All Chapters of 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした: Chapter 341 - Chapter 350

408 Chapters

2-31 絶縁宣言 1

 それは朱莉が蓮のおむつを交換して、ミルクを飲ませて寝かせ付けた後のことだった。突然翔から電話が入ってきたのである。「え? こんな時間に翔先輩から電話なんて……」時計を見ると23時を過ぎていた。今までこれ程遅い時間に電話がかかってきたことが無かったので朱莉は戸惑った。(ひょっとして何かあったのかな……)スマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『やあ、朱莉さん。こんばんは』心なしか翔の声が明るく聞こえた。「こんばんは、翔さん。何か良いことでもあったのですか? 声が明るく聞こえますけど?」『そうかい? やはり分かってしまったかな……。実はね、明日香の記憶が戻ったんだよ。それで今日連れ帰ってきて、今眠ったところだから朱莉さんにも知らせておかないといけないと思ってね』「そうだったんですね。明日香さんの記憶が戻って本当に良かったです」朱莉は心から言った。すると次に翔の口から驚きの話を聞かされる。『うん、それでね朱莉さん。明日香が戻って来たから、もうそちらに行くことは出来なくなったんだ。明日香はその……小さい子供、特に赤ん坊が苦手でね。きっと俺が蓮の様子を見に行くことを嫌がると思うんだ。それで悪いけどこれからは朱莉さんがお母さんの面会に行くときはベビーシッターをお願いしてもいいかな? その料金は別途上乗せして振り込むことにするから。悪いけどよろしく頼むよ』「そう……なんですか? それではこれから蓮君に会いには来られないと言うことなのでしょうか?」『う~ん……そういうことになるかもしれないね。あ、でもお祝い事にはプレゼントを贈らせてもらうから、その点は任せてくれ』「は、はい。分かりました……」『それじゃ、朱莉さん。引き続き蓮こと頼むよ。君だけが頼りなんだ』「はい。分かりました」『それじゃ、お休み』「はい。おやすみなさい……」そして翔からの電話は切れた。朱莉はスマホを握りしめたままため息をついた。<君だけが頼りなんだ>翔の声が頭の中でこだまする。「翔先輩……でも、私も先輩だけが頼りだったんですよ……?」ポツリと朱莉は寂しそうに呟くと、PCを立ち上げてネット検索を始めた。ベビーシッターを探す為の——**** その次に翔は琢磨に電話をかけた。4コール目の呼び出し音で琢磨が電話に出た。「もしもし」『翔か。昨夜は泊めて
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-32 絶縁宣言 2

「だから、明日香がいるのに蓮の面倒を見に行くことは出来ないだろう? 明日香は特に赤ん坊が苦手なんだから」『お前……まだそんなことを言っているのか!?』電話越しからも琢磨の怒りが伝わってくる。「何だ? それほど怒ることなのか? まあ最初の契約書とは少し変わったが、蓮が3歳になるまでは朱莉さんが子育てをするという契約は交わしているんだし。何か問題でもあるのか?」翔には何故琢磨がそこまで怒りをあらわにするのか理解出来なかった。『お前……それでも蓮の父親か!? 他人に子育をまかせっきりにするなんて、一体いつの時代を生きてるんだよ!』「おい、落ち着けよ。……それ程激怒することなのか?」すると少しの沈黙の後……琢磨の声が聞こえてきた。『お前は本当に自分と明日香ちゃんのことしか考えていないんだな。そんなんじゃ、今に皆お前から離れていくかもしれないぞ?』「琢磨……。お前はそう考えているのか?」『さあな……だけど、最初に俺を切ったのはお前だ』「そうかもしれないが……でもこうしてまたお前は戻って来たじゃないか?」『俺の心の内なんお前には分からないかもしれないが、もうこれ以上お前とは関わりたくない。二度と連絡してこないでくれ』「え? 琢磨?」『もうお前には完全に愛想が尽きたよ。この電話を最後に、もう完全に縁を切らせてもらう。ただし……朱莉さんとは個人的にこれからも連絡を取るつもりだからな。俺はもう鳴海グループとは無関係なんだ。文句は言わせない』その声は、どこまでも冷淡だった。「お前、本気で言ってるのか? 考え直す気は……」ピッそこで電話は完全に切れてしまった。「琢磨……」翔はスマホを握りしめたまま、呆然としていた—— 一方、電話を切った琢磨は頭をガリガリと掻き毟って乱暴にソファにスマホを投げつけた。「くそっ! イライラする……!」キッチンに向かうと冷凍庫から氷を取り出し、乱暴にグラスの中に投げ入れる。酒棚の扉を開け、中からウィスキーの瓶を取り出すとグラスの中に注いだ。マドラーでガシャガシャとかき混ぜ、一気に口の中にウィスキーを流し込む。そして深いため息をついた。「朱莉さん……また翔の奴に傷つけられたんだな……可愛そうに。俺が代わりに蓮の面倒を……。ん? そうか……!」琢磨はソファに投げ捨てたスマホを取りに行くと、電話を掛けた。何回目か
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-33 冷たい男と優しい男 1

 明日香が記憶を取り戻し、翔と再び一緒に暮らし始めてから5日が経過した。仕事を終わらせた翔が自宅へ戻ると、明日香が液晶タブレットに向かってイラストを描いてる最中だった。「明日香、仕事をしていたのか?」ネクタイを緩めながら翔が尋ねると明日香が顔を上げた。「ええ、そうよ。半年以上仕事をしていなかったから、そろそろ再開しないとね。でも出版社には本当に感謝だわ。ブランクがあるのに、また声をかけてくれるんだから」「そうか……ところで明日香。明日は土曜日で仕事も休みだし、久しぶりに2人で一緒に出掛けないか? 那須の温泉なんてどうだ?」翔が笑顔で言う。「ねえ。そんなことして朱莉さんに悪い気がしないの?」明日香は真面目な顔で翔を見上げた。「何故そこで朱莉さんが出て来るんだ?」首を傾げる翔。「私……入院生活をして初めて分かったんだけど、土日はやっぱり入院患者に面会が多いのよね。ほら、平日は皆仕事を抱えているからじゃない? 朱莉さんのお母さんだって入院しているのに、普段から朱莉さんは蓮の子育てで面会に行けないわけでしょう? だから土曜か日曜位は私たちが蓮を見るのは当然なんじゃないかと思ったのよ。私1人で蓮を見る自信は全くないけど、翔と2人なら私、蓮の世話を出来そうな気がするんだけど……」「ああ、それなら大丈夫だ。朱莉さんにはベビーシッターを探してくれってお願いしてあるから。きっと今頃はもう蓮のお世話を頼んでいるはずだ。だから、一緒に温泉に行こう。明日香の記憶が戻ったお祝いも兼ねてさ」「え……? ベビーシッターですって……?」明日香の顔が曇った。「どうしたんだ? 明日香」「翔……貴方、朱莉さんにベビーシッターを雇うように言ったの?」「ああ、そうだ。だってそうしないと誰が朱莉さんの代わりに蓮を見るんだ? 明日香は赤ん坊が苦手だろう? だから俺達が蓮を見るのは無理じゃないか。ベビーシッター代だって、こちらが払うんだから」「…」明日香は翔を冷めた目で見た。「私の……為だって言うの?」「あ、ああ。そうだが……?」明日香は溜息をついた。「ねぇ、私は一度でも翔にそんな事頼んだ覚えはないけど? 前から不思議に思っていたけど、翔は朱莉さんに冷たいわね。まるでわざと冷たい態度を取って自分から遠ざけようとしているみたい。何故なの?」「え? 俺がわざと朱莉さん
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-34 冷たい男と優しい男 2

 同時刻―― 仕事が終了し、マンションへ帰宅した琢磨は朱莉に電話を掛けた。何コール目かの呼び出し音の後に朱莉が電話口にでた。『はい、もしもし』「こんばんは、朱莉さん。今少し大丈夫かな?」『はい、大丈夫ですよ、さっきレンちゃんは眠った所ですので』「そうか、それは都合がいい。朱莉さん、明日なんだけどお邪魔しても大丈夫かな?」『え……と、明日……ですか?』「うん。明日なんだけど」『午前中なら大丈夫ですけど。午後は都合が悪くて』「お母さんの処へ面会に行く予定なんだろう? ベビーシッターを雇って」琢磨は身を乗り出す。『え? 何故そのことを……あ、翔先輩に聞いたんですね?」「そうなんだ、それで蓮の世話を俺と航で面倒をみさせてもらえないかと思って連絡したんだ」『ええ!? 九条さんと航君がですか!?』電話越しから朱莉の驚いた声が聞こえてきた。「うん。俺と航じゃ心もとないかもしれないけど……何とか頑張ってみるよ。それで明日、蓮のお世話の仕方を教えて貰いたいと思って連絡を入れたんだ。午前中大丈夫なら朱莉さんの自宅へ行くから教えてくれないか?」『い、いえ! そんな大丈夫ですよ! ちゃんともうシッターさんにお願いしましたから』朱莉が動揺しているのが分かったが、琢磨は続けた。「俺は、朱莉さんの力になりたいんだ。翔の奴が明日香ちゃんが退院してきたからもう蓮の面倒は見れないと言ってきたんだろう? そんな理屈が通るはずない。そう思わないかい?」『九条さん……』「俺はもう翔の秘書でも無ければ、鳴海グループとも一切関係は無くなったが、朱莉さんのことは手助けしてあげたいって思っている。だから協力させて貰いたいんだ。航も朱莉さんには沖縄で散々お世話になっているから、力になりたいって言っていたんだよ」(航のことを持ち出せば、朱莉さんも断りにくいだろう)『で、でも九条さんも航君も普段はお仕事が忙しいのに、このうえお休みの日に子守をさせるなんて……』「朱莉さん。もし逆に俺と航に蓮の面倒を見させるのが困るなら、正直に言って欲しいんだ。誰だって育児の経験が無い男2人に面倒を見てもらうのは不安に思うかもしれないからね」卑怯だと思ったが、琢磨はあえて朱莉が断りにくい言い方をした。『困ると言うことは……ありませんけど……』受話器越しからためらいがちな朱莉の声が聞こえて
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-35 突然の横槍 1

 翌朝9時―朱莉が蓮のおむつ交換をしている時に、突如として自宅のインターホンが鳴らされた。「あ! 九条さんと航君、もう来たのかな?」そこでモニターを確認した朱莉は驚いた。何とそこに立っていたのは姫宮だったのである。「は、はいっ!」朱莉は慌ててモニター越しに返事をした。すると姫宮が笑顔で挨拶してきた。『おはようございます。朱莉様。連絡も入れずに突然、来訪してしまい申し訳ございません。実は副社長から、本日お子様の面倒を見てもらいたいと連絡が入りましたので、こちらへ伺いました』「え!? そうなんですか!?」(そんな……翔先輩。わざわざお休みの日なのに姫宮さんに連絡を入れたの?)『はい、なので今からお邪魔してもよろしいでしょうか?』姫宮は翔の秘書を務めている。そして翔直々に姫宮に蓮の世話を頼むと依頼してきたのだから、朱莉にはそれを拒む理由が見つからなかった。蓮はいくら自分が母親代わりに育てているとはいえ、所詮は明日香と翔の子供なのだ。翔がどこの誰に蓮の世話をお願いしようが、朱莉にはそれを拒む権利は無い。「分かりました。今開けますね」朱莉がドアを開けると姫宮は礼を言い、中へと入って行った。姫宮が自宅へやって来る間、朱莉はめまぐるしく考えていた。(どうしよう……。九条さんと航君は10時にはこっちに来ることになっている……。今から断りを入れたほうがいいのかな……?)その時、再び今度は玄関のインターホンが鳴り響いた。ドアアイをのぞき込むとそこには姫宮が立っている。朱莉はドアを開けると姫宮は笑顔を見せた。「申し訳ございませんでした、朱莉様。日曜の朝早くからご自宅に伺ってしまって。それでは早速ですが蓮君のお世話の方法を教えていただけますか?」「は、はい。それが実は知り合いの2人の男性が蓮君のお世話をしてくれることになっていたのですが……」するとそれを聞いた姫宮の顔が曇った。「恐れ入りますが、朱莉様。それはおやめになった方がよろしいかと思います。一応書類上とはいえ、朱莉様は副社長の奥さまでいらっしゃいます。ここに住んでいない若い男性が朱莉様の自宅を出入りしているところを見られたらどうされるおつもりですか? 噂が広がり、世間に知られてしまえば大変な事態になりかねません。なのでお2人には断りを入れて下さい」姫宮の有無を言わさない態度に朱莉は気おくれして
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-36 突然の横槍 2

「あの、姫宮さんは直に翔さんから蓮君のお世話を頼むとお願いされたそうなんです。ですから……」朱莉はチラリと姫宮を見た。すると、姫宮が朱莉に声をかけた。「相手の男性の方に電話を代わっていただけますか?」「え? でも……」「大丈夫です。私にお任せください」そして朱莉が返事をする前に、ヒョイとスマホを朱莉の手から抜き取ると電話に出てしまった。「もしもし、お電話変わりました。副社長の秘書の姫宮と申します。初めまして」一方、琢磨は驚いた。先程まで話をしていた朱莉から急に聞きなれない女性の声が話しかけてきたからだ。『……初めまして。九条琢磨……と申します』琢磨は出来るだけ冷静に対応した。「九条琢磨さんですか。確か貴方は副社長の前の秘書の方ですね?」『そうですか。私のことを御存じだったのですね』「ええ、勿論。副社長から詳しくお話は伺っておりますので。ところで九条さん、貴方なら朱莉さんの立場をよくご存じのはずですが、何故このような真似をされるのですか?」『……それはどういう意味でしょうか?』「朱莉様は、書類上ですが正式な副社長の奥様でいらっしゃいます。それなのに朱莉様の処へ出入りしようとするのは、いかがなものでしょうか? 朱莉様と副社長の立場をもう少し考えて行動すべきかと思います。例え、お2人の間に恋愛感情が無いとしても……世間はどう思うでしょうか?」『そ、それは……』琢磨は苦し気な声を出した。朱莉はそんな2人のやり取りをハラハラしながら見守っていた。琢磨の声は全く聞こえては来ないが、姫宮の話の内容でどのような内容なのかは分かっていた。「今回は蓮君のお世話は私がいたしますので、遠慮願いますか?」『分かりました…。それでは最後に朱莉さんに挨拶だけしたいので電話を代わっていただけますか?』「ええ、お待ちください。朱莉様、九条様がお話ししたいとのことです」姫宮が電話を渡してきた。「は、はい……」朱莉は電話を代わった。「もしもし……」『朱莉さん、何だか悪かったね。どうやら俺は軽はずみな行動を取ろうとしていたようだよ』電話越しから琢磨の悲し気な声が聞こえてくる。「いえ、むしろ謝罪するのは私です」『いや、朱莉さんは何も悪くないよ。もともと最初に手伝いを申し出たのも俺の方だし』「九条さん……」朱莉は何と声をかければよいか分からなかった
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-37 2人の面会 1

 姫宮は優秀な秘書だけあって、育児に関しても呑み込みが早かった。首の座らない蓮の抱き方も、ミルクの作り方から飲ませ方、ゲップのさせ方……そしておむつ交換。そのどれもが1度ですんなり覚えられたのだ。「流石は姫宮さん。優秀な秘書でいらっしゃいますね」すると姫宮が笑みを浮かべた。「いいえ、朱莉様の教え方がお上手だからです。お陰様で将来の役に立てそうです」「そうなんですか? きっと姫宮さんなら素敵なお母さんになれそうですね」すると姫宮が意外な質問をしてきた。「朱莉様は、副社長との離婚が成立したらどうされるのですか?」「え?」まさか翔の秘書からそのような質問が投げかけらると思っていなかった朱莉は戸惑った。「私は……」(私は……どうしたいんだろう……? また1人暮らしに戻ってお母さんが退院してくるのを待って、将来一緒に暮らす……? それとも何か良い縁があればいつかは結婚も……)朱莉が考え込んでしまったのを見て、姫宮は慌てた。「朱莉様、今の話は気にしないで下さい。変な質問をして申し訳ございませんでした」「い、いえ。そんなことはありませんけど…。でも姫宮さんもとても立派な方ですね。お休みの日だと言うのにお仕事には全く関係無いプライベートな育児を翔さんにお願いされて、引き受けて下さるなんて」すると姫宮が意味深な表情を見せた。「ええ……そのことですが……実は副社長から『特別手当』を支給すると言われたからなんです。副社長にはお金が理由で引き受けたとは思われたくないので、黙っていてくださいね?」「え? は、はい……分かりました」**** その後も育児のレクチャーは続き、2人でケータリングの昼食を食べたりしている内に、あっと言う間に朱莉が外出する時間がやってきた。「すみません、姫宮さん。17時までには必ず戻りますのでレンちゃんのことをよろしくお願いいたします」朱莉は玄関先で姫宮に頭を下げた。「ええ、大丈夫です。お任せください。どうぞ安心してお母様のお見舞いに行って下さい」姫宮に見送られながら朱莉はお辞儀をすると玄関のドアを閉めた。 姫宮は朱莉が玄関から出ていくのを見届けると、蓮の様子を見に行った。蓮は今から1時間ほど前にオムツも交換し、ミルクも飲んだのでぐっすり眠っている。少しの間、無言で蓮の様子を見守っていた姫宮はスマホを取り出すと、画面を
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-38 2人の面会 2

「覚えていない? 翔さんの秘書を務めていた男の人で、一度ここにも来たことがあるんだけど?」「あ! あの方ね。とても感じが良くて素敵な方だったわ」洋子はようやく思い出した。「そうだね。確かに九条さんはとても素敵な人だと私も思うよ」朱莉の話を聞いた洋子は躊躇いがちに尋ねた。「私は……ああいう男性が朱莉には向いてると思ったのよ……。優しそうで気立ても良さそうだったから……」「お母さん?」「あ、な、何でもないの。今言った事は忘れて頂戴」すると朱莉は母を見て微笑んだ。「九条さん、今はお付き合いしている女性がいなみたいだけど、きっとすぐに素敵な女性がみつかるでしょう? 私じゃ釣り合わなさすぎるってば」「朱莉……」(でもあの時……九条さんは朱莉に好意があるように思えたけど……。朱莉はそのことに気が付かなかったのかしら?)『ラージウェアハウス』のHPを見ている朱莉を洋子はじっと見つめるのだった——****「それじゃ、お母さん。そろそろ私帰るね。本当は毎日面会に来たいんだけど忙しくて……」朱莉は名残惜しそうに立ち上がった。「いいのよ。そんな毎日なんて。毎週来て貰ってるだけでも貴女の負担になってるんじゃないかと思うと、かえって申し訳ないわ」すると朱莉は洋子の手を握った。「何言ってるの? お母さん。たった2人きりの家族じゃない」「え? 朱莉……2人きりって……翔さんは?」そこで、朱莉はハッとした。(そうだった……! 翔先輩と私は夫婦だったんだっけ!)洋子は心配そうに朱莉を見つめている。「それはね、血の繋がった家族は2人だけって意味で言ったの。別に深い意味は無いからね?」「ああ。そういう意味だったのね? 分かったわ。……ところで朱莉」急に真面目な顔で朱莉を見た。「な、何? お母さん」「私は……何があっても貴女の味方だからね?」「お母さん……?」洋子の身体は少しだけ震えていた。「どうしたの?」「いいえ、何でも無いの。それじゃ、朱莉……気を付けて帰るのよ?」「う、うん。それじゃまたね。お母さん」朱莉は手を振ると病室を去って行った――それを見届けると、洋子は封筒からスナップ写真を取り出した。「朱莉……」その写真は朱莉が男性と抱き合っている写真であった。男性の方は背中を向けているので顔は分からない。だが朱莉はこちらを向いてい
last updateLast Updated : 2025-05-06
Read more

2-39 脅迫 1

——18時 有楽町の繁華街の、とある1軒の居酒屋に琢磨と航の姿があった。「まさか、お勧めの居酒屋があるって言ってたけど……沖縄風の居酒屋だったとはな……」お座敷席で航は泡盛を飲んだ。「何だ? 沖縄風よりも北海道の味覚の方が良かったか?」琢磨はオリオンビールを飲みながら航に尋ねる。「う~ん……どうだろうな? もうすぐ12月だから北海道風でもいいけど……うん。でもやっぱり沖縄かな? あれ以来沖縄にはまったもんな! 朱莉との生活も楽しかったし……」何処か挑発的な目で琢磨を見る航。「ああ、そうか!」琢磨はイライラしながらビールを煽るように飲み、空になったグラスをダンッ!と置く。(くっそ……航の奴め……俺よりも朱莉さんとの出会いが遅いくせに、俺よりも長く朱莉さんと会っていた時間が長いなんて……)「お? どうした? 色男が俺に嫉妬してるのか?」航がからかうように言う。「誰が色男だよ!」「お前に決まってるじゃないか。俺より先に待ち合わせ場所に来ていただろう? お前、女に声かけられていたじゃないか」「は? 何だ、航。お前見ていたのか!?」「ああ、勿論。あの九条琢磨がどんなふうに女を断るか見ておきたかったからなあ。いや〜それにしてもやっぱりお前って女にモテるんだな?」「向こうから声をかけてくるような女なんて、こっちから願い下げだ」琢磨は言いながら、海ブドウに箸をつけた。「へえ〜お前って肉食系の女は苦手だったんだな? そうか。だから朱莉みたいなタイプの女がいいのか」「お前なあ……前から言おうと思っていたんだが、どうして朱莉さんのことを呼び捨てにするんだ? 彼女はお前より幾つ年上だと思ってるんだよ」「3歳しか変わらないだろう? 何だよ、お前も京極と同様嫉妬してるのか? 大体朱莉がよびすてで構わないって言ってくれたんだぜ? だったら琢磨も聞いてみればいいだろう?『朱莉、俺もお前のこと呼び捨てで呼んでも構わないか?』ってな?」「お前……俺のことからかってるだろう? おい、俺にも泡盛よこせ!」航がボトルで頼んだ泡盛を琢磨は奪うと、空いてるグラスに並々注いで、グイッと飲む。「あ~あ……俺より5歳も年上なのに……男の嫉妬程醜いものは無いぜ?」航はゴーヤチャンプルーを美味しそうに口に運ぶ。「うん、美味いな。そう言えば朱莉も俺の為にゴーヤチャンプ
last updateLast Updated : 2025-05-07
Read more

2-40 脅迫 2

「うん? 誰からだ?」航はスマホを見るが、知らないアドレスからの着信である。「何だ? このアドレスは……それに添付ファイルが付いてるぞ?」「おい、航。ウィルスソフトかもしれない。何もしない方がいいぞ?」泡盛を飲みながら琢磨は言う。しかし、航は首を振った。「いや……このメール……何か変だ……」「変? どういうことだ?」琢磨は尋ねた。「鳴海朱莉に関する扱いについて……って書いてある」「何だって!?」琢磨が腰を上げた。「メッセージ……開いてみるぞ……」航は震える指先でメッセージを開いた。すると驚きの内容が記されていた。『鳴海朱莉は鳴海翔の人妻である。なので不用意に近付かないように』メッセージはまだ続く。航は画面をスクロールさせ、その文章を目にした。「画像を確認してみろ……?」「おい、どうするんだ? 航」「開いてみるしか無いだろう?」ファイルをタップして、2人は目を見開いた。それはこの間、雨の夜朱莉と航が再会した時の写真だった。そこには朱莉を抱きしめた航の姿が映っている。「「!!」」2人は息を飲んだ。「おい琢磨……この写真撮ったの……お前じゃ無いだろうな……?」航が睨みつけると、琢磨は激怒した。「何だって……? ふざけるな! 俺がそんな卑怯な真似をすると思っているのか!?」「そ、そうだな……。悪かった。お前はそんなことする奴じゃ無いだろう。それじゃ一体誰なんだ? 俺たち以外にあの時、誰かがいたのか……?」そこまで言いかけて航はハッとなった。「まさか、マスコミの連中か……? また朱莉を狙って……?」航の呟きを琢磨は聞き逃さなかった。「何だって? マスコミがどうしたんだ? まさか朱莉さんはマスコミにつけ狙われてるのか?」「い、いや……俺はその辺の事情は知らない。ただ沖縄で京極に言われたんだ。マスコミが朱莉を狙ってるから、朱莉とは当分連絡を取るなって……」「これは……誰に対する脅迫なんだ……?」「さあな……。少なくとも、お前に対する脅迫では無いってことだけは確かだろう?」そして航は再び泡盛に手を伸ばした——**** 琢磨と航が有楽町でお酒を飲んでいる頃、既に帰宅していた朱莉は夕食の支度をしていた。姫宮は朱莉が帰宅するとすぐに帰って行き、今は眠っている蓮と朱莉の2人きりである。今夜のメニューは湯豆腐に鶏むね肉
last updateLast Updated : 2025-05-07
Read more
PREV
1
...
3334353637
...
41
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status