最後に、美月のすすり泣く声が、皆を現実に引き戻した。紗雪はうつむいたまま信じられないような声で尋ねた。「母さん、どうしたの?」「どっちも私の子よ、だから心が痛むの」美月は感慨深げに言った。「彼女のことは小さい頃から見てきた。それが、突然出て行くなんて......寂しいわ」母のそんな後悔と悲しみに満ちた姿を見て、紗雪も胸が苦しくなった。たしかに、自分は緒莉と喧嘩ばかり。でも、こんなことがあれば、どうせ父にも知られることになるだろう。そう思うと、紗雪はなんだか納得がいかなかった。小さい頃、うまく隠していたのに......まさか最後は転げ落ちることになるなんて。そう考えると、紗雪もようやく理由に辿り着いた気がした。美月は一度京弥を見てから、日向へと目を向け、少し気まずそうに言った。「迷惑かけてごめんなさい......もう帰っても大丈夫ですよ」日向が口を開いたが、彼が断る前に、京弥の返事がその場の空気を一変させた。「そんなこと言わないでください、お義母さん。むしろ、こうして傍にいられることが本望です」彼の巧みな話しぶりに、場にいた全員が思わず感心してしまった。紗雪でさえ、「この京弥、こんな一面もあったのか」と驚きを隠せなかった。「母さん。私たち、今日はここで一晩過ごすよ。それなら看病もしやすいし」だが美月は頑なに首を横に振った。「ここには介護スタッフもいるし、あなたたちが付き添う必要なんてないのよ。仕事に支障が出ないうちに早く帰りなさい」「でも......」紗雪が「でも」と言いかけたところで、美月にぴしゃりと遮られた。「いいから。私は大丈夫よ。それに、山口もいるじゃない」美月は、子どもたちに迷惑をかけることをどうしても避けたかった。それに、さっきの緒莉の一件も、彼女に少なからぬショックを与えていた。これからどうするか、美月も自分の道を見つめ直しているのだ。もう、なんでも勢いで決めてしまうようなことはできない。これからは、ちゃんと計画して進まなければならない。紗雪はそれでも帰ることを渋った。「じゃあ、もう少し一緒にいるよ。夜遅くなったら帰る。どうせ今は暇だし」そう言って、彼女は水を飲みに行きつつ、清那に「今夜の買い物は無理そうだから、また今度にしよう」と
続きを読む