All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 491 - Chapter 500

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第491話

辰琉はようやく状況を理解し、慌てて緒莉の手を掴み、離そうとしなかった。「緒莉、待ってくれよ。何を言ってるんだ。俺には君がいるのに、他の誰かに興味を持つわけないだろ?」彼は急いで弁解した。「ちょっと驚いただけなんだ。君があまりにも迷いなく行動したからさ」緒莉は顎を少し上げ、冷然とした目つきで言った。「私の邪魔をする人は、誰であろうと消えてもらうだけよ」「紗雪さえ目を覚まさなければ、私は自然に彼女のポジションを引き継げる。そうなれば、たとえお母さんがそれを受け入れたくなくても、止める術はないわ。私が唯一の後継者になるの」彼女は高慢な表情で辰琉を見下ろしながら続けた。「その時には、ただの会長どころか、二川グループそのものが私のものになるのよ」そして彼女は辰琉の顎を軽く持ち上げ、挑発的に微笑んだ。「ねえ、そんな女を嫁にもらったら、達成感があると思わない?」その一言に、辰琉もついに納得したようだった。確かに、緒莉が二川グループ全体を嫁入り道具にしてくれれば、彼にとっても悪い話ではない。紗雪や美月の顔色をうかがう必要もなく、二川グループと提携するだけで十分だ。彼の目に喜色が浮かび、緒莉の決断が非常に正しかったと改めて確信した。「やっぱり君はすごいよ、緒莉!」そう言って、辰琉は唇を寄せたが、緒莉はその唇を手で押さえ止めた。「ちょっと待って、話はまだ終わってないわ。今日来たのは、そのためでもあるのよ」「言ってくれ。俺にできることなら、何でもやるよ」「大丈夫よ、あなたならきっとできる」緒莉は彼の胸元にもたれかかりながら、言葉を続けた。「安東家は鳴り城で医療関係のコネがあるって聞いてる。そのコネを使って、紗雪を今の病院にずっと留めて欲しい。絶対に転院させないように」「そうすれば、彼女に薬を打ち続けられる。彼女はずっと目覚めることはない」その言葉を受け、辰琉もすぐに続けた。「そして彼女が目を覚ました時には、もう君が二川グループを継いでいる。つまり、手遅れってわけだな」緒莉は満足そうに微笑み、辰琉の口元に軽くキスをした。「やっぱり辰琉は賢い人ね。私の考えとまったく同じ」「任せてください。必ずやり遂げるよ。そっちが問題さえ起こさなければな」「彼の弱みを握っているから安心して」「
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第492話

二人がいちゃついているその頃、京弥はもう気が狂いそうになっていた。一晩中探しても、まったく見つからなかった。考えうる限りの場所を探し尽くしても、影も形もない。匠の方もまったく手がかりがなく、今では京弥の電話に出る勇気もなければ、メッセージを送ることすらできなかった。自分の上司の性格がどんなものか、匠も多少はわかっている。だが、このまま何もせずに逃げ続けるわけにもいかない。電話に出ずに逃げ続けても、いつかは顔を合わせなければならないのだ。現実からは永遠に逃れられない。最終的に匠は、思い切って京弥に電話をかけることにした。「申し訳ありません......」その声を聞いた京弥の表情には、もはや何の感情も浮かんでいなかった。この一晩、彼はまったく眠れなかった。紗雪が行きそうな場所は、すべて探し回った。それでも見つからなかった今、匠の謝罪の言葉にも、彼はもう感覚が麻痺していた。「立ち止まるな。引き続き探せ」京弥は冷たい声で言い放つ。「社内の人間で、紗雪に関係のあるやつは一人残らず洗い出せ!」そう言い終わると、彼は電話を切った。そして、機械的に再び紗雪に電話をかける。返ってきたのは、相変わらずのあの機械的なアナウンス。「おかけになった電話は、電源が入っていないか、サービスエリア外にあるため、かかりません」その冷たく無機質な音声を聞きながら、京弥の顔には何の表情も浮かばなかった。今、自分が倒れるわけにはいかない。少なくとも、紗雪を見つけ出すまでは絶対に。さっちゃんも、彼を待っているはずだ。あの唐突に終わった二言は、一体どういう意味だったのか。紗雪が今、どうなっているのか、彼は心配でならなかった。一方、部屋の中では、京弥の怒声を聞いた伊澄が、喜びを隠しきれないでいた。よし、もう一晩経ったのに、紗雪はまだ行方不明。このままいけば、わざわざ手を下さなくても、自ら京弥の世界から姿を消してくれる。そうなれば、彼の家に住み続けても誰にも文句は言われないし、好きなだけ居座れる。そう思うと、伊澄の顔に浮かぶ笑みは抑えきれなかった。紗雪、一生帰ってこない方がいい。紗雪さえいなければ、自分は少しずつ代わりになれる。京弥兄を手に入れるのも、時間の問題。いや、できるこ
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第493話

吉岡が視界に入った瞬間、匠は急に元気を取り戻した。まさに「努力は報われる」という言葉どおり、とうとう吉岡を見つけたのだ。ちょうど資料を持って紗雪を見舞いに行こうとしていた秘書は、突然現れた人物に驚いて思わず胸を押さえた。「うわっ!何なんですか?一体どこから......?」吉岡はびっくりして固まってしまった。何しろ、その前まで人影なんてまったくなかったのに、突然匠が目の前に現れたのだから。しかもまるで湧いて出たかのように、つやつやと現れたのだ。そんな彼の様子に、匠もさすがに気まずそうに笑いながら言った。「すみません、ちょっと焦りすぎたようで......」「ここで君を待っていました」「僕を?」秘書は信じられないという顔で、自分を指さした。匠はうなずいた。「はい、君を探していました」秘書はどうにも信じられない様子だったが、今は紗雪に会いに行くのが最優先だったので、余計なことに関わって時間を取られるのは避けたいと思っていた。彼の頭の中は、とにかく一刻も早く決着をつけて紗雪のもとへ向かうことだけ。それに、紗雪は昨夜から今朝まで一通も連絡をよこしてこなかった。そのこともあって、秘書は少し心配していた。そんな彼の焦った様子を見て、匠は別の理由で急いでいるのだと勘違いし、急いで言った。「聞きたいだけです......君たちの会長って、今どこにいるか知ってますか?」焦っていた秘書だったが、その一言を聞いた途端、足を止め、信じられないものを見るような目で匠を見つめた。「マジで言ってますか?」逆に問い返されて、匠も少し困惑した。「もちろん。二川さんの居場所を調べるために、昨日の夜からほとんど寝ていませんでしたよ。ほら、このクマ」その様子に、秘書は思わず鼻先を指でこすった。そしてつい笑いそうになった。自分のほうが十分大変だと思っていたけど、ここにもっと悲惨な人間がいたとは。「ですので、もし君が会長の居場所を知ってるなら、教えてくれると助かります。うちの社長、もう発狂寸前なんですよ」匠ははっきりと感じていた。これ以上紗雪を見つけられなかったら、自分は椎名グループにいられなくなるだろうと。「なるほど。わかりました」秘書は、相手が会長の夫なら問題ないと判断し、素直に真実を話した。
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第494話

「位置情報を送ってくれ、すぐに向かう」京弥がそう言うと、匠はすぐに住所と病室番号を添えて送信した。その知らせを受け取った京弥の胸から、大きな重石がようやく降りた。だが同時に、紗雪が一人であの痛みに耐えていたと想像すると、胸が締めつけられるようだった。そういえば、あの時の電話。あれは、胃の痛みに耐えながら彼女がかけてきたものだったのか?その瞬間、京弥の頭の中が一気に冴え渡った。そして、伊澄に対する怒りは頂点に達した。もしあの時、伊澄が邪魔をしなければ、自分は電話に出られた。そうすれば、これほどの事態にはならなかった。物陰からその様子を伺っていた伊澄は、思わず拳を握り締めた。なんて女だ、なんでこんなにも運がいいの?こんなに時間が経っても、どうして無事でいられるの?彼女の心の中では、紗雪が外で死んでくれればどんなにいいか、二度と戻ってこなければいいのに、という黒い願望が渦巻いていた。少し考えた末に、伊澄は部屋から出てきた。京弥は彼女を無視して車を出そうとした。しかし、伊澄は突然車の前に立ち塞がり、両腕を広げた。思わずブレーキを踏み、京弥は車を止めた。「死にたいのか?」彼は苛立ちを隠さず、冷たく言い放った。死にたいなら、自分の車の前じゃなくて、他の車を止めろよ。伊澄は唇をきつく噛み、潤んだ瞳で京弥を見つめた。「京弥兄、電話の内容、聞こえちゃったの......」「だから?」京弥の声には、少しの優しさも残っていなかった。彼の頭の中には、紗雪のことしかなかった。一晩そばにいられなかった上に、彼女は今、胃腸炎で苦しんでいる。今どうしているのか、そればかりが気がかりだった。伊澄は真面目な顔をして言った。「私だってお義姉さんのこと心配してるの。もし原因が私にあるなら、なおさら行くべきだと思う」「私にも責任があるんだから」「自分に責任があるって、わかってるんだな」京弥は冷ややかに横目で彼女を見た。伊澄はその視線を無視して、目を伏せたまま言った。「京弥兄、私のことを嫌ってるのはわかってる。でも今は、お義姉さんを見つけるのが最優先でしょう?」「私たちの事情は、後回しでいいじゃない」彼女ははにかむように笑ってみせた。まるで、恋に夢中な少女のような無
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第495話

彼女が京弥と一緒にここまで来たのは、実はこれが一番の目的だった。伊澄も確かめたかったのだ。紗雪が一晩中家に帰ってこなかった理由を。一体何をしていたのか、何のつもりなのか。ここまで来ても、まだ姿すら見えないのは、どういうことなのか。その道中、京弥はずっと考えていた。伊澄を連れてくるという判断は、本当に正しかったのだろうか。もし紗雪が彼女を見たら、気分を害するのではないか?しばらく迷った末、京弥はついに車を路肩に停めた。「降りろ」伊澄は困惑して問い返す。「え?もう半分くらい来ちゃってるのに、こんなところで私を置いて行くの?」「自分でタクシー拾って帰れ」その言葉に、伊澄は完全に呆然としてしまった。まさか、こんなに急に態度が変わるなんて。「でも、ここ途中だよ?私にどこへ行くって言うの?」伊澄は不満と戸惑いを隠せない様子だった。たった一言で態度を変えるなんて、人ってこんなに冷たいの?「私はただお義姉さんの様子を見に行くだけだよ。別に邪魔する気なんてないし、余計なことも絶対言わないから」その言葉に、もともと迷いがあった京弥の心がまた少し揺れた。彼女の言っていることにも一理ある気がした。ここは確かにタクシーを拾いにくい場所だし、途中で放り出すのも気が引ける。何より、彼女は伊吹の妹でもある。そんな立場の人間を、道端に置き去りにするのは筋が通らない。京弥は頭の中で一瞬先の展開をざっと考えた末、折れることにした。「......わかった、一緒に行こう」「ただし、もし紗雪が少しでも嫌な顔をしたら、すぐに出て行け」「うん、わかってるよ」伊澄は拳を握りしめながら、にっこりと微笑んで答えた。構わない。今はあの女の様子をこの目で見られるなら、それだけで十分。少しぐらい我慢することなんて、どうってことない。大事を成す者は、小事にこだわらない、伊澄は大きく息を吸い込み、必死で感情を押し殺した。彼女は京弥の性格をよく分かっている。万が一、逆鱗に触れてしまったら、本当に途中で降ろされることになっても不思議じゃない。今、こうして表面上穏やかに接してもらえているのも、すべては兄の顔を立ててのことだ。京弥の本来の性格からすれば、彼女なんてとっくに追い出されていてもお
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第496話

彼女は前方で何が起こっているのか、まったく状況を把握していなかった。室内にいた人たちは、外の騒ぎを聞きつけて視線を向けてきた。日向は手に荷物を持ったまま、京弥が女性を連れて現れたのを見て、表情が一気に険しくなった。「どういうつもりだ」日向はすぐに京弥に詰め寄り、その襟を掴んで問い詰めた。「これが『面倒を見る』か?どういう責任の取り方してんだよ!彼女を一人きりにしておいて!」日向の激しい追及に、京弥は何も言い返せず、ただ気まずそうな表情を浮かべた。自分でも分かっている。紗雪の件に関しては、自分は確かに至らなかった部分がある。京弥は黙ったまま日向を避けて病室の中を覗こうとしたが、日向がその前に立ちはだかり、冷ややかな声で言った。「お前みたいな男に、彼女を会いに行く資格がない」「ろくに面倒も見られなかったくせに、よくもまあそんな顔で来られるな」その言葉に、京弥もついに怒りを抑えきれず、日向の手を振りほどいた。「そこに寝てるのは俺の妻だ。お前は何の立場でそんなことを言ってる?」「立場なんてどうでもいい。少なくとも、俺はお前よりは彼女のことを大切にしてる」二人は病室の入口で一触即発の状態になり、お互い譲らず激しい口論を始めた。そんな中、間に挟まれた伊澄はあきれたような、それでいてどこか羨ましげな表情を浮かべていた。どうして自分には、こうやって男たちが奪い合ってくれるような経験がないの?こんな展開、自分にも一度でいいから起きてほしいのに。彼女はぎゅっと拳を握りしめ、顔には明らかに嫉妬の色が浮かんでいた。とうとう我慢しきれず、声をかけた。「あの、お二人とも、少し落ち着いて......」その言葉に、京弥と日向は同時に伊澄を振り返り、口を揃えて言った。「黙れ!」伊澄は呆然とその場に立ち尽くし、左右を見回した。この二人、さっきまで散々言い争っていたのに、なんで今だけは息ぴったりなの?「お前には資格がない」だの、「俺の妻だ」だの、あんなに言い合ってたくせに、なんでこんな時だけ一致団結するのよ......京弥は目を細め、不快そうな視線で日向を睨みつけた。「『黙れ』など、よく言えだものだな」それを聞いた伊澄は、内心少し喜んだ。京弥兄、今のは自分の味方ってこと......?
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第497話

看護師や医者たちは、最初は止めに入ろうとした。だが、目の前で殴り合っている二人の顔を見た途端、その足が止まった。この二人、どちらも病院内では有名な人物じゃないか......?その頃、室内では秘書の吉岡が外の騒ぎにイライラし始めていた。会長はまだ目を覚ましていないというのに、今度は廊下が騒がしいなんて、いったいこの病院はどうなってるんだ!彼は勢いよく扉を開け、外の様子を見た瞬間、文句を言おうとしていた言葉が喉の奥に詰まった。......何だこれは?京弥と日向が殴り合ってる?二人は一体いつ知り合ったんだ......?吉岡は額を押さえて、呆れたように言った。「あなたたち、いったい何をやってるんですか?」「ここは病院ですよ!こんなところで殴り合いなんて、どういう神経してるんですか!」京弥は、吉岡が病室の前に現れたのを見て、すでに手を止める準備をしていた。そして吉岡の言葉を聞いた日向も、ようやく拳を引っ込めた。確かに......ここは病院だ。いくら頭に血が上っていたとはいえ、さすがに自重すべきだ。それに、吉岡は紗雪の側近だ。これ以上事を荒立てたくない。顔を立てる意味でも、ここは引くべきだと判断した。「紗雪は?」京弥は大きな歩幅で吉岡の前に立ち、切迫した表情で尋ねた。道中ずっと、紗雪のことが頭から離れなかった。こんなにも心配しているのに、ここに来てもまだ彼女の様子がわからない。誰もが自分を止め、会わせようとしない。そんな状況に、京弥の拳は無意識にまた固く握られていた。彼は視線を日向と伊澄に向けたが、ギリギリのところで感情を飲み込んだ。今は紗雪が最優先だ。その他は、全て二の次だ。だが、吉岡はどう伝えるべきか迷っていた。沈黙の中、代わりに日向が口を開いた。「やっぱりお前はダメな男だよ。自分の女が目を覚ましたかどうかも知らないで、何のためにここに来たんだ」「黙れ。お前と話してない」京弥の声は、場の空気を一瞬で制圧するほど冷たく鋭かった。その威圧感に、その場の全員が思わず身をすくませた。吉岡も心の中で驚いていた。この男、本当に紗雪様の「夫」ってだけの存在か?この威厳と雰囲気......美月会長ですらここまでの迫力はなかった。日向も、一瞬言葉を失
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第498話

彼がここへ来たときも、とても驚いた。元気だったはずの人間が、どうして急に胃腸炎なんかにかかってしまったのか。後になって医者に訊いたところ、大事には至らないという話だった。ちゃんと食事を取っていれば、自然と快方に向かうとのこと。医者もその時、特に深刻な状態ではないと言っていた。京弥は吉岡に向かって「中を見てくる」と告げた。吉岡も、彼らが夫婦である以上、中に入って様子を見るのは当然だと考えた。「分かりました」彼は朝から紗雪に食事を届けに来ていた。最初は、彼女が食事を口にするだろうと思っていたのだが、結局一口も食べないまま。最初は「寝坊してるのか」と思った。だが、時間が経っても一向に目を覚まさず、ようやく異常に気づいたのだ。京弥が病室に入ったとき、紗雪は今もなお静かに眠っていた。目を閉じたまま、安らかな寝顔。だが、普通の眠りとは違っていた。唇は異様なほどに白く、病的な雰囲気が全身からにじみ出ていた。明らかにいつもの彼女とは違う。彼女の姿を目にして、京弥の胸は締めつけられるように痛んだ。すべては自分のせいだ。もっと早く、紗雪の異変に気づいていれば......京弥は椅子を引き寄せて静かに腰を下ろし、彼女の手を取り、自分の頬に当てた。その目には、深い後悔と罪悪感が滲んでいた。その光景は、伊澄と日向、二人の目を強く刺した。伊澄にとって、こんなに脆い京弥を見るのは初めてだった。彼女の中で京弥は、常に強く完璧な存在だった。けれど、今目の前にいる彼は、まるで別人のように弱々しい。普段は誰よりも高慢で、他人を寄せつけないような男が、紗雪の前ではどうしてこんなに卑屈になるのか。その姿に、伊澄は耐えがたい嫌悪を覚えた。彼女の兄でさえ、京弥と話すときはいつも気を使っていたというのに。どうしてこの女だけが、彼のこの顔を引き出せる?この紗雪、何様のつもり?今こうして倒れてるのも、自業自得じゃない?日頃の行いが悪かったから、天罰が下ったのよ!伊澄は心の中でほくそ笑んでいた。このまま一生、目を覚まさなければいいのに。昏睡状態にある紗雪は、まさか自分がただの胃腸炎で、ここまで多くの人に恨まれているとは想像もしていなかった。しかもその中には、実の姉まで含まれていた
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第499話

「それで、その後は?」京弥は誰にも吉岡の話を遮ってほしくなかった。今、ようやく核心に近づいているのだから。彼はただ、事実を知りたかっただけだ。吉岡は不満げに日向を一瞥すると、再び口を開いた。「そのあとは、まあ、想像通りですよ。実はこの数日間、会長は明らかに疲れ果てていました。生活リズムも完全に乱れていて......その夜、私がオフィスに行ったときには、椅子に座ったまま、もう体を動かすことすらできない状態でした」その言葉を聞いて、京弥の胸は締め付けられるように痛んだ。出かける前までは、何もかも順調だったはずなのに。どうして、こんなにも彼女を追い詰めてしまったのか。どうして、自分はそれに気づいてやれなかったのか。そのとき、ふと京弥の脳裏に、あの夜のことが浮かんだ。伊澄が自分のスマホを持ち出した夜。紗雪からかかってきていた、あの二本の電話。まさか、あの電話は......助けを求めるためのものだったのか?京弥は深く息を吸い込み、目線をゆっくりと伊澄に向けた。その視線は、冷たい怒りに満ちていた。伊澄もその瞬間、すべてを悟った。あの夜、自分がスマホを持ち出したせいで、紗雪の電話が京弥に届かなかった。そうだ、全て自分のせいだったのだ。喜びと恐怖が交錯する中、彼女の表情はひきつっていた。笑いたいのに、笑えない。「京弥兄、わたしは......」「出て行け!」京弥は外を指さし、凍りつくような声で言い放った。その厳しい怒気に、日向も吉岡も思わず息を呑んだ。誰もが予想していなかった、怒りの爆発だった。伊澄の目から、涙が一気にあふれた。「京弥兄、お兄ちゃんのことを忘れたの......?」「私のことが好きでしょう?なんで他の女のために、自分の気持ちを偽るの......?」その必死な訴えに、誰の目にも明らかだった。京弥には、彼女に対する感情など、一片もない。京弥本人すら、うんざりしたような顔をしていた。「......お前、寝ぼけてるのか?」その唐突な一言は、伊澄の胸を突き刺した。恥ずかしさと傷心、そして怒りが入り混じった複雑な感情に、彼女は立ち尽くした。こんなにも真剣に人を好きになったのに。なぜ、こんなにも報われない?人目がある中、こうまで否定されれ
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第500話

京弥は細めた目で、無表情のまま日向の立っている方向を見やった。その視線を受け、日向もすぐに意図を察した。まるで違う世界のやり取りのようで、彼女には全くついていけなかった。三人が紗雪が目を覚まさない原因について話し合っている中。ただ一人、京弥だけが椅子に座ったまま、ぼんやりと眠る紗雪を見つめ続けていた。そうだ。あの二本の電話は、助けを求める電話だった。なのに、自分は......聞かなかった。京弥は大きく息を吸い込むと、突然立ち上がり、伊澄の腕を乱暴に引っ張って病室から連れ出した。「きゃっ!京弥兄、何してるの!?ちょっと、放してよ!お義姉さんが中にいるんだよ?人の目もあるし、こんなところで......恥ずかしいよ......!」その言葉に、日向は思わず大きく目を回し、「......まったく、下品な」と呟いて目を逸らした。吉岡も思わず気まずい表情を浮かべた。まさか、紗雪の夫がこんな男だったとは。妻が病院で意識も戻らずに寝ているというのに、他の女を連れてくるなんて。それも、病室にまで。二人は思わず視線を交わした。その瞬間、日向の方がずっとまともに見えてきた。少なくとも紗雪には、そちらの方がふさわしいとすら思えるほどに。京弥は、伊澄の発言に含まれる妙な含みを感じ取り、怒りがさらに燃え上がった。「おい、こっちに来い!」その剣幕に押され、伊澄は慌てて顔の笑みを消し、真面目な顔で尋ねた。「......どうしたの?京弥兄。なんで外に?」「出て行け!今すぐにだ」京弥の額には怒りで血管が浮かび、普段の冷静沈着な彼とはまるで別人のようだった。それでも伊澄は怯えた声で抗議した。「なんで追い出すの?お義姉さん、まだ目を覚ましてない、私だって心配してるんだよ?絶対に帰らないから!」そう言い張って長椅子に座り込む伊澄。彼女は、そうすることで京弥の機嫌を取れると思っていた。だが、それはまったくの逆効果だった。「今すぐ、ここから消えろ」京弥は指を病院の出口に向け、さらに冷たく言い放った。「それと、さっさと家からも出て行け。でなければ、お前の兄貴に引き取らせる」それだけ言うと、京弥は背を向けて病室に戻っていった。今の紗雪には、自分が必要だ。だからこそ、彼女の傍を離れ
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