航は暫く朱莉のスマホが鳴り続けるのを無言で見つめていた。本音を言えば、この電話に出て文句の一つや二つ言ってやりたい。だが、もし自分がこの電話に出たら?朱莉がひょっとすると男と浮気をしているかもしれないと疑われてしまう。契約違反だと言われて違約金を払わされでもしたら? 住む場所を追い出されてしまったらどうする?色々と悪い考えばかりが航の頭の中に浮かんでくる。だから航は電話に出たい気持ちを耐えた。翔に文句を言ってやりたい衝動を堪えるしかなかった。やがて、電話の音は鳴りやみ、航は溜息をつくと朱莉のスマホを手に取った。悪いとは思いつつ、朱莉の涙の訳が、今まで航の知る限り一度も電話を掛けてきたことが無かった翔が何故突然電話を掛けてきたのか、航はその理由が知りたかった。 朱莉はテーブルの上に突っ伏したまま眠っている。「ごめん、朱莉。スマホの中……見せてもらうな」航は眠っている朱莉に断りを入れるとスマホをタップした。ひょっとするとロックがかかっているのでは無いかと思ったが、その心配は皆無だった。航はメールをタップしてメッセージを表示させた。それは本日翔が朱莉にあてて送って来たメッセージだった。読み進めていき、徐々に航の顔が険しさを増していく。最後まで読み終えた時には翔に対する激しい怒りで一杯だった。(くそ……っ! 一体この内容は何なんだ? 自分達のことしか考えていないじゃないか! 朱莉の気持ちを考えたことがあるのか!? こんな横暴な男は今まで見たことが無い! 朱莉が助けを求めているってことに気が付いていないのか? 面倒なことは全て朱莉に……こんなひ弱な朱莉に丸投げじゃないか!)航は深呼吸をして気持ち落ち着かせると、朱莉が翔に送ったメッセージを表示させた。その内容を読み……航の顔には悲しみが宿った。朱莉がとても困っていることが、悩んでいることがこのメッセージからひしひしと感じられた。(朱莉はどうやら京極のことで困っているようだな……。だったら尚のこと、この俺に相談してくれればいいのに……俺だったら……)そこまで考えて航は思った。(俺だったら? 本当に朱莉の力になれるのか? 何せ相手は億ションに住むような男だ。それに朱莉が書いたポストカードによると京極に恩義があるようだ。だから朱莉は京極の存在を無下にする事が出来ないのか……?)「もっと早く朱莉と俺
Terakhir Diperbarui : 2025-04-23 Baca selengkapnya