紗雪の声には焦りがにじんでいた。今の彼女は、山口が連絡を返してきたのかどうか、どうしても知りたかった。なにしろ、さっき電話をかけたとき、スマホは緒莉の手にあった。今、彼女は彼の助けを必要としているのだ。彼は逃げるべきではなく、勇気を出してこの現実に立ち向かうべきだ。もし彼が本当に後ろに引っ込んでしまったら、彼女はきっと彼のことを軽蔑してしまうだろう。四人は一台のスマホを囲んで、山口が電話に出るかどうか、じっと様子をうかがっていた。山口はやはり彼らの期待を裏切らなかった。着信の相手を見た彼は、最初は一瞬躊躇したものの、すぐに悟った。電話の向こうにはきっと紗雪がいるのだと。それでも彼は電話に出た。何よりも、これは紗雪の母親のことなのだから、彼女には知る権利がある。山口が電話に出たのを見て、紗雪の目に喜びが宿った。やはりこの方法は正しかった。社員同士の間に、まだわずかばかりの信頼は残っているのだ。通話がつながると、紗雪は目で秘書に合図を送り、母親が今どこにいるのか尋ねるよう促した。秘書は咳払いをしてから、小声で話し始めた。「その、山口さん、今日はお話があって......」「ああ、わかってる」山口は秘書のたどたどしい声に、少し呆れた様子だった。こんなにも時間が経っているのに、この子はやはり秘密を隠し通すのが苦手らしい。彼が口を開いた瞬間に、もう何を言いたいのか分かっていた。「だから要点だけ話してくれ」紗雪の目がぱっと明るくなった。どうやら彼は察してくれているらしい。「紗雪さんは君のそばにいるんでしょ?」と、山口の声がスマホ越しに聞こえた。「私の予想が正しければ、今まさに彼女は君のそばで、この通話を聞いているはずだ」紗雪の目がさらに輝いた。やはり山口は彼女の期待を裏切らなかった。それを聞いた紗雪は、もう隠す必要はないと判断した。「やっぱり、賢い人と話すのは楽でいいわね」山口も笑って答えた。「金田さんが隣にいるのは分かってた。さっき緒莉さんが私のスマホで電話してきたとき、止められなかったからな」「いいのよ、全部わかってるから」紗雪は先程のことをまったく気にしていなかった。所詮みんな同じ雇われた身。山口の立場も、彼女にはよく理解できる。
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