そう言い終えて、紗雪は立ち上がり、美月の方をまともに見ることもせずに口を開いた。「それ以外のことは、本当に何も知らない。聞かれても困る。本当に知りたいなら、自分で調査した方が早いじゃない?」そう告げると、紗雪はそのまま部屋を出ようとした。美月は彼女の背中を見つめながら、ようやく気づきはじめる。さっきの自分のやり方は、本当に紗雪の気持ちを考えていなかったのではないか、と。けれど......これも仕方のないことだった。もうどうしようもなかったのだ。どちらも我が子。どちらを切り捨てればいいのか、自分にもわからない。問いただせば紗雪を傷つけると分かっていても、緒莉が命を落とすよりはまだましだと思ってしまう。それに安東家のことも、見過ごすつもりはない。美月はそっと目を閉じ、美しいまつ毛の陰から一筋の涙が頬を伝って落ちた。その瞬間を、紗雪は見ていない。彼女が美月の執務室を出ると、外でうろうろしていた吉岡の姿が目に入った。紗雪が声をかける。「まだいたの?」吉岡は紗雪が出てくるのを見るなり、少し興味ありげに駆け寄ってきて、部屋の中を示すように目配せした。「どうでしたか?」紗雪の表情が一瞬固まり、先ほどまでの余裕は消えていた。吉岡は場数を踏んだ人間だ。どうやら話し合いが円満に終わらなかったことはすぐ察したらしい。そうでもなければ、その話題を出した途端にこんな顔になるはずがない。職場で長く生きてきた分、人の表情を読む力には自信がある。「まあまあかな。さっきはありがとう」紗雪は微笑んでみせた。だが、誰が見てもその笑みは目元まで届いていない。「それよりですが」吉岡は気まずさを察して話題を切り替える。「西山家の件はどう動くおつもりです?」紗雪は小さく咳払いをし、意識を仕事に戻した。「西山の資料をまとめて。それから西山加津也の最近の動きも調べて」吉岡は迷うそぶりも見せず、頷いた。「わかりました。すぐ取りかかります」紗雪は軽く顎を引いて労いの意を示した。再び自室に戻る頃には、頭の中で美月の言葉が何度も反芻されていた。――やっぱり、原因は自分なのか?緒莉がああいう態度をとってきた以上、こちらが寛大に接するなんて不可能だ。そもそも話し合いでどうにかなる問
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