エレベーターのドアが閉まった後も朱莉の心臓はドキドキと早鐘を打っていた。(い、今の女性は姫宮さん……。何故一人でここに……? やっぱり二人はもう……?)思わず目じりに涙が浮かびそうになり、朱莉はゴシゴシと目を擦った。姫宮のことは気がかりだが、今は安西に呼ばれている。彼の話を聞きに行くのが先だ。朱莉は再び帽子を目深にかぶり、コートの襟を立てる。傘をさして、駅へ向かって歩き始めた――**** 結局、朱莉はカフェには寄らずに真っすぐ安西の事務所へやって来た。姫宮を億ションで見かけてしまったショックで食欲など皆無だったからだ。傘を閉じて狭い階段を登り、インターホンを鳴らした。するとすぐにドアが開き、安西が顔を覗かせた。「朱莉さん。雨の中お呼び立てしまい、申し訳ございません」事務所の中へ入ると安西が謝罪してきた。「いえ、とんでもありません。むしろ雨の中、働いていらっしゃる調査員の方達に申し訳ないくらいです」「ハハハ……それは別に気になさらないで下さい。それが我々の仕事なのですから。さ、どうぞソファにおかけください」安西は朱莉にソファを進めてきた。朱莉は腰かけると安西に尋ねた。「それで新しく掴んだ情報と言うのは何でしょうか?」「ところで朱莉さん。コーヒーはいかがですか? 実はいい豆が手に入ったんですよ。よろしければ一杯どうですか?」「本当ですか? 嬉しいです。実は丁度コーヒーが飲みたいと思っていたので」「では少しお待ちくださいね」安西はコーヒーミルを持ってくると、そこに豆を入れて、ゆっくりと挽き始める。「すごい……本格的なんですね」朱莉は感心して、その様子を見つめる。「ハハハ……実は大学を辞めた時、興信所かカフェを経営するか迷ったんですよ」「それは……またすごいですね……」(全く共通点の無い職業のどちらかを選択しようとしていたなんて。才能がある人なんだ……)朱莉は感心してしまった。「さあ、どうぞ」朱莉は早速挽きたてのコーヒーを口に入れる。「おいしいです……。それにあまり苦みが無いですね」朱莉の言葉に安西は笑みを浮かべた。「おや? 朱莉さんはコーヒーの味が分かるのですか? 実はこの豆は粗挽きなんですよ。粗く豆を挽くと苦みが抑えられて軽い味わいになるんですよ」「そうなんですか? でも、本当に美味しいです」朱莉はゆっくりコー
Last Updated : 2025-04-19 Read more