◆◆◆◆◆ 「……やっぱり鍵がかかってる」 重厚な金属の扉の前で、遥が取っ手に手をかけて押してみた。微かな振動と共に、内部で何かががっちりと噛み合っている感触が伝わる。 「見て。この装飾に仕掛けがある」 ノエルが扉の中心にある幾何学模様を覗き込みながら、ぽつりと呟いた。 「……思い出した。昔、一度だけ祖父に連れられてこの前まで来たことがある。中には入れてもらえなかったけど、祖父がこの扉を開けるのを、横で見てたんだ」 懐かしむような声でそう言いながら、ノエルは小さく頷いた。 「扉の仕掛けを解除するのに、少し時間をもらえる?」 「危険はないのか?」 すかさずルイスが問いかける。ノエルは微笑んだ。 「大丈夫。祖父の動きを真似て何度も練習してたから」 そう言うと、ノエルは工具袋を取り出し、しゃがみ込む。小さな金属ピンを差し込みながら、複雑な噛み合わせの中で音を拾っていく。 「“記録できない歴史は、物に宿る”。祖父の口癖だった。ここには、そんなものが眠ってるんだと思う」 ノエルの言葉を背に、遥は手にした革表紙の手帳を開いた。古代語と現代語が交互に記された記録。時折、簡素な図やスケッチが挿まれている。 ――“封印の地より搬出された石材、地下収蔵室にて保管中”―― その記述に、遥の指先が止まる。 「……あった。
Last Updated : 2025-04-11 Read more