◆◆◆◆◆ 夜の闇が、ルミエール王国の街道を覆い始めていた。空には薄い雲がかかり、わずかに月明かりがにじんでいる。 静寂に包まれた道を、数十の馬蹄が激しく叩く音が響く。それは王太子アドリアンと、彼に従う兵士たちのものだった。 彼らは、逃亡したルイスと遥を追跡していた。 --- ◇◇◇ 「……くそっ!」 アドリアンは馬の手綱を引き絞り、焦燥の滲んだ声を漏らした。 目の前に広がるのは、二股に分かれた街道。片方は左へと伸び、山を越えて魔王領へと続く道。もう片方は右へと進み、さらに西へと続く。 どちらに進んだのか、痕跡ははっきりしない。 「……殿下」 副官の騎士が、静かに声をかけた。 「このままでは、どちらに向かったのか分かりません。手がかりを探すべきかと……」 アドリアンは口を引き結ぶと、道の脇にある 古びた貴族の屋敷 に目を向けた。そこはかつて栄えた小さな領地の屋敷らしいが、今では老朽化が進み、当主も年老いた貴族だと聞く。 「……屋敷の主に話を聞く」 アドリアンは短く言い、馬を走らせた。 --- ◇◇◇ 屋敷の門が重々しく開くと、そこには 老貴族の当主
Huling Na-update : 2025-03-25 Magbasa pa