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第323話

Author: 雲間探
食事が終わってから茜が話し出して、玲奈は初めて智昭が出張に行っていることを知った。

夜の九時過ぎ、玲奈が風呂に入っていた時、ベッドの上に置いていたスマホが鳴り出した。

茜は辰也からの電話だと気づき、そのまま出た。「辰也おじさん」

辰也は茜の声を聞いて、一瞬間を置いてから言った。「茜ちゃん」

茜がまだ返事をする前に玲奈が風呂場から出てきて、それを見た茜が声をかけた。「ママ、辰也おじさんから電話だよ」

「うん」玲奈がスマホを受け取ると、まだ口を開いていないのに辰也が先に言った。「邪魔じゃなかったか?」

玲奈は「ううん」と答えた。

辰也が言った。「今は出張中なんだ。会って食事するのは、また改めて時間を取ろう」

玲奈は「気にしないで」と返した。

電話を切った玲奈が髪を乾かそうとしていると、茜がふと不思議そうな顔で彼女を見た。

玲奈はその視線に気づき、「どうかした?」と訊いた。

「ママって、前から辰也おじさんと知り合いだったの?」

玲奈は「うん」と答えた。

「そっか……」

翌朝、玲奈は朝食を作るために階下へ降りた。

三十分ほど経って彼女が二階に戻ると、茜が電話中だった。彼女の姿を見つけるなり駆け寄ってきてスマホを渡した。「ママ、パパからだよ」

玲奈はスマホを受け取り、訊いた。「何か用?」

「早くても水曜にならないと戻れない。俺が帰るまでの間、茜ちゃんは青木家から離れたがらないと思う。数日間、頼んだ」

玲奈はその声を聞きながら唇を引き結び、そっと電話を切った。

月曜、玲奈は茜を学校に送ったあと、そのまま会社へ向かった。

プロジェクトの進捗を急がなければならず、この一週間、彼女はずっと忙しく、連日深夜まで残業してから帰宅していた。

そのせいで、茜が青木家にいても、玲奈が彼女と少し話せるのは朝の時間だけだった。

木曜の午後、茜から玲奈に、智昭からの電話があり、パパが帰ってきたと告げた。

その日の放課後、茜はそのまま藤田家へ戻っていった。

土曜日、玲奈と辰也、それに有美の三人で遊園地で会う約束をしていた。

玲奈を見かけた辰也は「しばらくぶりだね」と声をかけた。

「そうだっけ?」

玲奈は特に気にしていなかった。

辰也は彼女を見つめながら、何か言いたそうにしたが、結局言葉にはしなかった。

昼食の時間が近づいた頃、彼は少し迷ってから
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Comments (1)
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岸本史子
とっくに見切りをつけてます。第2話ぐらいに離婚届渡してるのに、クズ旦那が見てないだけ
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