◆◆◆◆◆魔力の名残すら残らない封印の間に、しんとした静寂が戻っていた。だがそれは、かつての重苦しい沈黙ではない。どこか安堵を含んだ、世界の再生を告げる静けさだった。光がすべてを洗い流したあと、ルイスは静かに自らの掌を見つめていた。そこに感じるべき力は、もうどこにもなかった。異能も、魔法も――すでに失われていた。「……本当に、消えたんだな。異能が……魔法が」低く呟いた声は、実感の滲むような戸惑いと、かすかな寂しさを含んでいた。呟いた声はかすかに掠れ、喉の奥で迷っていた。それでも彼は顔を上げ、まっすぐに遥たちを見た。「俺は……王として国を導けるのだろうか。異能も、加護もないただの人間として――」その言葉に、誰もすぐには答えられなかった。コナリーですら、厳しい現実を見据えるように静かに視線を落とす。遥はそっとコナリーに下ろしてもらうと、ためらいのない足取りでルイスのもとへ歩み寄った。そして、静かに彼の掌に触れる。「……たとえ力がなくなっても、ルイスは変わらないよ。優しさも、強さも」その言葉に、ルイスは目を伏せ、小さく息を吐いた。そう言った遥の声は、どこかすべてを包み込むような大きな優しさに満ちていた。ルイスは目を細め、微かに息を吐いた。その表情には、不安が滲んでいたが、それでも前を向こうとする確かな決意が宿っていた。そんな彼の背に、そっと手を添えたのはノエルだった。親しげな仕草で、まるで「大丈夫」と伝えるように。一方で、遥とコナリーの間にも変化があった。聖女としての力を失い、契約の魔法も、痛みの共有も、本当の意味ですべてが断たれていた。それは、ふたりを結んでいた“役割”の終わりを意味している。それでも――遥は振り返り、まっすぐにコナリーを見た。そして、ためらいなく彼の胸に飛び込む。「もう、契約で繋がってなくても、俺はコナリーのそばにいたい」その一言が、すべてだった。コナリーは、ほんの一瞬だけ目を見開き、そして静かにその身体を抱きとめた。かつてよりもずっと、自然に、あたたかく。「ありがとう、遥。……それだけで、十分です」ふたりは互いの体温を確かめるように、しばらくそのまま動かなかった。やがて――かつて“魔界”と呼ばれた土地から、異能の濁流はすべて消え去った。黒き瘴気は浄化され、むしろ豊かな大地と
Last Updated : 2025-07-14 Read more