亜季にとったら、こんなにも櫻井課長の前でムキになったのは、初めてのことだ。 彼は咳払いをすると、少し言いにくそうに説明をしてくれた。「実は今年の夏頃から、そう言う話は来てたんだ。言っておくが、飛ばされるのではないぞ? 海外……アメリカの姉妹会社から部長としての就任命令だ」「えっ……?」 亜季は混乱する頭を必死に整理させた。 つまり課長は、アメリカの会社に呼ばれたということだろう? 部長として出世するために。「決断を早くしろと前から言われていたのだが、まだあの時は迷っていてな。部長になれるのは、大変名誉でありがたいことだ。しかしあの時は、まだ君とお見合いをしていなかったし。どうしても踏みとどまってしまって」 櫻井課長は恥ずかしそうにしながらも話してくれた。 本来なら喜んで、お祝いのコメントを言うところなのだろう。 でも亜季は、頭が真っ白になって言葉が出てこなかった。「智和さん……その話は、今後は受け入れるのですか?」 もし、そのつもりだったら櫻井課長は海外に行ってしまう。 離れ離れになってしまう。亜季の脳内は、そう考えてしまっていた。。「いや。本来なら社員である以上は、余程の理由がない限りは断われない。それでも何とか言って断わるつもりだ」「な、何故ですか? せっかく部長として出世ができるのに」「だが……海外に行ったら、君にも会えなくなる」 亜季は思わず、そう言ってしまったが、櫻井課長が迷っているとすぐに分かった。 自分も動揺をしていた。本当は櫻井課長に行ってほしくない。ずっと自分のそばに居てほしい。 しかしそれだと、せっかくの出世を潰してしまうことになる。それで本当にいいのだろうか? 自分のせいで。 考えれば考えるほど頭の中は混乱してしまう。「心配をかけてすまない。まぁ、断わるつもりだったから安心しろ。別に出世しなくても課長の仕事で十分に満足しているし」 そう言って、心配させないようにしてくれている。 いいのだろうか? 本当にそれで満足しているの?「と、智和さん。海外に行って下さい」「えっ? 亜季?」「せっかくのチャンスではないですか!? 部長になれるチャンスを自分から潰さないで下さい」 本当は分かっていた。満足してるわけではないと。だって、せっかくのチャンスだ。 出世したいと思うのは当然のことだろう。櫻井課長は
Last Updated : 2025-03-15 Read more