All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 321 - Chapter 330

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2-11 食卓での会話 1

 リビングでソファに座り、翔が蓮にミルクを与えている姿を見ながら朱莉は尋ねた。「翔さん。夜御飯はどうされましたか?」「ああ。朱莉さんの話を聞いた後、近場の店に食事に行こうかと思っていたんだ」蓮から目を離さず返事をする翔。「あの……もしよろしければ食事していきませんか? 実は私もこれから食事で、きのこの炊き込みご飯を作ったのですけど……」すると翔は顔を上げた。「え? いいのかい?」てっきり断ってくるのでは無いかと思っていた朱莉はその言葉を聞いて嬉しくなった。「はい、すぐ準備するので待っていて下さい」朱莉は笑顔で翔に言うと、嬉しそうにキッチンに向かって食事の準備を始めた。「……」そんな朱莉を翔は蓮を抱きながら見つめた。(どうしたんだ……? やけに嬉しそうに見えたけど。俺が食事をしていっても迷惑じゃないんだろうか? 今まで散々朱莉さんを嫌な目に遭わせてきてしまったのに……?)その時、突然翔のスマホが着信を知らせてきた。相手は琢磨からだった。「もしもし……」蓮を胸に抱いたまま電話に出ると、突然琢磨の怒鳴るような大声が受話器から聞こえてきた。『翔! さっきの話の続きだが……』すると受話器越しから聞こえてくる琢磨の怒鳴り声に驚いたのか、蓮が泣き声を上げ始めた。「ホギャアアア……ッ!」「ああ、ごめん。蓮、驚かせてしまったよな?」『な? 何……? 赤ん坊の泣き声? 蓮……? 蓮って……翔、お前の子供か!? お前今一体どこにいるんだよ!?』「俺か? 今俺は朱莉さんの処に来ているんだ。蓮にお土産を持って会いに来たんだ。ついでに食事を御馳走してくれると言ってくれたから、今リビングで待っているところだが?」『……おい、ふざけるなよっ! 翔!』ますます琢磨の怒りの声が受話器から聞こえてきた。すると蓮はさらに怯えて泣き声が大きくなる。「ああ、ごめんよ蓮。おい、琢磨、蓮が怖がるから大きな声を出さないでくれよ」すると流石に琢磨もまずいと思ったのか声のトーンが落ちた。『翔……お前俺に明日香ちゃんを押し付けておいて、お前は今更朱莉さんとの距離を縮めようとして……一体どういうつもりなんだよ?』小は蓮をあやしながら反論した。「おい、俺は別に明日香をお前に押し付けたつもりは全くないぞ? それどころか、明日香は全く俺に連絡すらよこさなくなったんだ。俺が
last updateLast Updated : 2025-05-03
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2-12 食卓での会話 2

「朱莉さん。今の話は……」「ええ。大丈夫です、翔さんが蓮君に会いに来ていると言う事はちゃんと分かっていますから。その件でご相談したいことがあるのですが……」「相談? 蓮のことでか?」「はい、蓮君のことでです」「そうか、それなら話してくれ。俺に出来ることなら何でもするから」翔はその場を取り繕う為に笑顔で返事をした。「はい、でもその前に蓮君も眠ったようですし、ベビーベッドに寝かせてまずは食事をしながらお話ししませんか?」「あ、ああ。そうだね。それじゃ御馳走になろうかな?」「それじゃ蓮君をまずは預かりますね」朱莉は翔から蓮を受け取ると、肩に抱き上げ、いつものように背中を撫でてゲップをさせると、ベビーベッドに運び、そっと寝かせた。「それでは翔さん、食事にしませんか?」朱莉はリビングにいた翔に声をかけた。「あ、ああ。ありがとう」ダイニングにはもうすでに食事の用意がされていた。きのこがたっぷり入った炊き込みご飯に豆腐とワカメの味噌汁、蓮根と人参のきんぴらに蒸し鶏のサラダが並べられていた。翔はテーブルに座ると、朱莉も向かい側に座る。「大したメニューではありませんけど……。どうぞ召し上がって下さい」「いや。そんなことは無いよ。どれもとてもおいしそうだね。朱莉さんは料理が好きなのかい?」「そうですね。嫌いではないです。でも一度は本格的に料理を習ってみたいとは思っていました。いずれは蓮君も私の料理を食べることになりますし」朱莉は翔に語ったが、内心はすでに後数年で蓮と別れなければならないことに心を痛めていた。「そうか。それじゃ料理を習いに行けばいいと思うよ。朱莉さんが料理を習いたいと言うなら好きにしてもらって構わないから。それじゃ頂こうかな?」翔は箸を持った。「はい、どうぞ」「いただきます」翔は早速、きのこの炊き込みご飯を食べてみた。きのこのうまみと醤油の香ばしい味がとても美味しかった。「うん、美味しいよ」「ありがとうございます」朱莉は恥ずかしそうに頬を染めた。「それで朱莉さん、話って言うのは何だい?」「はい。実は母のお見舞いのことについてなんです」「お見舞い?」「はい。もう1週間母の面会には行っていないんです。あの、実は私は母には蓮君のこと内緒にしているんです」「え?」「本当にすみません!」朱莉は頭を下げた。「蓮君と
last updateLast Updated : 2025-05-03
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2-13 葛藤

――22時「ご馳走様、料理美味しかったよ」玄関から出る時に翔が朱莉を振り返り、笑顔で声をかけた。「お、お口に合ったようで光栄です」朱莉は顔を真っ赤に染め、俯きながら答える。「それじゃ、朱莉さん。明日の14時半にここへ来るから、朱莉さんはお母さんの面会に行くといいよ」「はい、よろしくお願いします」「いや、お礼を言うのはこっちの方だよ。蓮の世話をしてくれているんだから。子供の世話もあることだし……今月からはいつもの手当より10%加算して振り込むことにするからね」「お気遣い、ありがとうございます」「それじゃ、また明日。おやすみ」「はい、お休みなさい」玄関のドアは閉じられ、1人玄関に残された朱莉はポツリと呟く。「翔先輩……別に私はお金が欲しくてやっている訳では……」そして俯いた。(馬鹿みたい……私ったら。つい一瞬でも翔先輩とレンちゃんが本当の家族みたいに感じてしまったなんて……)だが、翔の『手当』の話が出た時に、冷や水を浴びせられたかの感覚を受けた。翔には全くそんな気は無かったのだろうが、朱莉にはまるで<己惚れるな、甘い夢を見るな>と言われているような錯覚に陥ってしまったのだった。「そうよ……翔先輩が好きな女性は明日香さん。……記憶を無くした今だって。翔先輩がここに来たのはレンちゃんに会う為。己惚れたらいけない……」朱莉は寂しげに呟いた――**** エレベータを使わずに、階下の自分の部屋の階に降りて来た翔は玄関前に琢磨が寄りかかっているのを見て驚いた。「た、琢磨……お前、いつからそこにいたんだよ!?」「……10分程前だよ。翔……お前、スマホの電源切っていただろう?」琢磨は腕組みをしながらじろりと翔を睨み付けた。「あ……そう言えばそうだったな。電話で蓮が目を覚まさないように電源を切っていたんだっけ」すると、琢磨の顔は増々険しくなった。「取りあえず中へ入れろ。お前に話がある」「ああ……分かったよ」翔は溜息をつくと玄関の鍵を開けて琢磨を中へ入れた。翔の後に琢磨は無言で玄関から中に上がって来た。「琢磨。ここへ来るのは久しぶりだな。沖縄以来か?」「ふざけるな、俺はそんな話をする為にここに来た訳じゃないんだ」琢磨はリビングのソファに座ると、早速翔を問い詰めた。「翔、お前一体どういうつもりなんだ?」「どういうつもりとは何だ
last updateLast Updated : 2025-05-03
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2-14 葛藤 2

「琢磨。お前、本気で俺がそんなことするとでも思っているのか? 俺の好きな女性は明日香だ。朱莉さんのことは別に何とも思っていないんだからな?」「それなら、何故もっと明日香ちゃんの傍にいないんだよ! 今日明日香ちゃんが電話で言ってきたんだよ。明日は土曜日なんだから、会いに来てくれって。ここは温泉はあるけども田舎でとてもつまらないからって! お前が明日香ちゃんの記憶を取り戻すために協力してくれって言うから仕方なく引き受けはしたけど……翔! お前も明日、明日香ちゃんのいる療養施設に一緒に行って貰うからな!」琢磨はイライラしながら指さした。(くそっ! 翔の奴め……。子供のことを口実に朱莉さんに近付きやがって。今迄散々傷つけてきたくせに。どうせ今回も単なる気まぐれで朱莉さんに近付き、又傷つけるつもりだろう? 手作りの食事までご馳走になって…)後半は殆ど、自分の嫉妬の感情が入り交ざっていることは琢磨も十分承知していた。だが、どうにも腑に落ちなかったのだ。昔から琢磨はヒステリックな明日香が苦手だったのに、今は妙にベタベタしてくる。それが迷惑でたまらない。はっきり拒絶したいのだが、記憶を取り戻すための我慢だと思って耐えてきた。しかし昼夜を問わずに1日何回も電話やメールが届くことにうんざりしていたのだった。しかし、翔の口からは琢磨の予想外な言葉が飛び出した。「え? 明日、明日香の面会に行くのか? 悪いが俺は行くことが出来ない。琢磨、お前1人で明日香の所へ行って来てくれ」翔の言葉は琢磨の怒りに火をつけた。「何だって……? お前ふざけるなよ! 理由は何だ? 言えっ!」「朱莉さんに頼まれたんだよ。お母さんの病院に面会に行きたいから、その間蓮を見て貰いたいって」「朱莉さんが……?」途端にそれまでの勢いが消失していく琢磨。「朱莉さんはお母さんには蓮のことは伝えていないそうだ。まあ考えてみれば無理も無い話だよな。蓮が3歳になったら離婚をすることになっているんだから。娘が離婚の上に、子供とも別れなければならないとなると朱莉さんのお母さんはかなりショックを受けてしまうだろ。心臓だって悪いのに悪影響を及ぼしかねない」「翔……1つ聞きたいことがあるんだが……。もし、もしもだ。子供が3歳になっても明日香ちゃんの記憶が戻らなかったらお前はどうするつもりなんだ?」「……」しかし、
last updateLast Updated : 2025-05-03
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2-15 意気投合する2人 1

 翌朝——小田急沿線にある「鶴巻温泉」 何故か、ここに琢磨と航の姿があった。今2人は車から降りて、のどかな風景の中コンビニで買った缶コーヒーを飲みながら話をしていた。「全く……何で俺が男と……しかもよりにもよってお前と2人でドライブしなくちゃならないんだよ。朱莉とだったら喜んで来たのにな」恨みがましい目で航は琢磨を睨みつけた。「うるさい、俺だって同じだ。好き好んでわざわざお前を誘ったと思っているのか?」琢磨も不機嫌そうに航に言う。「それにしてもどうして俺までこんな所に連れて来るんだよ? お前が1人で明日香に会いに来れば良かったじゃないか」「そんなことを言ってもいいのか? 明日香ちゃんの記憶が戻らなければ翔はそれこそ10年以上子供の面倒を見させることをしかねないぞ? お前だって朱莉さんを早く自由の身にしてやりたいんだろう? だからこそお前には協力して貰うからな」(大体……明日香ちゃんと2人きりだった場合、いつ告白されるか分かったものじゃないからな……)琢磨は内心の本音を隠して航に昨夜連絡を入れて、本日呼び出したのだった。「全く……折角の休みだって言うのに……」まだブツブツ文句を言う航に琢磨は言った。「だがお前、温泉が好きだと車の中で話していたじゃないか? お礼と言っては何だが、とっておきの温泉があるから帰りにそこへ連れて行ってやるよ」琢磨はニヤリと笑みを浮かべた。「ついでにビールもつけてくれるんだろうな?」「ああ、いいぜ。俺は今日は酒は飲まないつもりだったが……お前にご馳走してやるよ」実は琢磨は夕方朱莉に連絡を入れて、自宅へお邪魔させて貰おうと密かに考えていたのだ。「よし、それじゃ今から明日香ちゃんの所へ行くが……お前は俺の年下の友人と言うことにしておくからな? それと明日香ちゃんがおかしな言動を取っても気にするなよ? 何せ記憶が10年分後退しているんだから」「その話、本当だったんだな……。電話で聞いた時はちょっと信じられなかったが。だけど、俺がいたって何の役にも立たないぞ? 大体俺を見て不審に思うんじゃないのか?」「いいや、きっと大丈夫さ」妙に自信ありげに言う琢磨。(何せお前は童顔で高校生くらいにしか見えない。多分明日香は気を許すはずだ……)しかし、航には今の考えは決して口には出せないのだが。「よし、それじゃ明日香の
last updateLast Updated : 2025-05-03
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2-16 意気投合する2人 2

「やあ、明日香ちゃん。元気だったか? 仕事が忙しくて中々連絡するのが遅くなって悪かったな?」まるで小さな子供をあやすかのように明日香の頭に手を添えて撫でる琢磨の姿を見て航は思った。(ゲッ! 何だよ九条のあの顔は……。あんな顔で微笑まれたら大抵の女は……)チラリと明日香の様子を伺うと、航の予想通り明日香は顔を真っ赤にしてぽ〜っとした表情で琢磨を見つめている。(あ〜あ……やっぱりな……。全く九条は無自覚でああいうことをしているんだから質が悪いぜ)実は車の中で航は今の明日香の現状を琢磨から聞いていたのである。10年前、明日香は琢磨に恋をしていたと言うことを。最初は何てあり得ない話なのだと航は思いながら聞いていたが、明日香と琢磨の様子を見て考えが変わった。(九条の奴……何考えてるんだ? あんな風に親切にしていたら、ますます明日香に勘違いさせてしまうってことが分かっていないのか? ああいう甘さがあるから今迄あいつ等にいいように利用されてきたんじゃないのか? おひとよしにもほどがある。それにしてもいい加減にして欲しいぜ……)「ゴホン!」そこでわざと航は咳ばらいをすると、明日香は初めて航の存在に気付いたようで、こちらを見た。「あら? 誰かしら。この少年は?」怪訝そうに明日香は航を見た。少年と言われて、カチンときた航。「だ、誰が……っ!」そこまで言いかけた時、琢磨が口を挟んできた。「ああ、彼は俺の年の離れた親友なんだ。鶴巻温泉まで行くって言ったら、ドライブに一緒に連れて行ってくれってせがまれたから連れて来たんだよ。露天風呂に入りたいんだってさ。可愛いものだろう?」琢磨が笑いながら言うのを見て、航は思わず切れそうになったが、必死で自分の心の中に言い聞かせた。(落ち着け……! これは朱莉の為なんだ! そして温泉とビールの為だ!)「あら、そうだったのね? それじゃ私も2人に付いて行こうかしら?」明日香はとんでもないことを言い出してきた。「え? 明日香ちゃん、外出していいのかい?」琢磨は言いつつ、心の中で思った。(冗談じゃ無い! さっさと解放させてくれよ!)そしてチラリと航を見ると、機嫌の悪さを隠そうともせず、ソファに座って航はスマホをいじっていた。そんな航をみて明日香は尋ねた。「ねえ。そう言えば貴方の名前は何て言うの?」「俺か? 俺の名前
last updateLast Updated : 2025-05-04
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2-17 歩み寄り 1

——14時半「すみません、翔さん。それでは蓮君をよろしくお願いします。1時間以内には戻って来ますので」朱莉は身支度を整えると翔に頭を下げた。「いや。別に1時間以内に戻って来なくても大丈夫だよ。おむつもさっき変えたし、ミルクもあげたばかりだからすぐに目を覚ますと言うことはないだろう?」「でも……」「気にしなくて大丈夫だよ。蓮の為に毎日お母さんの所に面会に行けなくなってしまったんだから、俺が蓮を見れる日はなるべく朱莉さんはお母さんの面会に行ってあげるといい」「そう言っていただけると助かります。それではよろしくお願いします」「ああ、行ってらっしゃい」すると朱莉の顔が真っ赤になった。「どうしたんだ? 朱莉さん」「い、いえ。なんでもありません! それでは行ってきますね」朱莉はそそくさと玄関のドアを開けて外へと出るとエレベーターホールへ向かった。(行ってらっしゃいって言われて思わず赤くなっちゃったけど……翔先輩に気付かれちゃったかな? 翔先輩を好きだって言うこと絶対に気付かれないようにしなくちゃ)朱莉は地下駐車場の階で降りると自分の車に乗り込み、シートベルトを締めてエンジンを掛けた。(フフフ……お母さんに会うの久しぶり。楽しみだな……)そして朱莉はアクセルを踏んだ——**** 朱莉が部屋を出た後、翔は持参して来たPCを開いて仕事をしていると突然スマホに着信が入った。すると電話の相手は祖父からである。翔は慌てて電話を取った。「はい、もしもし」『ああ、翔。久しぶりだな、元気にしていたか?』「はい、すっかりご無沙汰しておりました」『ずっと仕事が忙しくてすっかり連絡するのが遅くなってしまったが子供が生まれたんだろう? お前の方も仕事が忙しいのは分かるが、そういう大事な話はすぐに連絡を入れろ。第一、姫宮からの連絡が来なければ曾孫が生まれたことすら分からなかったぞ?』「はい。申し訳ございませんでした」『男の子だったらしいじゃないか? 名前は何て言うんだ?』「蓮と言います」『そうか……蓮か。鳴海蓮……うん。良い名だ。どうだ? 可愛いだろう?』「ええ。とても可愛いいですよ」翔はチラリと眠っている蓮を見つめた。『それで、朱莉さんはどうしてるんだ?』「朱莉さんはずっと母親の面会に行けなかったんです。だから僕が今日は彼女の代わりに蓮の子守り
last updateLast Updated : 2025-05-04
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2-18 歩み寄り 2

――15時 琢磨と航は温泉施設へと向かっていた。「航、お前がいてくれて今日は本当に助かったよ」琢磨は笑顔で航に話しかけた。「お前は俺に明日香を押し付けっぱなしだったんだからな? ビールだけでなく飯も奢れよ?」「ああ、分かってるって」いつの間にかこの2人は名前で呼び合うような仲になっていた。結局この日は航と明日香のアプリゲームの話で盛り上がり、琢磨も半ば強引にアプリゲームをインストールさせられ、連携プレーに参加させられたのだった。「それにしてもお前、あのゲームは初めてだと言っていたくせに上手だったじゃないか?」航はチラリと琢磨を見た。「ああ。シュミレーションゲームだろう? ああいった駆け引きは実際の仕事と似ているよな? だからうまく出来たんじゃないか?」前を見ながら、サラリと言ってのける琢磨の姿に航は面白くない。「あー! これだからエリートは面白くねえ! まだその温泉施設は遠いのか?」「いや、後5分程で着く予定だ」「それより、どうするんだよ? お前来週も明日香の所へ行く約束なんかして……お前が1人で行けよ? 俺は絶対に行かないからな」航の言葉に琢磨はニヤリと笑った。「それはどうかな? 明日香があまりにもしつこくお前の連絡先を聞いて来たから、教えてやったんだ。今度からはお前の所にも直に連絡寄こすんじゃないか?」「な……何だって!? お前ふざけるな! 勝手に人の個人情報を漏らすなよ!」航は激怒して琢磨を睨み付けた。「まあそう言うなって。明日香が記憶を取り戻せれば、俺達はお役御免になるんだから。これも朱莉さんの為だと思えば辛抱できるだろう?」「う!」朱莉の名前を出されれば、流石の航も黙り込んでしまうしか無かった。(航は本当に朱莉さんのことが好きなんだな。俺も航みたいにもっと自分の素直な感情を朱莉さんに伝えることが出来れば良かったのに……)そんな様子を見ながら琢磨は思った。「全く……とんでもない奴等と関わってしまったぜ……」航はまだ小声でブツブツ文句を言っている。「まあ、そう言うなって。これも何かの縁だ。今度からうちの会社でも企業調査を依頼する時は、安西航を指名するからさ」「え!? その話本当か?」「ああ、本当だ。俺は一応社長なんだ。それ位の権限は持ってるのさ」「何だよ、それ……偉そうに。まあいいいか、それじゃ今度から
last updateLast Updated : 2025-05-04
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2-19 変わりゆく関係 1

――16時「それじゃ、お母さん。又来るね?」朱莉は椅子から立ちあがると母が声をかけてきた。「朱莉、ひょっとして今すごく忙しいんじゃないの? 何だか顔色も良くないし、疲れているように見えるけど?」「え?」(そういえばレンちゃんの3時間おきのミルクやおむつ交換で寝不足気味かもしれない。でもお母さんには絶対に言えない)「うううん、大丈夫だよ。お母さん。まだ仕事が慣れていないだけだから。私の心配はしなくて平気だよ?」「そう? ならいいけど……。面会も本当に大丈夫よ? 毎週来れなくたって貴女の身体の方が大事だから」母は朱莉の手を握りしめた。「うん、お母さん。でも本当に平気だよ? それにお母さんに会いたいし」「朱莉。それじゃ本当に無理しないでね?」「うん、分かってる。それじゃあね」朱莉は手を振ると母の病室を後にした。(16時半か……。冷蔵庫にはまだ買い置きがあるから買い物はしないで大丈夫そうだけど、明日からはネットスーパーで買い物をしたほうがいいかも。翔さん1人で大丈夫かな? レンちゃん泣いていないといいけどな……)その時、朱莉のスマホにメッセージの着信を知らせる音が鳴った。(誰からかな?)朱莉はスマホをタップして、中身を読んだ。そして笑みを浮かべるとメッセージをその場で打ち込んで送信すると急いで駐車場へと向かった——****――17時「あ〜風呂はいいし、つまみも最高、ビールも美味かった。もう言うこと無しだな」航は満足げに琢磨の運転する車内で言った。そんな航を見て琢磨が苦笑する。「全く、人の奢りだからと言って図々しい奴だな。好きなだけ飲んで好きなだけ食って」「何だよ? 別にいいじゃないか。どうせ明日も休みなんだし。それに好きなだけ飲んで食べろって言ったのは琢磨の方だろう? 俺は今日はそうとう活躍したと思うぜ? 何て言ったって、あの明日香の魔の手からお前を守ってやったんだからな? これ位当然の報酬だろう?」「ったく……何だよ。その魔の手って言うのは?」琢磨は不満そうに言う。しかし、口では文句を言いながらもどことなく琢磨の顔は楽し気だった。(きっと航のこういう性格が朱莉さんには心地よかったのかもな。口は悪いが何処か憎めない性格だし)そしてチラリと航を見た。「ところで、航。どこで降ろせばいい?」ナビを見ながら琢磨は尋ねた。「
last updateLast Updated : 2025-05-04
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2-20 変わりゆく関係 2

 満足そうにしている航に琢磨は言った。「ああ、だから今夜は朱莉さんの所へ行くのは遠慮しろ」「はあ!? お前一体何言ってるんだよ! ふざけるな!」琢磨は酔いで赤くなった顔をますます赤らめて抗議した。「お前なあ……朱莉さんの所にはまだ生後1か月にも満たない赤ん坊がいるんだぞ? そんな酒の匂いをプンプンさせて行ってもいいと思っているのか?」琢磨に指摘されてそこで航は初めて自分の犯した失態に気付いた。「くう〜そうだった……。俺はまたしても酒で失敗を……あの時もビールさえ飲んでなければ夜のロマンチックな観覧車を朱莉と2人で乗ることが出来たのに……」「何だって!? 今の話はどういうことなんだよ! 詳しく話せ!」それを聞いた琢磨の心境は穏やかでは無い。「煩い! 初めから朱莉に会いに行くつもりがあったんなら、どうして事前に俺に言わなかったんだよ!畜所ー! 俺を騙したな!?」「うわ! お前車の中で暴れるなよ! おい! いい加減にしないと降ろすぞ!」「おう! やれるもんならやってみろ!」とうとう車内で男2人の口論が勃発した――****同時刻——「翔さん、遅くなって申し訳ございません。只今戻りました」息せき切って朱莉は玄関のドアを開けた。「ああ、朱莉さん。お帰り。今丁度蓮にミルクを作ろうとしていた所なんだ」翔はお腹が空いて泣いている蓮を胸に抱きかかえながらお湯を沸かしていた。「すみません、すぐに手を洗ってきます」朱莉は慌ただしく靴を脱ぐと、すぐにコートを脱いで洗面台へ向かうと手を洗って来た。「私がミルクを作りますね」ガスコンロへ向かう朱莉。「頼む。それじゃ俺は蓮のおむつの様子を見るから」「はい、お願いします」翔は未だに泣き続ける蓮をベビーベッドに運ぶとおむつの様子を確認した。(ああ……やっぱり汚れていたか)翔は以前朱莉に教えて貰った通りにおむつを交換すると蓮がようやく泣き止んだ。「ふう……どうだ? 蓮。気持ちよくなっただろう?」消毒面で手を綺麗に拭きながら翔は蓮に話かけた。するとそこへミルクを作って持って来た朱莉がやって来た。「フフフ……。翔さん、そうやって沢山蓮ちゃんに話しかけてあげてください。言葉を早く覚えてくれるように」「ああ、そうするよ。ミルク作ってくれたんだね? ありがとう」「いえ、それでどうされますか? ミル
last updateLast Updated : 2025-05-04
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