そのあと、彼はもう一通メッセージを送ってきた。【接待中だ。話してて】それきり、彼の姿はチャットに現れなかった。辰也も車に乗り込むと、これ以上関わる気はなさそうに【こっちも用事がある話してて】と返した。それからラインの画面を閉じた。【……】智昭と辰也が何も反応しないのを見て、優里も【先にご飯食べるね。また今度】と返した。【……】……午後、玲奈は開発部の会議に向かった。会議には、翔太も同席していた。玲奈が的確に問題点を指摘し、素早く解決策を示すのを、彼は黙って下から見上げていた。会議が終わったあと、玲奈が退出しようとしたとき、翔太の視線に気づいてふと足を止めた。そして事務的な口調で訊いた。「今日が初出勤だけど、慣れそう?」「慣れてる。気にかけてくれてありがとう」玲奈は軽く頷くと、それ以上言葉を交わさず、パソコンを抱えて会議室を出ていった。その後の数日間、玲奈は仕事をこなしつつ、AI関連の学術誌と著作権契約について話を進めていた。金曜日、開発部の業務報告を確認した玲奈は、浅井に翔太を自分のオフィスへ呼ぶよう伝えた。三分後、翔太がノックして部屋に入ってきた。彼が椅子に腰を下ろすと、玲奈は口を開いた。「あなたの書いたアルゴリズムは、確かに現行モデルの効率と性能をある程度向上させてる。でも、私の期待値にはまだ届いてない」そう言ってから、そのアルゴリズムの問題点について話し始めた。翔太は真剣に耳を傾けた。彼が長墨ソフトに入ってから、もう三、四日が経っていた。玲奈とも、すでに三、四回ほど顔を合わせていた。彼が長墨ソフトに入社してから見せている姿は、前日の面接時とは性格の印象がまるで違っていたはずだ。玲奈の目には、驚きも興味も、何ひとつ浮かんでいなかった。関心がないのか、それとも他の理由か。ちなみに、入社初日には彼女に黄バラの花束を贈って謝罪の気持ちを伝えた。なのに、それから何日経っても、玲奈はそのことに一度も触れたことがない。まるで、花なんて最初から受け取っていなかったかのように。彼がなぜ謝ったのか、それすら気にしていないようだった。玲奈の専門スキルがどれほどか、面接の時点である程度は把握していた。だが実際に長墨ソフトに入って彼女の仕事ぶりを目の当たりにしてみると
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