜は驚いて答えた。「おばあちゃん、それは誰から聞いたの？」菜々子が話しているのは、美咲だろう。彼女が乃亜の妊娠を知っていたのは確かだ。しかし、な

乃亜は彼の沈黙を見て、彼の心の中を読み取ることができなかった。最終的には覚悟を決めて、彼の手を引いて病床に向かって歩き始めた。凌央は二人の手が繋がっているのを見下ろし、思わず唇の端が少し上がった。自然に微笑んだようだった。ベッドの前に来ると、乃亜は腰をかがめて優しく菜々子に言った。「おばあちゃん、こちらは凌央です」その後、凌央の手を引いて一緒に立たせた。凌央も腰をかがめ、微笑んで菜々子に挨拶した。「おばあさん、こんにちは。今、ようやくお時間を取ってお見舞いに来れました。遅くなって申し訳ありません」菜々子は彼の顔を見て、乃亜を見た。「あなたたち二人ともとっても綺麗な顔をしているわね。もし子供が出来たら、きっと素敵な子が生まれるよ」菜々子はゆっくりと話しているのを見ても、乃亜の胸が痛んだ。さっき、菜々子には秘密にしてほしいと言われたのに、どうしてその話をしてしまったのだろう。「最初は乃亜が若すぎて、無理に子供を作らせるのは体に良くないと思っていたんです。それから2年待ち、今は子作りを始めています。来年には子供を授かりたいと思っています」凌央は完璧に答え、乃亜を見つめながら優しく微笑んだ。乃亜はそれを聞いて、心の中に甘いイメージが浮かび、思わず顔を赤らめた。男性の深い愛情、女性の恥じらい。誰が見ても、二人は幸せな夫婦に見えるだろう。菜々子はその光景を見て、以前、別の女性が見せてくれた動画を思い出した。それは、その女性と男性が一緒にいる場面で、乃亜は遠くからその二人を見ていた。あの時の光景はとても切なかった。彼女は乃亜のことをよく知っていた。もしこの男性を本当に愛していなければ、彼女がこんなにも自分を犠牲にすることはなかっただろう。もし彼を得ることができないのなら、その子供を産んで、彼を支えようと決心したのだろう。「それなら、もう急かさないわ」菜々子は乃亜の手を取った。「乃亜ちゃん、子供を作って、一緒に過ごすといいわよ。もしおばあちゃんがいなくなったら、あなたは一人。それだと寂しくなっちゃうからね」菜々子は涙を流しながら言った。乃亜はその言葉を聞いて、胸が痛むような思いがした。「おばあちゃん、あなたは死なないですよ！ずっと長生きします！」乃亜は涙が止まらず、声が震えながら叫んだ。菜々子は微笑みながら言った。「私が生きて

彼女は妊娠していることを、しばらく凌央には伝えないつもりだった。「美咲のことが片付いたら、もう会わないようにする。それでいいか？」凌央は、美咲と会うことに何の問題も感じていなかった。だが乃亜がこのような要求をしてきた以上、子供を作るということで承諾するのは当然のことだった。ただ、美咲の渡す美容院はまだ決まっておらず、彼女に買った家のリフォームも終わっていない。これらが片付いたら、美咲に対して何も負い目を感じることなく、会わないで済むだろう。乃亜は、凌央の言葉をただの言い訳だと思っていた。美咲が生きている限り、何か問題が起きるはずだ。凌央が美咲を放っておくことはあり得ない。それに、菜々子のことがある今、乃亜は凌央と対立するわけにはいかない。今、彼と別れることはできない。反論せず、乃亜はゆっくりと答えた。「じゃあ、美咲のことが片付いたら、子供のことを考えましょう」もし凌央が本当に美咲と完全に断絶するなら、妊娠していることを伝えることを考えてもいい。でも今は、それを隠しておくつもりだった。凌央は眉をひそめた。「乃亜、どうして美咲と平和に接することができないんだ？俺を仲介させないでくれ。そして困らせないでくれないか？」彼は、乃亜と美咲の間にこんなに深い対立があることが理解できなかった。なぜ、互いに死ぬか生きるかのように争わなければならないのか。乃亜は少し笑いたくなった。「その質問、美咲に聞いてみて。彼女が私を受け入れられないんだから」もちろん、乃亜は、この言葉が凌央には信じられないことを知っていた。「わかった、彼女に聞いてみる！」凌央は即答した。乃亜は、彼が自分をどうにかしようとしているだけだと思い、真剣に受け取らなかった。どうせ美咲に関わることになるなら、彼が公正であるなんて思えなかった。その時、病室の扉が開き、医者が立っていた。言葉を発そうとした瞬間、凌央が先に口を開いた。「少しすれば医療チームが来るから、そのときに病歴と検査結果を渡してくれ」医者は乃亜を一瞥した。彼女が普通の人間ではないと感じていたが、まさか桜華市で有名な蓮見社長と一緒にいるとは思いもしなかった。「先生、ありがとうございます」乃亜は医者が菜々子にこれまでお世話してくれたことに感謝の気持ちを込めて礼を言った。「病歴と検査結果を整理し

乃亜は少し迷った後、彼に尋ねた。「休暇を取るのは美咲の意見？それともあなたのお母さんの意見？」美咲が言ったことは、一言一句覚えている。「俺の意見だ！」凌央は乃亜の顔を軽くつまんで言った。「家で子供を作る準備をしてもらいたいんだ」乃亜の目が一瞬大きく見開かれた。「本気で子供を作りたいの？」どうしても、凌央が乃亜を試しているように感じてしまう。心の中で少し不安がよぎった。「前に言っただろ？子供を作ろうって」凌央はシンプルに、乃亜が子供を産むことで二人の関係が強くなると考えていた。彼は離婚したくないし、他の女性とも関係を持ちたくない。たとえ乃亜を愛していなくても、彼女と一緒に余生を過ごすつもりだった。「私が子供を作る前提に、あなたが美咲と完全に絶縁することがあるでしょう！でも、まだ関係は断ち切れていないわ。だから、今は子供を作る気にはならない！それに、私は明日から紗希のスタジオで働くことに決めたわ。妊活は急がない！」乃亜は冷静に、何の感情も込めずに言った。凌央がどうして乃亜に試練を与えているのか、乃亜はその意図を簡単に許すつもりはない。第一に、凌央と美咲の関係が曖昧で、このまま続けば、乃亜は耐えられなくなり、いずれ離婚する。第二に、凌央が言っている休暇の意味がわからない。もし長期間休んでいることになれば、必ず仕事を見つけなければならないだろう。もし妊活を受け入れることになれば、家にいることが強制される。それは乃亜にとって非常に苦痛だ。「美咲のことを片付けたら会わないって言っただろう？今、子供を作れって言って、俺と美咲の関係を断ち切らせるつもりか？乃亜、お前、少しやりすぎだろう！」凌央は顔をしかめ、怒りを隠しきれなかった。乃亜は微笑んで言った。「あなたにとって、子供は蓮見家の後継ぎ、産まれたら何もかも任せておけばいいって感じなんでしょう？」「家には女中がいるし、子供が生まれたら、育児専門の保育士や栄養士も雇う。お前が育てたければ育てればいいし、そうでなければ彼女たちに任せればいい。お前が働きたいなら、それを邪魔するつもりはない。何か不満でもあるのか？」凌央は冷静を装っていたが、乃亜の言い方に少し不満を感じていた。彼にとって、結婚した女性は必ず子供を産むべきだと思っていた。乃亜には最良の環境を与えているはずなのに、な