「協力したら、私に何の得があるの?」雅子は微笑みながらタブレットを差し出した。「こちらのプロジェクトに出資者として参加できるわ。あなたは技術を、私は資金を出し合って、収益は折半。賢明な方なら、このチャンスは逃さないはずよ」夕月はプロジェクトの詳細に目を通し、思わず息を呑んだ。偶然にも、彼女はこの分野で新しい研究を進めていた。だが、技術開発に成功しても、実用化に必要な体制が整っていないことが足枷となっていた。雅子の持つプロジェクトは、桜都市が主導し、橘グループが前線での技術実装を担当するという大規模なものだった。雅子はすでに莫大な資金を投じている。このプロジェクトを共有する提案には二つの可能性があった。ただの囮か、それとも技術面で行き詰まっているのか。雅子は夕月が橘凌一の下で学んでいたことを知っている。おそらく、凌一の研究チームへのアクセスを狙っているのだろう。もし参加すれば、夕月は橘グループのクライアントになる。「虎と皮を取引するようなものじゃないかしら」夕月は微笑んだ。雅子は溜息をつく。「大きな事を成し遂げたい人が慎重すぎては、チャンスを逃すわ。私がここまで来られたのは、敵とでも取引を厭わなかったから」「私が、敵なの?」夕月の唇が優しく弧を描く。その笑顔に触れ、雅子の妖艶な表情が柔らかくなる。「同じ女として、手を差し伸べたいの」夕月はタブレットを置いた。「父さんとお友達だと思っていましたが」雅子は華やかに笑う。「永遠の友なんていないわ。永遠なのは利益だけ。盛樹を地獄に突き落とすことで莫大な利益が得られるなら……躊躇なく蹴り落とすわ」雅子はドリンクを二つ手に取り、一つを夕月に差し出した。「乾杯しましょう」「いつか、私も地獄に突き落とされる日が来るのかしら?」夕月はグラスを受け取りながら問いかけた。雅子はグラスを唇元に寄せ、笑みを浮かべる。「夕月さん、私たちが協力関係にある限り、ウィンウィンの関係よ。敵になることはないわ」雅子は自らグラスを差し出し、夕月のグラスと軽く合わせた。「良い取引になりそうね」夕月は長い睫毛を下げた。楼座雅子は魅惑的で危険な女。でも虎と取引できる——密かな切り札があるからこそ。雅子は夕月の顔を品定めするように見つめた。「夕月さん、あなたには期待してるわ。近い
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