「藤宮さん!」階段から数名の年配紳士たちが駆け降りてくる。その姿に、周囲の来賓たちが慌てて道を開けた。彼らの登場に、会場の視線が一斉に集中する。まるで競争でもするかのように、誰が一番先に夕月の元へ辿り着けるかと急ぐ様子が見て取れた。夏目那岐は面識があったが、他の紳士たちは花橋大学や桜都大学の講演ポスターで見かけた顔ぶれだった。「お迎えが遅れ、申し訳ありません」那岐は夕月に向かって手を差し出した。夕月は謙虚に両手で那岐の手を包み込むように握手を交わす。「夏目理事長、お目にかかれて光栄です」他の年配紳士たちは夕月を見るほどに満足げな表情を浮かべる。その中の一人が喜びを抑えきれない様子で声をかけた。「藤宮さん、上階でゆっくりとお話させていただけませんでしょうか」その言葉が響くや否や、会場からどよめきが起こった。二階——それは下階の来賓たちには立ち入りが許されない特別な空間だった。会場に集まった来賓たちは皆、階段の先にある紫金色の大扉を目にしていた。テクノロジーサミットの超大物たちだけが、あの扉の向こう側に足を踏み入れることを許されていた。会場にいる者たちは知っていた。二階に集うことを許される重鎮は二十名にも満たず、一般のビジネスマンや研究者には到底手の届かない存在だということを。そして今、ニュースでしか見たことのない学界の重鎮たちが、一階の宴会場に揃って姿を現していた。彼らは夕月を取り囲み、まるで渇きを癒すかのような眼差しを、夕月にのみ向けていた。「そんな!」楓が足を踏み鳴らさんばかりの勢いで声を張り上げる。「偽の招待状を使って紛れ込んだ人間が、どうして上階へ行けるというの!」サミットの主催者である永川理事長が即座に反論した。「偽の招待状だと?藤宮さんの招待状は私が直筆で書いたものです。偽物なんてあり得ません」楓は慌てて圭利さんの方を振り向く。「でも圭利さんの手元のリストに夕月姉さんの名前はなかったはず!」橘大奥様は顔色を変え、名だたる重鎮たちの一挙手一投足から目を離せない。主催者の永川理事長は桜都商工会議所の副会長でもあり、雲の上の存在とも言われ、橘大奥様ですら数十年の桜都暮らしで面識を得られなかった人物だった。彭川理事長は会場責任者には目もくれず、冷ややかに言い放った。「特別招待客
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