All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 211 - Chapter 220

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8-13 秘密の告白 1

「あ、あの…私では判断することが出来ません。申し訳ございませんが安西先生から明日香さんに話を聞いていただけますか? お願いします」朱莉は契約結婚の秘密を話していいのかとても自分では判断を下すことが出来なかった。(だって翔先輩からこの契約婚はビジネスだと言われたから……!)朱莉はその時のことを思い出し、悲しい気持ちになってしまった。下を向いて俯いてしまった朱莉を見て安西は声をかけた。「何か深い事情がありそうですね……。いいでしょう、私から明日香君に連絡を入れてみますよ」そして安西はすぐに明日香にメッセージを打ち込んで送信し終えると朱莉を見た。「すぐに返事が来るかどうか分かりませんのでこちらで調べて今現在分かっていることを報告させていただきますね」「はい、よろしくお願いします」「今のところ、鳴海翔さんと秘書の女性、姫宮静香と言う女性とは特に親しく交際しているような雰囲気は無さそうだと調査員として動いているうちの若いスタッフがそう報告してきていますね」「そうですか」朱莉は胸を撫で下ろした。「ですが……少し気になる情報を入手いたしました」「気になる情報……ですか?」安西の言葉に朱莉の胸がドキリとした。(そう言えば翔先輩は新しい女性秘書の存在を九条さんには内緒にしていたと言ってたっけ……。そのことと何か関係があるのかな……?)その時。「おや? 明日香君からメッセージが届きましたよ。どうやら電話で私と話したいらしいですね。朱莉さん。すみませんが明日香君と話をしている間、少し席を外していただいてもよろしいですか? 個人情報に係わる話が出てくるかもしれませんので」「はい、分かりました。では一度外に出ていますね。丁度向かい側に本屋さんがあったのでそこにいます」朱莉は一度事務所を後にした。**** 本屋さんで雑誌を手に取ってパラパラとめくってみるも、明日香と安西の話の内容が気になって、少しも内容など頭に入ってこなかった。何度目かのため息をついたとき、突然背後から声をかけられた。「朱莉さん。お待たせしました。話が終わったので事務所に戻りましょう」「はい」事務所に着くと、安西がコーヒーを淹れてくれた。事務所にはコーヒーの良い香りが漂っている。「いい香りですね……」朱莉はコーヒーの香りを吸い込む。「ハハハ……実は私は少しコーヒーにうるさ
last updateLast Updated : 2025-04-18
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8-14 秘密の告白 2

「あ、あの明日香さんからは……何所まで話を聞かされたのですか?」朱莉はギュッと両手を握りしめると尋ねた。「どこまで……と言いますと?」安西が静かに尋ねた。「私と翔さん。そして明日香さんとの関係です……」朱莉は声を震わせて答えた。「ええ、聞きました。朱莉さんは契約妻なんですね。本当の夫婦のような関係にあるのは明日香君と鳴海翔さんだと言うことも。朱莉さんは大変な役目を引き受けたのだと思いましたよ」「あ、あの! 私は……」朱莉が言いかけたところを安西が言葉を重ねてきた。「安心して下さい」「え?」「我々調査員は絶対に依頼主の情報を何処かに漏らすような真似は絶対にしません。ましてや明日香君は私の教え子でもある。そこは安心して下さい」安西の目は優し気に朱莉を見つめていた。「電話で明日香君が貴女に悪いことをしたと泣きながら言っていましたよ」「明日香さんが……」「沖縄に戻ったら話がしたいと言ってました」「そうですか……」(明日香さん……)朱莉は明日香との距離が少し縮まるのを感じた。「さて、朱莉さんと翔さんが仮の夫婦だとなると、ますますそのメッセージが怪しいことになりますね。恐らくメッセージを送った相手は明日香君と翔さんの関係を知っている人物と言うことになります。何せあのメッセージを朱莉さんでは無く、他でも無い明日香君に送ってきたのですから」「そうですね。普通に考えれば私にメッセージを送ってくるはずでしょうから」「ええ。それで一つ気になる点があります」「気になる点ですか……?」「ええ。実はこちらの秘書の女性についてです」「秘書……姫宮さんのことですか?」「ええそうです。実はこの女性、調べたところ鳴海グループの現会長の秘書を以前していたようですね」「え!? ほ、本当ですか!?」朱莉はその言葉に衝撃を受けた。「ええ。こちらでこの女性のことを調べていたらある記事を見つけたんです。3年ほど前の記事になるのですが」言いながら安西はPCを操作すると、朱莉に画面を見せた。「ほら、この映像を見て下さい。会長の写真ですが、その背後に立っている女性です」「え……?」すると会長の背後に立っていた女性は姫宮静香だった――****何所をどう帰って来たのか、気付けば朱莉は今賃貸中のウィークリーマンションに帰りついていた。安西が見せてくれた画
last updateLast Updated : 2025-04-18
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8-15 朱莉の大胆な行動 1

 朱莉は鳴海グループ総合商社にやって来た。手には大きな花束を抱えている。ここに来るのは朱莉が面接試験を受けに来て以来。正に1年ぶりだった。目の前にそびえたつ巨大な高層ビルを見上げながら朱莉はポツリと呟いた。「相変わらず、凄い会社……。でも世界中にある会社だもの。大きくて当り前ね」(こんなに大きな会社じゃなくても、いつか私も何処かの会社で正社員として働いてお母さんと暮せたらいいな……)朱莉は意を決すると、ビルの中へ入り……すぐに行き詰ってしまった。(どうしよう、勢いで会社まで来てしまったけど考えてみれば偶然翔先輩が出てくるはずも無いし……会えるはずなんてそもそも無かったのに……)朱莉は今更自分の取っている行動が無謀だと気が付いた。(こんな時、九条さんがいてくれれば……)そこまで考えて朱莉はすぐに考えを打ち消した。(馬鹿ね、私ったら。今何を思ってしまったのだろう)琢磨はもうこの会社にはいない。翔にクビを言い渡されてからは一切音信不通になってしまったのだから。今現在どこで何をしているのかも朱莉には分からないのだ。「これ以上私に関わればもっと迷惑をかけてしまうに決まってる。だから、きっと九条さんは……秘書をやめて正解だったんだ……」朱莉は自分に言い聞かせ、正面に座っている受付嬢の所へ行くと声をかけた。「あの……副社長室にお花をお届けに参りました。秘書の方に渡したいのですが」ドキドキとうるさい程に朱莉の心臓は高鳴っている。まるで今にも口から飛び出るのではないかと思う程であった。そんな朱莉を見て受付嬢は怪訝そうな顔を見せた。「あの……どちらからのお届けなのでしょうか?」「はい。副社長の奥様でいらっしゃる鳴海朱莉様からの依頼でございます。注文を受けたのでお届けに参りました」これは朱莉が必死で考え着いた嘘である。何とか翔の新しい秘書と接触出来ないか、散々考え抜いての策だったのだが……。「副社長の奥様からですか? それでは少々お待ちいただけますでしょうか?」受付嬢は内線電話をかけると、繋がったのだろう。少しの間何か会話をしながら時々、こちらに視線を送ってくる。やがて内線電話を切ると、受付嬢は朱莉に声をかけた。「今、副社長の秘書が参りますので少々お待ちください」「はい。分かりました」朱莉は少し下がったところで翔の新しい秘書がやって来るの
last updateLast Updated : 2025-04-18
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8-16 朱莉の大胆な行動 2

「あ、あの……すみません!」「はい。何でしょうか?」振り向く姫宮。「実は伝言を頼まれたんです」「伝言ですか?」「はい。実は副社長がお忙しそうだと思い、なかなか自分からメッセージを入れにくいので伝言を伝えておいて下さいとお願いされたんです。車を買いました。ありがとうございます、仕事が終わった後連絡下さいとのことでした。副社長に伝えておいていただけますか?」朱莉は頭の中で何度もシミュレーションした台詞を口にした。「……分かりました。副社長に伝えておきますね」姫宮は一瞬訝し気な目で朱莉を見たが、一礼して去って行った。その後ろ姿が見えなくなるまで朱莉は見送った。心臓はまるで早鐘のように打っていたが、何とか姫宮と接触を果たすことが出来たのだ。「怪しまれないうちに早く帰らないと……朱莉は足早にビルを後にした――**** ウィークリーマンションに辿り着いても、まだ朱莉の心臓はドキドキしていた。「私ってこんなに大胆なことが出来る人間だったんだ……」震える両手を見ながら朱莉は呟くと、突如メッセージの着信を知らせるメロディーが鳴った。「え?」朱莉はメッセージの相手を見て驚いた。それは姫宮からだったのだ。(ま、まさか……姫宮さんは私の顔を知っていて、さっき会社を訪ねたのが私だってばれてしまったの……?)朱莉は震えながらスマホを握りしめ、緊張しながらメッセージを開いた。『奥様。姫宮でございます。ご無沙汰しております。先程花屋の女性から花束を受け取り、副社長室に飾らせて頂きました。奥様によろしくとお話ししておりました。夜に電話を入れることを伝えるように言われたのでご連絡させていただきました。それでは失礼致します』朱莉は姫宮のメッセージを読むと安堵のため息をついた。「良かった……姫宮さんには私のことがばれなかったみたいで……でも…」朱莉はそこで悲しそうな顔をした。「多分翔先輩は明日香さんの話は姫宮さんに話しても……きっと私のことは姫宮さんには話していないんだろうな……私の顔だって知るはずないよね」そう、所詮自分は仮初の妻。後数年もたてば、朱莉と翔の離婚が成立して2人はまた元の赤の他人に戻る……それだけの関係。(でも姫宮さんと翔先輩の関係はこの先もきっと続くんだろうな……)それを思うと、朱莉は無性に寂しい気持ちに襲われるのだった――****
last updateLast Updated : 2025-04-18
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8-17 目撃 1

 7時―― 朱莉は部屋のカーテンを開けた。まだ東京は梅雨明けをしていないので、空は灰色の雲で覆われて雨がシトシトと振っている。その憂鬱な空を見上げながら朱莉は溜息をついた。結局昨夜は一度も翔から連絡が入らず、心に引っかかっていたのだ。(姫宮さんが伝言を翔先輩にわざと伝えなかったか、それとも翔先輩が忙しくて連絡を入れられなかったのか……その内のどちらか1つなんだろうけど……)出来れば後者であって欲しい……もし仮に姫宮が朱莉からの連絡を翔に伝えていなければ、もう翔からは連絡がこないかもしれない。気付けば朱莉は窓の外をボンヤリと眺めていたが、こうしていても仕方が無い。今日は億ションへ一度着替えを取りに戻ろうと思っていたので、朱莉は出掛ける準備を始めた。どうせあと数日でこのウィークリーマンションを出なくてはならない。今回朱莉が東京へ出てきたのは翔の浮気調査が目的で、あまり気分の良いものではなかった。何をするにも憂鬱な気分で、朱莉は料理をする気力も持てなかった。朝食を買いにコンビニへ行こうと、玄関で靴を履いて傘を持った時に、スマホに着信が入った。(まさか、翔先輩!?)期待しながら確認すると、それは明日香からであった。(明日香さん……)昨夜は翔からの連絡は来なかった。その事を告げるときっと明日香は落胆するだろう。明日香のことを思うと気が重かった。一体どんなメッセージを送って来たのだろうか……。『おはよう、朱莉さん。今朝のニュースで東京の天気を見たけれども、梅雨の寒い日が続いているそうね。風邪引かないように温かい恰好をしていた方がいいわよ。最近お腹の調子が良くなってきたの。退院できる日が楽しみだわ。そしたら何か貴女にお礼させてちょうだい』「明日香さん……」明日香のメッセージを読んで、朱莉は目頭が熱くなった。本当は翔のことを尋ねたいはずなのに、朱莉のことを気遣って、報告をじっと待っていようとする明日香の気持ちが伝わってくる。朱莉は明日香にメッセージを書いた。『おはようございます。明日香さん。こちらは確かに寒いですが、コートを持って来ているので私は大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます。数日以内には沖縄へ戻ります。その時には明日香さんにとって良い報告を持って帰る事が出来ればいいなと思っています』内容を確認すると、メッセージを送信した。朱莉は
last updateLast Updated : 2025-04-19
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8-18 目撃 2

 翔が琢磨をクビにしたという話は翔から電話で聞いた。明日香は驚いて理由を尋ねたが、翔の話では互いの方針が合わなかったからクビにしただけだとしか答えず、明確な理由を教えてもらうことは出来なかった。おまけに琢磨はスマホも解約してしまったのか、全く繋がらなくなったし、会社で使っていた専用のメールアドレスも当然エラーで戻ってきてしまう。個人用のフリーメールアドレスも同様だった。てっきり朱莉にだけは新しい連絡先を教えているだろうと思っていたけれども、朱莉も教えて貰っていないことを知った時は流石に驚いた。「翔……どうして琢磨をクビにしたのよ。朱莉さんから琢磨を遠ざける為に? ひょっとして、翔は……」しかし、明日香はそこで言葉を飲み込んで時計を見つめた。時刻は9時になろうとしている。今日はこれから超音波検査と採血がある。明日香はお腹にそっと手を当てた。未だにお腹の子供に特に何かを思うことは無いが、実際に子供を産めば自分の心の中が何か変わるのだろうか?だが、明日香には自信が無かった。何故なら明日香自身、母親から抱き締められたり、愛情を注がれた記憶が全く無かったからだ。母の愛情が欲しくて欲しくて堪らなかった。しかし母はいつも明日香に背を向け、とうとう明日香を、鳴海家を捨てて愛する男性の元へ行ってしまったのだ。最後まで明日香を顧みる事無く……。 明日香は子供に愛情を注ぐ方法が分からない。だからこそ自分の代わりに数年だけ子供を育ててくれる女性が欲しかった。他人が子供を育てる様を見てどうやって子供に愛情を注げばいいのか学びたかったのかもしれない。きっと心優しい朱莉なら愛情を持って子供を育ててくれるだろう。そしてその後は……?「翔……」明日香は天井を見つめ、ポツリと呟くのだった—―**** 朱莉は昨日と同様にウィッグにカラー眼鏡という格好で六本木にある億ションを目指して歩いていた。雨が降っていたのは幸いだった。何故なら傘で顔を隠して歩くことが出来るからだ。いつもとは違う派手めなメイクに、付けたことも無いイヤリングを今はしている。朱莉だとバレることは無いだろうが、用心に越したことはない。 エントランスに到着する前に、あらかじめ持参してきたつばの広い帽子をかぶり、中へと入る。すると、その時偶然エントランスの自動ドアが開き、中から1組の男女が現れた。朱莉は顔を見ら
last updateLast Updated : 2025-04-19
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8-19 衝撃 1

 朱莉は億ションの自分の部屋で呆然とソファに座り込んでいた。本当は荷物を取りに来たのに、それすら手につかなかった。(あの声は間違いなく翔先輩だった……。それにあの後ろ姿は見覚えがある……)考えてみれば朱莉はいつも翔の背中ばかりを見つめていた。だからこそ確信があったのだ。あの背中は翔で間違いないと。それに女性の後姿も昨日見かけた姫宮で間違いは無いだろう。昨日の出来事だから脳裏にはっきりと焼き付いている。「翔先輩……本当に姫宮さんと……一晩一緒だったんだですか……?」朱莉はポツリと呟き、目に涙が浮かんできた。嫌だ、信じたくない。翔が明日香以外の女性と……。そんなはずは絶対無い。朱莉はそう信じたかった。でも、何故だろう? 元々翔が朱莉を振り向いてくれることはあり得ない話なのに。それは明日香のことで十分すぎる位分かっている。仮に翔の相手が明日香から姫宮に移ったとしても、どのみち朱莉には翔と結ばれる未来が来ることは無いのだ。それなのに何故、今こんなにショックを受けているのだろう?「私……相手が明日香さんだったから諦めがついていたんだ……」その時、朱莉は初めて自分の気持ちに気が付いた。明日香と翔は昔から強い絆で結ばれている。そこに自分が割り込めるのは不可能だと分かり切っていた。そこへ突然現れた女性が明日香の前に立ち塞がったから、これ程までにショックを受けてしまったのだ。(私でさえこんなにショックを受けているんだから、明日香さんが目にしていたらどれ程の衝撃を受けていただろう……)そう考えると、あの2人が億ションから出て来る現場を見つけたのが朱莉で良かったのかもしれない。だけど……。「こんなこと、明日香さんに報告なんて出来ないよ……。だってもし本当に翔先輩が浮気していて、あの女性に本気になってしまっていたら? 明日香さんは順調にいけばあと数か月で赤ちゃんが生まれるのに……」(嘘ですよね……? 翔先輩。どうか明日香さんを捨てないで下さい……)朱莉は膝を抱えるように座り、その上に頭を乗せてすすり鳴いた――**** あれからどの位時間が経過しただろうか……。突然朱莉のスマホが鳴った。そこでようやく我に返った朱莉はスマホを手に取り驚いた。何と相手は翔からだったのである。(え!? う、嘘!? な、何故突然?)慌てながらも朱莉は電話に出た。「は、は
last updateLast Updated : 2025-04-19
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8-20 衝撃 2

「く、九条さん……」あの九条琢磨が爽やかな笑顔で、朱莉の部屋の大画面テレビに映し出されている。画面の中の琢磨はインタビューに答えているのだろうか。ある言葉が朱莉の耳に飛び込んできた。『我々の会社【ラージウェアハウス】は発足してまだ2年足らずの会社ではありますが、これからどんどん業績を上げていく事になるでしょう。それこそあの日本最大手の鳴海グループにも負けない程のブランド企業に……』朱莉の握りしめたスマホからは翔の声が響いていた。『もしもし! 朱莉さん! 君は琢磨があの会社に入った事を聞かされていたのか!? 朱莉さん!』しかし、朱莉の耳には翔の言葉が耳には入ってこなかった。あまりのショックで頭の中が真っ白になっていたのだった――*** ちょうどその頃、明日香はPCの画面を食い入る様に眺めていた。見ていたのは琢磨が【ラージウェアハウス】の新社長に任命されたニュースであった。「そ、そんな……琢磨。私達を裏切ったの……? いえ、違うわね……翔のせいなんでしょう……?」(翔……貴方一体何てことしてくれたの? 2人は親友同士なんじゃ無かったの?)明日香は目を閉じるとベッドに横たわり、呟いた。「朱莉さんはこのことを知っているのかしら……?」**** 広々とした億ションのある一室。そこは京極の個人オフィスを兼ねた書斎である。この書斎には7台のPCが置かれ、京極はこれら全てを使いこなして仕事を執り行っていた。今、京極はコーヒーを飲みながら巨大スクリーンに映し出されている琢磨を見ていた。その顔には笑みが浮かんでいる。「へぇ〜。これは驚きだ。九条琢磨……やっばり君は面白い男だな……」そして京極は何処へともなく電話を掛けた――**** ここは鳴海グループの会長室。今、猛はPC電話で九条と話しをしていた。「九条、君が翔にクビを言い渡された時には正直驚いたよ。まさかあいつがそんなことをするとはね」『そうですか。でも最近私と翔の間では色々対立がありましたからね』「私は君を推していたんだよ。翔の手足となって君がどれ程力になってくれているのかは十分知っていたからね。だからこそ君を私の秘書にと考えていたのだが……」『まさか。副社長にクビにされた人間が会長の秘書をするわけにはいかないでしょう?』「……何故、もっと早く私に話してくれなかった?」重々しい口調
last updateLast Updated : 2025-04-19
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8-21 同じ香り 1

「九条さん……」朱莉はテレビに映し出された琢磨の顔を思い出していた。まさか沖縄で別れて以来音信不通になっていた琢磨にテレビの中で会うとは思ってもいなかった。琢磨が新社長に就任したインターネト通販会社『ラージウェアハウス』は誰もが知っている有名な大手通販サイトで、朱莉自身も良く利用している。『それこそあの日本最大手の鳴海グループにも負けない程のブランド企業に……』あの琢磨の鳴海グループに対する何処か挑戦的な物言いが朱莉は気になって仕方がなかった。まるで喧嘩を売っているようにもみえた。(九条さん……ひょっとすると、翔先輩にクビにされたことを恨んで……?」でも朱莉はすぐにその考えを否定した。(そんな馬鹿な。九条さんは立派な男性だし、おまけにすごく優秀な人物。あの台詞を言ったのは、クビにされたことが原因なはずない……)ニュースが終わった後、朱莉は翔と電話で話をしたが、正直なところ何を話たのか、ほとんど覚えていなかった。ただ1つ覚えているのは、翔に琢磨から仮に連絡が入ったら、すぐに自分に連絡先を知らせるようにとのことだった。もし琢磨が拒絶すれば、今後一切、自分達に関わってこないでくれとはっきり伝えるように翔から言われた。金で雇われた契約妻の朱莉は、翔の言葉に従う他無かった。ふと、朱莉は思った。「翔先輩……どうして私の所に九条さんから連絡が入ると思っているんだろう? 仮に連絡が届くとすれば絶対翔先輩宛てに連絡がくると思うんだけど……」その時、突如として電話がかかって来た。相手は明日香からだった。「明日香さん!」ひょっとして明日香もニュースを見たのだろうか?「はい、もしもし」『朱莉さん! ねえ、琢磨のこと知ってる!?』明日香はすぐに琢磨の話を持ち出してきた。「はい、先程テレビのニュースで見ました。……正直驚きました……」『私はネットのニュースで知ったのよ。私もすごく驚いている。今も信じられないわ。あの琢磨が………あんなことをテレビで言うなんて……。どんな時でも私達の味方だったあの琢磨が……』電話越しの明日香の声はどこか震えているように聞こえた。「明日香さん……」朱莉は明日香に何と声をかけてあげれば良いか分からなかった。『ごめんなさい、朱莉さん。でも貴女の方がショックよね。それに琢磨があんな風になったのはきっと私と翔のせいに決まって
last updateLast Updated : 2025-04-19
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8-22 同じ香り 2

「明日香さん……」明日香の涙ぐむ声を聞けば、翔が姫宮と億ションから出てきた話等伝えることはできない。代わりに朱莉は言った。「明日香さん。あまり思い悩むとお腹の赤ちゃんに良く無い影響が出るかもしれないので今は自分の身体のことだけを考えて下さい。翔さんの件は私が東京で出来るだけのことをしてきますから。でもあまり長くはいられませんけど。いつ、翔さんが明日香さんに会いに沖縄へ来るか分かりませんから」『そ、そうよね。あまり長く沖縄を不在にしておくわけには確かにいかないわね。それじゃ、朱莉さん。悪いけどよろしく頼むわ。もし沖縄に戻る日程かが決まったら連絡貰える? また私の方で飛行機の手配をするから』飛行機で朱莉は思い出した。「あ、あの明日香さん!」『何?』「東京行の飛行機の件、有難うございました。まさかビジネスクラスのシートを取っていただいていたなんて。とても嬉しかったです」『な、何よ……。その位のこと。だって私の個人的なお願いで東京へ行って貰うんだからそれ位は当然よ……』明日香の最後の方の言葉はかき消えそうなほど弱かった。そう、その話し方はまるで……。(え? 明日香さん……ひょっとして照れてるの……?)「明日香さん。あの……」すると明日香が言った。『と、とにかく帰りの日程が分かったらすぐに連絡してね。それじゃあね』そして電話は切れてしまった。「明日香さん……ありがとうございます」朱莉はスマホを両手で握り締めて、改めて感謝の気持ちを口にした――**** その後、朱莉が気を取り直して衣類をバックに詰めている最中に安西から電話がかかってきた。「はい、もしもし」『朱莉さんですか? いくつか調べて新しく掴んだ情報が入りましたので、これから事務所に来ることは出来ますか?』電話越しから安西の声が聞こえてきた。「はい、大丈夫です。今から1時間以内にはそちらへ伺いますね」『お待ちしていますね』「はい、よろしくお願いいたします。では、後程」電話を切ると、朱莉は時計を見た。時刻は15時になろうとしている。「ええっ!? もうそんな時間だったの? まだお昼頃かと思っていたのに……」確かに考えてみれば、琢磨のニュースを見た後の明日香からの電話。そして沖縄へ戻る為の準備。すっかり時間を忘れていた。「お昼もまだ食べていなかったし……早目に出て、カフェ
last updateLast Updated : 2025-04-19
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