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第324話

Author: 雲間探
ここ数年、大森家のテクノロジー企業は中核技術とハイエンドな人材に乏しく、ずっと赤字を出しながらなんとか維持されてきた。

その問題を解決するため、今回の出張で智昭はかなりの時間を費やし、わざわざ海外から大森家の企業に技術者を何人かスカウトしてきた。

智昭の支援もあって、大森家の会社は近いうちに好転するだろうと言われていた。

もっとも、それは玲奈には関係のないことだ。もし彼女がまだ智昭のことを忘れられていないなら、そんな話を聞いたところで心が痛むだけだ。

だからこそ、辰也はそのことを玲奈に話さなかった。

辰也にはまだ用事があり、昼食を済ませた後、それぞれ別れた。

藤田総研の株式が優里に譲渡される件は、月曜にはすでに確定した。

玲奈と礼二がそのことを知ったのは、清水部長が情報を受け取ってすぐ、グループチャットに共有したからだった。

智昭が佳子に120億円以上の別荘を贈ったことも、バレンタインに自身の持ち株を一部優里に譲ったことも、玲奈は礼二には一切話していなかった。

礼二も智昭が優里に甘いのは知っていたが、どれほど惜しまず与えているかまでは把握していなかった。

だからこそ、その知らせを見た瞬間、彼は一瞬言葉を失った。

すぐに我に返ると、歯ぎしりしながら言った。「マジでどんだけ太っ腹なんだよ!」

玲奈はすでに事前に聞いていたので、特に動揺もせず「仕事、先に片付けよう」とだけ言った。

翌晩、彼らはある晩餐会に出席する予定だった。

玲奈と礼二が到着した頃には、会場にはすでに多くの人が集まっていた。

ほどなくして、辰也と清司も姿を見せた。

辰也が二人に挨拶に来たところで、会場の主催者に迎えられながら、智昭と優里がホールへ入ってきた。

これまでの晩餐会と同じように、今回も優里の服もアクセサリーも高価なものばかりだった。

藤田総研は業界内でもそれなりに名の知れた企業だった。

智昭が会社ごと優里に譲ったという噂は、瞬く間に業界中に広がった。

そのせいで、二人が会場に姿を見せた瞬間、ほとんどすべての視線が一斉に彼らへと向けられた。

「あれ、藤田智昭とあの彼女じゃん。藤田総研の話はもう聞いた?智昭のような完璧な男でも結局は美女に弱いのか、将来性ある会社をぽんと譲っちゃうなんて、ほんとスケールが違うわ」

「ほんとそれ。私が優里の立場だったら、彼氏が
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Comments (3)
goodnovel comment avatar
千恵
早く制裁してくれ イライラする
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岸本史子
結菜、諦めわるいっていうか何回無視されても話しかける強メンタル
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masakos31
ドレスと宝石で着飾っているけれど性格の悪さがにじみ出てない?学歴だけの自惚れ女に早く制裁がありますように。
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