実は、初芽が彼の代わりに決断したわけじゃない。決めたのは、彼自身だった。初芽が去った後、加津也もようやく自分の本心に気づいた。「ふん。家柄も後ろ盾もない女なんて、何をそんなに気にする必要があるというのだ」そう吐き捨てると、西山父は加津也を無視してそのまま書斎に戻っていった。西山母の顔にも、いつものような美しさと気品が戻り、まるで何事もなかったかのように軽やかな様子を見せていた。「ほら、もう行っちゃったんだから、いつまでそこに突っ立ってるつもり?」西山母は呆れたように目を回した。この子、一体誰に似たのかしら。少なくとも自分には似てない。何かあるとすぐに引いてしまう、その性格が情けない。たしかに自分は、会社を選んでほしいとは思っていたけど、さっきの彼の煮え切らない態度は、どちらも手に入れようとしているのが見え見えだった。そんな優柔不断な男、たとえ我が子でも好きになれない。むしろ、もし本気で一つに決めていたら、少しは見直していたかもしれない。加津也は母の言葉を聞いて、さらに胸が苦しくなった。初芽を追いかけたい衝動を必死に押さえ込みながら、西山母を見つめ、歯を食いしばって言った。「全部......全部お前らのせいだ」「無理やり決断を迫らなければ、俺と初芽が別れることなんてなかった!」「へえ、じゃあ追いかけてきたら?」西山母は腕を組み、じっと息子を見据えた。「会社を捨てる覚悟があるなら、お父さんには私から話してあげる」「その代わり、今後あなたが何をしようが、西山家とは一切関係ない」「外で西山家の若様なんて名前を使って偉そうにすることも、もう許さないわ」喜ぶ暇もなく、加津也の退路はその言葉ですべて断たれた。今の目標は、ただ一つ。西山家を継ぐこと。会社さえ手に入れれば、初芽のことなんて......そのときになれば誰も口出しできない。「わかったよ、母さん......」加津也は頭を下げ、屈服したような声でそう言った。けれど西山母は、その態度の裏にある思惑をしっかりと見抜いていた。自分の腹を痛めて産んだ子だ。何を考えているかなんて、母親にはすぐにわかる。「もういいから。仕事に戻りなさい。そこに立ってるだけで邪魔」そう言って、西山母は立ち上がり、息子の脇を通
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