緒莉は美月の肩に顔を伏せて首を振り、無言で「大丈夫」と示した。しかし心の中では――もちろん大丈夫に決まってる。紗雪が一生目を覚まさなくたって、別に困らない。むしろ、そのままずっと眠ったままでいてくれた方がありがたい。今の状況こそ、最も理想的な状態なんだから。わざわざ目覚めて、またみんなを不愉快にする必要なんてある?こうして、緒莉は正式に会長代理の職務を引き継ぐことになった。美月は少し急かすように言った。「それじゃあ、早めに会社へ行って業務に慣れておいで」美月としても、緒莉が会社の実務に関わるのは初めてのことが多く、うまくいくか不安は残っていた。ただ、緒莉の専攻が会社の業務と関係していたため、「試してみてもいいかも」と思えただけのことだった。もしも、彼女の学歴やスキルが会社に合っていなければ、美月は絶対にこんな大役を任せようとは思わなかっただろう。緒莉は真剣な表情で頷いた。「任せて。絶対にお母さんの期待を裏切らないから。私は会社の利益を、自分の命よりも大切にするつもりよ」美月は首を振って、柔らかい声で言った。「そこまでしなくてもいいの。精一杯やってくれればそれで十分。あなたの身体のほうが、ずっと大事なのよ。私にとって、会社よりもあなたたち姉妹の健康と未来のほうがよっぽど大切。会社はあくまで、あなたたちの人生のためにあるものだから」緒莉は微笑みながら、優しい声で言った。「ありがとう、お母さん。やっぱりお母さんが一番だね」しかし、その胸の中にはまったく美月への感謝などなかった。彼女は美月という人間を誰よりもよく知っていた。その言葉が表面だけの飾りに過ぎないことも、とうに見抜いていたのだ。会社のことなんて重要じゃない?そんなの、よく言うよ。あれだけ必死に会社を守ってきたくせに。たった数言で軽く流せるわけがないでしょ。「私、今から会社に行ってくるよ。お母さんは家でしっかり身体を休めてね」緒莉は従順そうに言い、いかにも「親思いの娘」といった様子を見せた。「ええ。ありがとうね、緒莉」緒莉は首を振って、控えめに言った。「いいのよ。私だってこの家族の一員だもの。そんな風に言われるとちょっと寂しいな」「行ってらっしゃい。分からないことがあったら、すぐに電話して」
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